ITIL執筆者が語る「ITIL VS 現場のヒーロー」

2005/8/5

 情報システム運用管理のベストプラクティス集「ITIL」の執筆者で、世界的なサポートグループ「itSMF」を創設した米コンピュータ・アソシエイツのITIL実践マネージャー ブライアン・ジョンソン(Brian Johnson)氏が7月末に来日し、ITIL導入を成功させるための秘けつを語った。「現場のヒーローをなくせ」がジョンソン氏のメッセージだ。

米コンピュータ・アソシエイツのITIL実践マネージャー ブライアン・ジョンソン氏。itSMF創設者、itSMF終身名誉副会長

 ヒーローとは、情報システムの運用で問題があった場合に現場に駆けつけて問題を解決する人だ。その場、その場で問題を解決するので、ITILを導入しなくても運用管理がうまくいっているように思える。しかし、ジョンソン氏にいわせると、ヒーローが行っているのは「部分最適」。問題の裏には全体のプロセスにかかわる大きな問題が隠れているケースがあり、ヒーローは根本的な解決策になっていないというのだ。

 「ヒーローが駆けつけて現場のプロセスを変えれば、全体のプロセスが変わってしまい、コスト増になる。企業のトップはヒーローが生み出すコストと、ITILで全体最適を行う場合のコストを比較する必要がある」

 ITILの導入に必要なのは企業トップの強いコミットメントだ。「ITサービス・マネジメントの目的はITとビジネスの歩調を合わせること。変革によってビジネスメリットを出す」(ジョンソン氏)。ただ、いくらトップが旗を振ってもITIL導入の痛みを感じるのは現場のユーザーだ。先行きの見えない中で、IT部門がITIL導入を強行すると現場に反発が起きる可能性がある。

 ジョンソン氏はITIL導入をスムーズに進めるためには「ITIL導入を支持してくれる社内のスポンサーに対してROIなどビジネスのメリットを早期に示すことが重要」と話した。ITIL導入の早い段階でコスト削減やサービスレベルの向上などITIL導入の結果を明らかにすることで「より強い支持を得られるようになり、現場の理解も得られる」(ジョンソン氏)という。

ジョンソン氏は来日中、各社のITILインストラクターとの朝食会に参加し、意見を交換した

 ジョンソン氏によると、今後12カ月以内に公開される予定のITIL Ver.3では、ITILの具体的な成功事例が紹介されるという。コスト削減などITILのメリットが記述される予定で、導入を検討する企業が実際の効果を理解できる。

 ITILにとって次の課題は日本など非英語圏への浸透だ。英国生まれのITILは欧米の英語圏を中心に発展し、欧州では広く利用されている。しかし、アジアや東欧での利用はまだまだ。ジョンソン氏が問題視するのがITILの資格認定試験。ジョンソン氏は「日本やチェコの人が英語の試験を受けるのが当然と考えるのは無理がある」として「その土地の人間が試験官、採点者となってその土地の言葉で試験を行うのが国際化の解決になるだろう」と述べた。「将来を推測するとそれぞれの国でローカルのITILが出てくることもあり得る」

(@IT 垣内郁栄)

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コンピュータ・アソシエイツ
itSMF Japan

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