デブサミ2004、「10年後も世界で通用する技術者であるために」

2004/1/31

 Developers Summit 2004(主催:翔泳社、通称デブサミ2004)が1月29日と30日の2日間にわたって行われた。テーマは「10年後も世界で通用する技術者であるために」。日進月歩で進化するIT技術をいかに自らのキャリアパスに役立てていくか。IT技術の動向は、ITエンジニア1人1人の未来と密接にリンクすると同時に、日本のIT産業の未来の行く末をも占う重要な情報である。

ITSSの導入でSEのリストラが加速する

 エンジニアの個人スキルに関して、現在注目を浴びているスキル標準として「ITスキル標準(ITSS)」がある。「ITSSはITベンダだけでなく、人材派遣業界の間でも大きな注目を集め、導入する企業が増えている」。システム・テクノロジー・アイ代表取締役社長の松岡秀紀氏は、デブサミ2004のセッションでこう語った。

システム・テクノロジー・アイ代表取締役社長の松岡秀紀氏

 経済産業省が策定したITSSは、エンジニアがさまざまなIT関連のサービスを行う際、それらの提供に必要な実務能力を体系化した指標である。ITSSはエンジニアに必要なスキルレベルを明確にする試みとして喧伝(けんでん)されたが、最近は人材マーケットにおいて新たな“市場価値測定のモノサシ”として活用され始めている。

 人材派遣会社はITSSのスキルレベルでエンジニアを分類して派遣単価の交渉に入る。ITベンダは必要な人材を募集する際、スキルレベルを明確にして人材派遣会社に要求する。いままで技術者のスキルレベルは資格や業務年数などで評価するほかなかったが、ITSSはスキルレベルを定量化できるので両者にとって導入のメリットが大きい。

 こうした状況に直面し、スキルレベルを定量的に評価されるエンジニアの思いは複雑だ。「昨年弊社のITスキル診断サービス『iStudy Skills for ITSS』のユーザーSEにヒアリングしたところ、ITSSによる評価軸が社内や人材マーケットで浸透し始めており、当事者のSE自身も大きな危機感を持っていることが分かった」という。

 彼らが経営陣に抱く不安は3つある。「SEは直接経営にインパクトを与える人材ではない」「自らの価値を(経営陣に)理解してもらえない」「工数や頭数論でしか評価してもらえない」などというものだ。

 実際、日本のITエンジニアの7〜8割はITSSで定義されるレベル2〜3にいる。このゾーンには中国やインドなど人件費の安い技術者が続々と進出している。「中国ではITスキルと日本語を学べる専門学校が大盛況をみせている」というのだ。

 否が応でも、今後彼らとの仕事の奪い合いが白熱するわけだが、オフショア開発などの国際分業が進展する中、日本のITエンジニアがいつまでも優位を保てるという保証はない。いままで明確なスキルビジョンを描いていなかった人にとっては、過酷な現実が待ち構えているといえるだろう。

 スキルレベル4以上の人材であれば市場価値は高く、よい条件で転職することもできるかもしれないが、逆に何年も2〜3レベルに位置する人は、プロジェクトマネージャやITコンサルタントなどへのポテンシャルを見限られてしまう恐れもある。もっといえば“リストラ人材測定のモノサシ”になることさえも予測できるのだ。

 「『iStudy Skills for ITSS』でプロジェクトマネジメントのサービスを利用している人のスキル診断結果を見ると、ヒューマンスキルのポイントが総じて低い。特にネゴシエーションスキルの低さが目立つ。プロマネの業務は顧客交渉や予算折衝などが多く、交渉術は必須のスキルであるのだが……」

 経済産業省は3月に組み込みエンジニア向けのITSSを策定するが、それですべての技術系職種が網羅されるわけではない。いまの会社がITSSで定義されているスキルレベルを磨ける環境でないと判断すれば、それはそのまま「転職」の動機付けにもなる。お役所がつくったITSSは当初の狙いを超え、いまや人材流動化のフックになるだけでなく、エンジニアの二極化を加速させる“新基準”となりつつあるのだ。

 技術のセッションにおいて、データベースのカテゴリが設けられているのは、現在この分野が劇的な変化を遂げようとしている渦中にあるからかもしれない。

リレーショナルDBは遅すぎて……という日が来るか

 デブサミ2004で講演を行ったインターシステムズ 上級コンサルタントSE 佐藤比呂志氏は、同社のデータベース製品「Cache」のRDBに対する優位性について、Webサービス開発の例を取り上げて次のように語った。

インターシステムズ 上級コンサルタントSE 佐藤比呂志氏

 「BtoBのシステムで扱うデータは、RDBとはマッチしにくい複雑な構造を持つことが多い。例えば商品の受発注をとっても、その商品を構成する部品の情報を詳細に保持するとなると、デザインパターンでいうところの“コンポジットパターン”で表されるようなデータ構造を取る。これを無理に2次元のテーブルにマッピングすると、検索時に何重にもテーブルの結合を必要とし、結果的にパフォーマンスに大きな影響を与えるだろう」

 コンポジットパターン型のデータとは、単一の部品と複数の部品からなるアセンブリ部品で構成されたデータを指す。アセンブリ部品の中にはさらに単一の部品とアセンブリ部品があるといったように、階層型のデータとして表される。

 「このように入れ子状態になったデータをRDBに格納すると、検索時にテーブル結合のオーバーヘッドが掛かるし、開発時にもスキーマ設計やインデックス作成に多くの工数を要するだろう」と佐藤氏は語り、XMLデータを基盤とするWebサービスとRDBの相性の悪さを指摘した。

 Cacheは多次元データエンジンをコアに持ち、XMLやJavaといったオブジェクト用のインターフェイスとSQLインターフェイスを備えた、いわばマルチ・インターフェイスなデータベースである。データスキーマはCache独自のオブジェクトで定義し、SQLによる問い合わせが可能になる。さらに、新規にクラスを作成する際にWebサービスのインターフェイスを継承するとSOAPプロトコルによる入出力が提供され、XMLインターフェイスを継承すればXML文書をシームレスに扱える。RDM的に見ればクラス名がテーブル名、クラス変数がカラム、クラス内に定義したメソッドはストアドプロシージャとなる。同じデータをJavaのようなオブジェクト指向言語のクラスにマッピングして、オブジェクトとして操作してもいい。

 一見すると捕らえどころのない新種の製品に思えるが、前バージョンも含めて20年以上の歴史を持ち、米国の医療業界では広く認知されているという。インターシステムズの日本法人設立は2003年で、海外での実績をアピールして日本市場に本格的な参入を目指す方針だ。

 上述のセッション内容は全体の一部に過ぎず、実際には「開発プロセス」「.NET」「XML/Webサービス」「システム管理・バックアップ&ストレージ」「データベース」「J2EE」といったカテゴリに分けられたセッションが午前10時から午後18時過ぎまでぎっしりと行われた。1月29日19時からは、来日中のアトランティック・システム・ギルド会長 トム・デマルコ(TOM DeMARCO)氏の講演「DeMarco night」が開催、「ゆとりの法則〜アジャイルな組織のシークレット」と題し、自身の著書をアウトラインとしたソフトウェア開発管理の肝を披露した。

(編集局 上島康夫、原田明、谷古宇浩司)

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