ANAを“フライト”させたOracle9i RACの実力

2003/10/15

 全日本空輸(ANA)の新しいオペレーション業務システムが2003年4月にカットオーバーした。ANAのオペレーション業務システムは、これまで個別最適を追求した結果、システムが乱立。そのシステムを統合し、情報共有を実現したのがオラクルのOracle9i Real Application Clusters(RAC)とヒューレット・パッカードのサーバだった。ANAのIT推進室 IT企画グループ 氏川剛志氏はオラクルとHPが主催したイベント「REAL APPLICATION CLUSTERS SUMMIT III」で講演し、「生産性が向上し、運用管理や保守のコストが大きく削減できた」とシステム刷新のメリットを述べた。

全日本空輸 IT推進室 IT企画グループ 氏川剛志氏

 航空会社におけるオペレーション業務は、気象や航路、飛行計画、運航状況などの運航管理や顧客対応、運航乗務員の体制など幅広い情報を管理する。ANAでは羽田空港内にオペレーションコントロールセンターを設置して24時間365日の体制で運航を監視している。

 オペレーション業務はこれまで、メインフレームやオープン系サーバなど30近くのシステムで運用。しかし、業務別にシステムを構築してきたためにシステムが乱立し、データ、機能の重複や煩雑な管理、操作方法の不統一など問題が出てきた。そのためANAでは2000年問題でのシステムの確認をきっかけに、「全システムを串刺しにする共通基盤システム」(氏川氏)の構築を決めた。目的はオペレーション業務に必要な情報を統合し共有できるようにすること。メインフレームで運用しているシステムを、将来的にオープン系システムに移行できるような設計も開発要件に含まれている。氏川氏によると、メインフレームは技術者の確保も難しい状況になりつつあるとう。

 共通基盤システムは、今後のオペレーション業務システムのベースとなるため、ソフト、ハードの選定を慎重に進めた。求められる条件は、24時間365日運用に耐えるクリティカル性能と、オープン系システムでのコストメリット、今後の拡張性などだ。これらの条件を満たすベンダとして名前が挙がったのがオラクルとHP。システムはOracle9i RACとHPサーバが選ばれた。氏川氏は「ANAのわがままを聞いてくれたのがオラクルとHPだった」と説明。「技術的に可能だというだけでなく、“Oracle9i RACでできる”といってくれたのがオラクルとHPだった」と述べた。

 システク構築はANAグループの全日空システム企画(ASP)を中心にHPとオラクル、NTTソフトが担当。2002年10月から2003年3月にかけて開発した。中心となるデータベース部分にOracle9i RACを使い、別にアプリケーション・サーバとEAIサーバを立てた。ANAで「PELICAN」と名付けたデータベース部は、4ノードの3インスタンス構成。業務の基本情報や運航情報、客室乗務員の情報を収めているが、将来的にデータベースを水平方向で拡張できるようにしているという。

 刷新したオペレーション業務システムは2003年4月に稼働。氏川氏はOracle9i RACを使った効果として、「これまでデータベースの障害復旧には分単位の時間がかかっていたが、秒単位に短縮された」と説明。パッチを当てる際にも短時間のシステム停止で済むようになった。また、オープン系システムを採用したことで、サーバやデータベースの今後の拡張も容易になった。業務面では基軸となるデータを各システムで共有化したことで、生産性が向上。氏川氏は「システム間の接続にこれまで1000万円かかっていたのが、データ共有で3分の1になったようなもの」と例を挙げた。

 氏川氏はシステムの設計、実装に際し、「4ノード、3インスタンスのデータベースでは、インスタンス間のキャッシュ・トランザクションの低減と、負荷を平準化するためのアクセス分散に気をつけた」と説明。「技術陣には苦労してもらった」という。

 共通基盤システムに続き、10月には新しい客室乗務員系システムが稼働。運航管理システムも2004年下期に稼働させる予定で、約30のシステムを順次、共通基盤システムに対応させていくという。

(垣内郁栄)

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