IT業界の5年後を占うキーワード4つ

2005/8/31

 今後5年で企業のIT戦略に大きな影響を及ぼすものは何なのか――――。8月30日に行われた第16回 ITRエグゼクティブ・フォーラムにおいて、アイ・ティ・アール代表取締役の内山悟志氏とテックバイザージェイピー 代表取締役の栗原潔氏は近未来のITトレンドを占うテーマで公開討論を行った。共にかつてはガートナージャパンに籍を置き、アナリストとして活躍したという共通のバックグラウンドを持つ。机を並べて働いていたこともあったが、「このような形で議論をするのは初めて」と栗原氏は苦笑した。

アイ・ティ・アール代表取締役 内山悟志氏

 企業のIT戦略を左右する重要なキーワードとして2人がピックアップしたのは「ユーティリティ・コンピューティング」「ユビキタス」「サービス指向アーキテクチャ(SOA)」「無線タグ」の4つ。これらのキーワードが指向するであろう技術の方向性に議論の余地はない、という点で両者の意見は一致した。問題はこれらの技術がいつの段階で企業のIT戦略に現実的な影響力を及ぼすことになるのかという点、そして、企業はどのような対応に迫られるのか、という点だ。

 例えば、ユーティリティ・コンピューティングについては、2007年に利用実績ベースの課金が実現、2008年にはグリッドや自律コンピューティング技術などの成熟化が実現すると内山氏がロードマップを示した。ユーティリティ・コンピューティングの一般的な概念は、システム・リソースを電気や水道のように巨大なリソースプールから提供し、利用した分だけ課金するというもの。ユーティリティ・コンピューティングを実現する基盤技術は実用段階のレベルにまで進化しつつあり、内山氏が示したロードマップは大枠を外れることがないように思えるが、栗原氏は、ユーティリティ・コンピューティングに対応できる企業の組織構造の変化や企業慣習の変化がどこまで進むかが問題だと指摘した。

 また、「ユビキタス」を示す具体的な動きとして、栗原氏は「コンピュータの『見えない化』」「常時オンライン(“Always On”)」「データの意味の標準化(セマンティック・コネクティビティ)」を挙げる。栗原氏はユビキタス社会を、コンピュータが人間に奉仕する人間中心型の社会と定義しており、ITが電気のような存在(ユーティリティ)になることで、このような社会が実現するとしている。ただし、ITがユーティリティ的な存在になった場合、サービスを提供する企業間に競争を誘発するほどの差別化が生み出せるかどうかという懸念が残る。つまり、電話会社や電力会社、ガス会社といった社会基盤を提供する企業の寡占化状態がIT業界にも到来するのではないか、という懸念だ。しかし、栗原氏は「IT=電気ではないし、良質のIT基盤は依然として企業の差別化要素」であるという。このことは、米Harvard Business Review誌に掲載されたNicholas G. Carrによる「IT Doesn't Matter」という論文の反論でもある。

(@IT 谷古宇浩司)

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アイ・ティ・アール

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