元祖デスクトップLinuxディストリビュータ、復活への道のり

2004/8/21

 フランスのMandrakesoftは1998年、3人のフランスの学生が使いやすいLinux環境を作ろうと集まって創立したLinuxディストリビュータ。デスクトップLinuxの「Mandrakelinux」が知られているが、3年前からサーバOSの「Corporate Server/Desktop」を提供、エンタープライズ分野にも進出した。一時は破産申請するなど経営危機に追い込まれたが、今年春に奇跡的に復活。先日は、その「Corporate Server/Desktop」でWindows NTからの移行先を探していた仏設備省の契約を獲得するなど、存在感が増している。

今回、同社CEOのフランソワ・バンシロン(Francois Bancilhon)氏、共同設立者のゲール・デュバル(Gael Duval)氏に、同社のビジネス、デスクトップLinux、オープンソース分野の今後の展望などについて話を聞いた。


――御社の事業内容について教えてください。

デュバル氏 1998年、使いやすいLinuxバージョンをマスユーザーに提供することを目的に創業しました。当時Linuxは知名度を獲得しつつありましたが、まだまだサーバ用途でしか使われていませんでした。このような目標を持ったLinuxは、われわれの「Mandrakelinux」が初めてといえます。

 「Mandrakelinux」はその後、個人ユーザーを中心に急速に支持を集めました。そして、2001年にエンタープライズ版として「Corporate Server/Desktop」を提供することになりました。先日発表した仏設備省以外の政府機関、FranceTelecomや石油大手の仏TOTALなど民間企業と幅広いユーザー層を持っています。

 現在、個人ユーザー向けとしては、価格とユーザーレベルに応じ3バージョンの「Mandrakelinux」、企業向けとして「Corporate Server/Desktop」を用意しています。

 製品提供のほか、オンライン事業として、アップデートやディスカウントなどのメリットが受けられる「Mandrake Linux Users Club」、最近は企業向けのオンラインサポート「Mandrakeonline」も開始しました。

――御社は昨年の2003年1月に破産申請をし、今年3月に脱却しました。現在のビジネスモデルについて教えてください。

2002年末にMandrakesoftのCEOに就任したフランソワ・バンシロン氏。「誰もが滅びるだろうと思っていた(苦笑)」。その後、2年かけて同社を立て直した

バンシロン氏 経営危機に至ったのは、創業以来急速に拡大し、ベンチャーキャピタルの指示の下でマネージャなどのプロフェッショナルを大量に採用しすぎたのが大きな原因でした。多いときには150人いた従業員を65人に減らすなどコスト削減を行いつつ顧客を維持し、戦略面では企業市場に拡大させて、徐々に体力を回復しました。仏では破産法申請した企業の95%以上がそのまま破産することから、まさに奇跡的な脱出を遂げたといえます。

 オープンソースを事業とする企業は米レッドハット、米ノベル下のSuSE、米JBossなど、さまざま存在していますが、それぞれビジネスモデルが異なります。

 われわれの9割以上の収入は製品の販売によって得ています。その大部分はコンシューマ製品からですが、現在企業向け事業は急速に成長しています。この分野に力を入れるにあたり、サポートやサービスを強化中で、将来的にサポートが収益に占める比率を4割程度まで持っていきたいと考えています。

 われわれはオープンソースの精神に忠実でありたいと思っています。製品の無償版と、ソフトウェアをパッケージした有償版を提供しています。レッドハットもSuSEも、無償版を提供していませんが、われわれは今後も有償版と平行して無償版の提供を続けます。

――デスクトップLinuxに注目が集まっていますが、本格的なLinuxのデスクトップ進出は起こるのでしょうか?

バンシロン氏 起こります。いつ、どのくらいになるかは分かりませんが、確実な流れです。

 コスト削減が大きな動機となるでしょうが、そのほかにもさまざまな要因があります。まず、数年前と比較して技術が成熟してきたこと、Linuxはサーバ分野で信頼性、堅牢性が実証され、確固たる地位を築いたことがあります。信頼性は問題ではなくなりました。また、顧客がマイクロソフト以外の選択肢を求めているのも重要な背景です。

デュバル氏 まずマスユーザーがLinuxという選択肢が存在することを知ることが必要です。それ以外の点では、利用できるアプリケーションの数だと考えています。いま現在、LinuxとWindowsのアプリケーション数を比較すると、Windowsの方が多いです。これが逆転したとき、Linuxがメインストリームになるでしょう。

――デスクトップに限らず、Linuxが普及するのに何か障害はありますか?

バンシロン氏 ユーザーの意識の問題だけです。ポイントは、トップが移行の決断を下し、プロフェッショナル企業とともに明確な目標と計画を立てて実現することです。

――御社のライバルは? Linux業界の再編が進んでいますが、生き残るにあたって御社の強みは何でしょうか?

バンシロン氏 (ライバルは)マイクロソフトです。さらに挙げるならばレッドハットでしょうか。

デュバル氏 強みは、われわれはオープンソースであるということです。われわれはLinuxやApacheなどのオープンソースを強化して提供します。これは、プロプライエタリなマイクロソフトと比べて貢献(参加)する開発者が多く、修正や改善を重ねることにより、製品の信頼性、堅牢性が強化されることを意味します。つまり、マイクロソフトより高品質なものを低価格で提供できるということです。

バンシロン氏 例えば、われわれの製品は68言語に翻訳されていますが、この翻訳作業は約100名の人がボランティアで行ってくれました。この精神が、エンタープライズ版へ発展し、完成へと至ったのです。

デュバル氏 技術的には、使いやすさや先進技術をいち早く取り入れる点などで競争力を維持します。最新版の「Mandrakelinux 10」では、最新のカーネル2.6.3をベースにしています。容易なインストールのほか、KDE 3.2、GNOME 2.4、Samba3、独自の一貫性のある人間工学デスクトップ技術であるMandrakegalaxy IIなどをサポートしています。特徴としては、性能や拡張性の強化、ファイルシステムではSerial ATA、USB2、IEEE 1394などの標準をサポートしリアルタイムでのデータバックアップを実現します。

 われわれの製品が世界的に受け入れられていることはLinuxディストリュビューションに関するWebサイトのページヒットランキングで1位にランキングされていることからも明らかです。今後もオンラインサービスをてこに、さらに世界的に展開していきます。

 同社は9月中旬に「Mandrakelinux 10.1」を、9月末に「Corporate Server & Desktop」の最新版をリリースする予定だ。

(末岡洋子)

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