[Interview]
日本に根付くか、セールスフォース・ドットコムのASPモデル

2004/11/13

 企業相手のASPで順調に成功を収めるCRMベンダの米セールスフォース・ドットコムは、2004年9月時点で1万2000のユーザー企業と、19万8000人の登録ユーザーを抱えている。解約者もほとんどなく、順調に新規ユーザーを積み増しており、近年IPOを成功させた企業の中でも、最も注目すべき成長企業の1つといえるだろう。

 今回は、同社会長兼CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏とワールドワイド全体のセールス部門を統括する同社社長のジム・スティール(Jim Steele)氏に、同社の日本戦略やASPのメリットについて話を伺った。


――「ソフトウェアの時代は終わった」というのがセールスフォース・ドットコムのセールス・トークとなっていますが、ASPのようなサービス型のアプリケーション・サービスは日本に根付くのでしょうか。

ベニオフ氏 「カスタマイズにこだわる風土」や「アウトソースに抵抗感」という日本の特性はよく理解している。前職のオラクル時代から日本との付き合いがあり、セールスフォースの日本法人は米国本社とほとんど同時に設立されたくらい、日本市場は大事に考えている。Sforce 5.0をベースとした「オンデマンド・アーキテクチャ」構想は、まさにそれらの疑念を払しょくするものだ。独自仕様にこだわるユーザーを納得させるカスタマイズ性の高さは、セールスフォース最大の強みの1つだと考えている。また、NTTドコモのiモード・ブームにみられるように、以前ほど日本のユーザーがASP型のサービスに抵抗感を見せなくなっているように感じる。

――なぜASPという形態にこだわるのでしょうか。

ベニオフ氏 従来のソフトウェア・モデルでは、企業によって導入しているアプリケーションのバージョンが異なっていたり、国によってリリース・タイミングに違いが出てくるという難点があった。ASPでシステム運用を一本化することで、アプリケーションのリリースをすべてのユーザーに対して一斉に行うことが可能になる。これにより、世界中のどのユーザーでもつねに最新のアプリケーションが利用できる。企業規模によるアプリケーションの違いもない。世界的な1万人以上の従業員を抱える企業から、社員数人程度の零細企業まで、共通のアプリケーション環境をシェアできる。「best-of-breed」というのは、すべてのユーザーが成功体験を共有できるという意味でもある。

――実際に導入したユーザーから「ASPでよかった」という声は聞こえてきますか。

米セールスフォース・ドットコム 社長 ジム・スティール氏

スティール氏 キッコーマンをはじめ、日本で導入いただいたユーザーから「展開が速くできた」という声をもらっている。より早い成長を望む企業ほど、展開の速さと効果に対して敏感だ。これこそが、まさにセールスフォースが考えるASPの真の姿である。従来のソフトウェア・モデルであれば、このような形での即座の導入は不可能だ。システムを構築している間に、情勢や要件はどんどん変化していってしまう。

 また、ユーザーからの意見でどんどんアップデートが進むというのも、セールスフォースの魅力である。うるさいユーザーの意見を聞くほど、アプリケーションの改良がどんどん進む。これがアップデートに反映されることで、それほど要件にうるさくないユーザーでも、次回のアップデートで鍛えられたアプリケーションの利用が可能になる。これがCEOのベニオフ氏がいう「成功体験の共有」ということだ。

――特定の分野にフォーカスした戦略を打ち出すことはないのですか。

スティール氏 セールスフォースの強みは、あくまで「すべてのユーザーに等しく、使いやすい共通環境を提供する」というユーティリティ・コンピューティングの理念に則ったものであり、特定の業界や分野に偏るということはない。あくまでCRMを中心に、営業マンの支援を続けていきたい。それ以外の分野については、Sforceの共通インフラでSAPなどのほかの環境と連携していく方向で考えている。

――SAPやシーベル、マイクロソフトなどとの競合をどうとらえていますか。

スティール氏 SAPやシーベルは、あくまで大企業を相手としたビジネスが基本にあり、小中規模(SMB)を相手にしたビジネスに慣れていない。CRMに注力し、すべてのユーザーに共通環境を提供できるセールスフォースとは競合しにくく、仮に競合しても、現在の姿勢を崩さない限り勝てると考えている。マイクロソフトについては非常に強敵だとは考えているが、まだサービスとしての信頼性がない。いまのところ、負けることはないと考えている。それに、彼らはあくまでソフトウェア業界の企業にすぎない。その点で、ASPのわれわれとは世代そのものが違う。

――今後、日本市場に向けて特に強化していきたいことはありますか?

スティール氏 アプリケーションのワイヤレス対応だ。米国では、RIM(Research in Motion)のBlackBerryのようなメール端末に人気があり、実際に提携も行っている。だが日本にはすでに携帯電話のようなサービスが発達しており、人々はiモードなどを積極的にビジネスに活用している。まだ発表できる段階ではないが、日本の通信キャリアたちとすでに話し合いを進めており、今後なんらかの形で携帯電話などを利用した新しいサービスが発表できるようになるだろう。

(鈴木淳也:Junya Suzuki)

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