途上国と先進国が激突した“インターネットガバナンス”問題

2004/1/30

 インターネットは誰が管理すべきなのかという“インターネットガバナンス”の問題をめぐって、2003年12月にスイス・ジュネーブで開催された「世界情報社会サミット」(WSIS)では、途上国と先進国が激突した。それぞれの思惑があり、議論は長引きそうだ。日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が主催したWSISの報告会で、WSISに参加した総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部(前データ通信課 調査官)山田真貴子氏が対立の概要を説明した。

総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部(前データ通信課 調査官)山田真貴子氏

 WSISは国際連合が主催し176カ国、約2万人が参加した。国際電気通信連合(ITU)が準備を主導。54カ国の政府首脳、83人の情報通信大臣などが参加し、日本からは麻生太郎総務相が参加した。

 山田氏によると先進国、途上国の対立の中心は、現在ICANNが行っているインターネットの管理がこのままでいいのかということ。ICANNはドメイン名やIPアドレスの配布、ルートサーバの管理などを行っているが、中国、ブラジル、南アフリカなどの途上国側は、ICANNが米国カリフォルニア州の非営利法人で、米政府の影響下にあると主張。インターネット管理のうち、技術的問題を除く政策的な問題はICANNから切り離し、ITUなどの政府間組織に移管することを訴えた。途上国側は合わせて米国に集中するルートサーバを分散させることや、ICANNのIPアドレスの割り当てが途上国にとって不公平であることなどを主張した。

 米国、カナダ、オーストラリア、欧州各国、日本などの先進国側は、「これまでと同じ民間主導を堅持すべき」として途上国の主張に反対。急速な技術革新が進むインターネットを管理するには、柔軟な体制で効率的に作業を進められる現在のICANNのあり方がベストというのが理由。また、インターネットガバナンスの問題については、技術的問題と政策的問題を分けて議論することは難しく、政策的問題だけを政府間組織へ移行することは困難と主張した。日本も「民間中心の枠組みはうまく機能している」として途上国側の主張に反対した。

 途上国と先進国の議論は平行線をたどり、WSISでは結論を出すことができなかった。今回は政府関係者だけの議論だったこともあり、WSISの基本宣言では、国連事務総長に対して各国政府、民間団体などの幅広い参加の下でインターネット管理に関するワーキンググループを設置し、2005年までにその結果を報告することを要請することだけが合意された。つまり「先送り」(山田氏)だ。

 途上国側の主張には、米国が利益を独占しているように思えるインターネットの管理を各政府に移管させ、自国内のインターネットを流れる情報をコントロールしたいという思惑が透けてみえる。一方、先進国側にはうまくいき始めたインターネット関連のビジネスに悪影響を与えたくないという思惑がある。WSISの第2フェイズは2005年11月にチュニジアで開催される予定だが、インターネットガバナンスを議論するためのワーキンググループについては、「どの組織が事務局を設置するかも決まっていない」というのが現状で、議論が発展的に進むかは不透明だ。

(編集局 垣内郁栄)

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