変わるSAP、パッケージと手作りの融合で業種別対応力を強化

2005/4/27

 SAPが大きく変わった。変化のはじめは2003年。「SAP NetWeaver」をSCMやCRMといった各業務アプリケーション開発のための統一基盤として発表したのが2003年3月。これ以降、クライアント/サーバ型の統合業務パッケージ「R/3」のアーキテクチャを抜本的に見直し、サービス指向アーキテクチャ(SOA)として構築し直した「mySAP ERP」に刷新するなど、同社のビジネス戦略の枠組み自体が大きく変貌することになった。

SAPジャパンのバイスプレジデント ソリューション統括本部長の玉木一郎氏

 同社の変化はもちろん、市場の要請に合わせたものだ。それは技術的(Webアーキテクチャの普及など)な要請に加え、顧客企業の業務アプリケーションに対するニーズの変化もある。SAPではこの辺りの事情を分析し、以下のように分かりやすく説明した。

 かつて、SAPが捉えていた市場をフラットな正方形とすれば、1990年代後半以降の市場のカタチは、正方形のカタチ自体は変わらないが、企業規模と業種で細分化されるようになった。このような市場の変化は、ITの活用に習熟した市場全体の傾向が反映されている。

 以前は、ITが先にあり、企業の戦略はITに合わせるものが主流だった。このような時代では、R/3のような巨大パッケージを企業が導入し、自社のビジネスプロセスをR/3に合わせるという事態も許容されていた。しかし、1990年後半から、ITは企業の戦略を有効に生かすための道具としての位置付けが強まってきた。すると、企業戦略を策定し、業務システムを戦略に合わせながら開発するというように発想が逆転する。SAPが主力製品のアーキテクチャを見直し、さらに、業種ごとのビジネスシナリオをもとにしたコンポーネントの組み合わせを提供するという転換の背景にはそういう事情がある。

 ここでいうコンポーネントの組み合わせというのは、SAPジャパンのバイスプレジデント ソリューション統括本部長の玉木一郎氏が2004年5月20日に述べたコメント、すなわち「ERPパッケージは、注文住宅で一軒の家を建ててきたこれまでのシステム構築をプレハブ工法にした。NetWeaver後の世界はさらにオープンになり、都市設計をモジュール化して、その中で個別の家の設計を考えることができる」のように表現できる。

 そもそも、MVCの三層構造によるWebアプリケーションのフレームワークは、開発の基盤部分を共有し、ニーズに合わせてソフトウェアの部品(コンポーネント)を組み合わせながらシステムを効率的に組み上げていくことを目指して考案されたものだ。SAPは、独自ミドルウェア「SAP NetWeaver」を開発して自社製品で新たな業務システム開発のためのエコシステムを構築する一方、.NET環境およびJ2EEといった標準的なミドルウェアとの連携を目指す動きも行っている。

 SAPのこのような“大枠”の戦略策定が実際的な面(製品面、世界各地の拠点での体制など)で安定し始め、2005年になってようやく、各業種別の取り組みが行えるようになったというわけだ。

 ところで、日本企業の基幹システムは、いまだに“手作り型”が多いといわれている。国内のシステムインテグレータ各社がいま関心を持っている分野に、「要求開発」という作業があるが、これは、顧客の要求を的確に受け取り、“手作りシステム”の工程の効率性を上げようという試みである。業務ソフトパッケージを活用するシステムインテグレータが多いのも事実だが、SAPが認識しているように、企業規模が大きくなればなるほど、企業独自の戦略に基づくさまざまな要件が増える傾向にあり、パッケージではなかなか対応できない。SAPのアプローチは、ビジネスフローを定型化するというパッケージの利点を生かしつつ、カスタム開発の要素も組み込むことで、ビジネスモデルの変化を狙っているものだ。同社としては、国内の“手作り”システムインテグレータをパートナーとして迎えることで、市場規模を拡大していきたいという思いも持っている。

(@IT 谷古宇浩司)

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SAPジャパン

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