インド企業の進出で国内プログラマに「厳しい生存競争」

2004/12/14

 「インドのIT企業は5年後、日本市場のメジャーなプレーヤーになっている」。野村総合研究所の金融プロジェクト推進部 上級システムコンサルタント 蛭田智彦氏は、欧米企業のオフショア開発を中心に成長を続けるインドのIT企業についてこう説明した。

野村総合研究所の金融プロジェクト推進部 上級システムコンサルタント 蛭田智彦氏

 インドのオフショア開発は米国でのITバブルが崩壊した2000年以降、インド人のエンジニアが米国から帰国し活発化。インドのPolaris Software LabがCMMI Level 5認定を世界で初めて受けるなど高い技術力、生産力、低コストが評価され、開発の受託が急増している。マイクロソフト、オラクルなどの大手ベンダがインドに現地法人を作ったこともあり、欧米への輸出が増加。年間の成長率は10〜50%におよぶ。

 蛭田氏が指摘したインドのIT企業の強みは英語力、人材、技術力、高品質、低コストなどの総合力で他国の企業を圧倒していること。CMMI Level 5に認定企業は2003年12月で65社。また、全輸出のうち60%以上が米国向けで、米国との強い連携が特徴。インドの政府や大学が強くバックアップしていることも競争力を高めている。蛭田氏が説明した米国金融機関の事例によると、インドのオフショア開発の活用は、金融機関にとってノンコア事業となるアプリケーション開発や保守、テスト、マイグレーションなどが中心。米国金融機関の関心は「インドのオフショア開発を利用するか否かから、どのように最適なソーシングルをするかに移っている」という。

 ソフト開発を依頼するユーザー企業側はどのようにインド企業のオフショア開発を利用すべきなのか。蛭田氏はインドのオフショア開発に適した領域として、組み込みソフトや通信制御ソフト、ERP、CRMのインプリメンテーション、企業向けソフトのマイグレーションなどを挙げた。対して、コミュニケーションの問題などからユーザー企業との調整が必要な開発や要求仕様が固まっていない開発などには適さないと説明した。

 日本のIT企業にとって脅威となるのはインドのIT企業の豊富で優秀な人材。現在では日本企業のオフショア開発を行っているインドのプログラマは4000人程度と想定できる。日本企業のインドオフショア開発の成長率は2002年から2003年にかけて330.8%と驚異的な伸び。仮に今後もこの330.8%の成長率が続くとしたら3年後には日本企業のオフショア開発を担当するインド人プログラマは14.4万人となり、日本の2003年当時のプログラマの数と並ぶことになる。蛭田氏は「インドの4倍強の規模となる中国へのオフショア開発を考慮すると、国内のプログラマは非常に激しい競争にさらされるのは必至」と指摘している。「近い将来、大手システム・インテグレータを脅かす存在となるポテンシャルは十分」という。

 さらに日本のIT企業の多くは、顧客から低コストや高品質、リスク軽減など多くのことを求められている。インドのIT企業は欧米の顧客の開発を手がけてきた経験から高い設計力、技術力、品質管理手法などを持っているとされ、日本企業の脅威となる。蛭田氏は「コンピテンシーを持たないソフトハウスは価格競争化で淘汰(とうた)される。特にプログラマの生存競争は激しくなる」と指摘。今後の日本のIT企業が目指すべき方向性として、ものづくりなど日本人の強みを確立する研究を進めることや、人材育成、それぞれの企業でのコンピテンシーの確立などを挙げた。

 そのうえで蛭田氏は、「日本のIT企業はニアショア、オフショアを含めたベストソーシング戦略の策定が重要。最適なアウトソースを実現し、自社の競争力とする」ことが生き残り戦略になると述べた。つまり、自社の強みとインドのオフショア開発の強みを組み合わせて最適なアウトソーシング戦略を顧客に提案することが重要となるのだ。日本のIT企業の強みは要求仕様が不明確な案件でも顧客とコミュニケーションを行って開発していくシステム設計力、一方、インドのIT企業は要求仕様が明確になっている案件について「驚異的な生産性」を発揮するという。蛭田氏は「日本・インドのコミュニケーションを円滑にするためのブリッジ機能の獲得が今後要求されるだろう」と述べた。

(編集局 垣内郁栄)

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