慶應 村井教授、「本格的なオーバーレイの時代が来た」

2005/12/8

◆ オーバーレイの時代

 「Internet Week 2005」の一環として12月7日に行われたIPv6のイベント「IPv6 Technical Summit 2005」において、慶應義塾大学 教授 村井純氏が「インターネット・アーキテクチャの変化とインターネットと社会の関係変化」について講演をした。村井氏はインターネットの技術革新に対する貢献が認められ、インターネット・ソサエティからポステル賞を贈られた。今回の講演は同賞受賞記念という位置付け。

 村井教授は、アンワイヤード・インターネットの進展で、新しい通信の仕方(近くにいるすべての端末に対する一斉通知など)が広まり、「送信先アドレスのない通信のような使い方が広がってルーティング・アーキテクチャなどに変化が起こる」と語った。

 インターネットは、誰もが共有できるデジタル情報の基盤としての性格をますます強めていく。ピア・ツー・ピア(P2P)通信に代表されるように、さまざまなアプリケーションが1つの基盤上で論理的なネットワークを構成する「本格的なオーバーレイ時代が来た」と村井教授は指摘する。このような世界では、グローバルアドレスではなく、サービスベースのアドレスを利用していかなければならない。IPv6はこの目的のために活用されるべきだと述べた。さらに、「インターネットは全世界の人のデジタル情報の基盤となり、地球そのものがコンピュータとなった。人と社会はコンピュータの物差しだ。子供たちの世代のために、新しいアーキテクチャをつくっていかなければならない」と語った。

◆ 公衆無線LANサービスでも本格採用

 IPv6 Technical Summit 2005では、IPv6の利用が静かに広がりつつあることが報告された。

 政府関連では、e-Japan戦略(2006年1月に策定予定)の一部として、電子政府関連で「今後導入するものすべてをIPv6対応とする」という文言が組み込まれる見通しだ。

 NTT東日本では、IPv6による地域IP通信サービス、「FLET’S .Net」を展開しているが、その法人向けサービスとして、多地点マルチキャストデータ配信サービスを提供している。ある全国規模の小売企業では、これを数千カ所の拠点に対する1日数Gバイトのデータ配信システムとして採用したという。

 IPv6は、YOZANの展開するワイヤレスサービスにも使われる予定だ。YOZANの代表取締役社長 CEOである高取直氏は、同社のワイヤレス通信サービスに関するロードマップを説明。12月25日に同社が開始するコンシューマー向けサービス、「BitStand」においてIPv6を利用すると話した。

 BitStandは、WiMAXをバックボーンとした世界初のWiFi公衆無線LANサービス。約1カ月にわたる限定的な運用の後、1カ月当たり約1000台ペースでの基地局設置を開始する。高取氏は、2006年6月末までにWiFi基地局を6000台、WiMAX基地局を1200台設置し、東京23区をほぼカバーする計画を示した。IPv6は2006年1月あたりから、セキュリティを強化する目的で利用するという。「誹謗中傷や改ざんを許さない安心・安全のポータルを提供する。あとはお客様の自己責任で、インターネットを使ってもらう」と高取氏は語った。IPv6は、WiFiアクセスポイントまで利用可能になる。

 YOZANは、電力線通信(PLC)に関する規制緩和が見込まれる2007年秋を目指し、WiMAXとPLCを統合した家庭向けサービスも提供する。「PLCは、IPv6とともに本当のユビキタスを実現できる」(高取氏)。これに続き、同社は2006年7月に、既存のページャ・インフラを用いた「Air Bit Key」サービスも開始する。

 USBキーにページャ機能を持たせ、020番号を用いた着メロの鳴り分けや単方向メール機能を実現する。高取氏は、ページャの基地局が直径10〜20キロメートルをカバーでき、コスト効率のよい面展開が実現すると強調した。「Air Bit Key」は双方向のコミュニケーション・インフラに進化、ユビキタス時代における機械相手の呼び出しに最適なインフラになるという。

(@IT 三木泉)

[関連リンク]
Internet Week 2005

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