サービスに科学を導入する、サービス・サイエンス最前線

2005/9/10

米IBM アルマデン研究所のJames Spohrer氏

 米IBM アルマデン研究所のジェームズ・スポーラー(James Spohrer)氏が来日した。同氏はIBMが1993年に設立したService Science(サービス・サイエンス)の研究部門Service Research Groupを率いる人物だ。設立当初9人だった(Service Research Groupの)スタッフは2年半で60人に増員。直近では中国にService Innovation Centerを開設するなど、IBMのサービス・サイエンスに対する取り組みは加速している。日本でも9月8日、東京基礎研究所が8大学、9企業を招いて「サービス・サイエンス・シンポジウム」を開催した。

 サービス・サイエンスという聞き慣れない学問分野が注目され始めたのは、2004年12月、米国競争力委員会(Council on Competitiveness)における最終答申だった。議長役を米IBM CEO サミュエル・パルミサーノ(Samuel J. Palmisano)氏が務めたことから通称「パルミサーノ報告」と呼ばれているこの報告書(「Innovate America:Thriving in a World of Challenges and Change」)では、技術革新を基盤とした経済構築を行うための具体的な政策提言が行われている。

 製品開発における技術革新が競争力を持ち得た経済環境が終焉(しゅうえん)を迎え、現在では、ビジネス戦略、経営科学、社会科学、認知科学、法律学、およびインダストリアル・エンジニアリングといったさまざまな分野を融合させた総合的なサービス展開が企業の強みを生み出す源泉になっているという認識が一般的になりつつある。IBMはこの新しい学問分野を「サービス・サイエンス・マネジメント&エンジニアリング(SSME)」として確立し、新たな市場創出を行っていくための準備をいち早く開始している。この動きは約60年前、純粋な学問分野に過ぎなかった「コンピュータ・サイエンス」の実業界への普及活動にも通じる。

 ところで、ここで問題となるのはサービスの定義だ。スポーラー氏は「サービスという概念には実に多くの定義が存在している」と話すが、IBMには同社独自の定義がある。すなわち、ある組織(企業)に利益のあるパフォーマンスをほかの組織(企業)が行うこと。そのアプローチの中身を構成する要素が前述したようなさまざまな分野を融合する形に変わってきている。サービスの基本構造は「例えば、教師と生徒、医者と患者の関係のように、能力や状態を移行(transform)することにある」(スポーラー氏)。収益の50%以上をこのようなサービスビジネスで稼ぎ出すIBMは「business performance transformation services(BPTS)」というキーワードで、サービスの新たな形態を作り直そうとしている。

 8月30日、日本IBMは組織体制を科学的に評価する技術として「COA(Collaborative Organization Analysis)」を開発し、アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス(IBCS)と協業して、この技術を活用した新たなコンサルティング・サービスを開始すると発表した。組織間で行われる電子メールのやり取り(量や経路)などのコミュニケーションを解析することで、組織体制を科学的に分析するこの技術は、例えば、営業体制の刷新といった組織変更を行う際に発生するコスト、人的労力、時間などの投資の有効性を評価するのに役に立つとみられる。経営学的な観点と社会学的な観点およびコンピュータ・サイエンスの観点を融合して誕生したこのサービスは、サービス・サイエンス研究の1つの成果といえる。

 なお、日本国内では、サービス・サイエンスを技術経営(MOT)の1科目に加える動きがあり10月には、北陸先端科学技術大学院大学で「サービス・サイエンス論」講義(亀岡秋男副学長、教授)が開講する予定。

(@IT 谷古宇浩司)

[関連リンク]
日本IBM
Services Sciences, Management and Engineering
SERVICES SCIENCE:A NEW ACADEMIC DISCIPLINE(pdf)

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