「802.11n規格はまだ固まっていない」、エアゴーが警鐘

2006/4/20

米エアゴーのロルフ・デヴェット氏

 次世代無線ネットワーキング規格の802.11n規格で、標準化作業は終わったに等しいとして、同規格への対応をうたったチップセットの出荷を始めるベンダが登場している。しかし、「規格はまだ固まったわけではない。現在のドラフトにはいくつかの修正すべき技術的な問題があり、これらが解決されない限り標準として認められないだろう」とエアゴー・ネットワークスのビジネスデベロップメント担当シニアディレクター、ロルフ・デヴェット(Rolf de Vegt)氏は話す。デヴェット氏はエアゴーの主要メンバーの1人としてIEEEに参加するとともに、Wi-FiアライアンスのTGnマーケティング・タスクグループ副議長を務めている。

 IEEEにおける802.11n標準化作業は、おもに2陣営の対立で議論が滞っていた。しかし、EWC(Enhanced Wireless Consortium)による調整案をベースとした提案内容が2006年1月19日に802.11nタスクグループによって承認後、3月10日には802.11ワーキンググループにより正式採択され、ドラフト1.0として標準化作業の次の段階へと進んだ。

 米アセロスのクレイグ・バラット社長は、1月の提案としての承認直後に日本で行われた記者会見で、「ドラフト(編集部注:正しくは提案)が全会一致で採択されたことからしても、今後重要な仕様変更がなされることは非常に考えにくい」し、最終的な802.11n規格にファームウェア修正で対応できる見通しがあるために「802.11n対応」製品をリリースしたと話した。

 ドラフトは4月29日までの40日間にわたる「Letter Ballot」と呼ばれるプロセスに入った。これは、委員会メンバーの投票とコメントを募集するもの。432のメンバーの75%の同意を得られない限り、次のプロセスには進めない。

 集まったコメントについては、5月に開催されるミーティングで協議されるが、寄せられたコメントが技術的に健全なものであるかぎり、対応することが求められる。

 現在のドラフトについて、エアゴーは主に以下の3つの技術的な問題があると指摘する。

  1. ドラフトでは、必須の20MHzモードに加え、さらに追加で20MHzを活用してチャンネルボンディング(チャンネル結合)を行う40MHzモードをオプションとして規定している。しかし、この場合の追加のチャンネルであるExtension ChannelでCSMA/CA(通信を行う前にチャンネルが空いているかを確認する)を行うことが、現在のドラフトに規定されていない。このため、802.11nアクセスポイントや既存の規格に基づくWi-Fiアクセスポイントとの間で、不要な通信妨害が発生する確率が高い
  2. 2.4GHz帯を用いる現在の802.11b/gでは、一般的な利用形態としてチャンネル1、6、11といったように25MHzの間隔(チャンネル当たり5MHzの間隔×5)でアクセスポイントが設定され、これによって隣接アクセスポイント間の共存が実現している。しかし、ドラフトに規定されたチャンネルボンディングによる40MHzモードでは、基本のチャンネルであるControl Channelと追加チャンネルであるExtension Channelの間隔が20MHzとなっており、802.11b/gの25MHz間隔とのずれによって既存製品の性能劣化が起こりやすくなる
  3. ドラフトでは、802.11n機器のみが存在するネットワーク上でのトレーニングプロトコルとして用意されている「グリーンフィールド・プレアンブル」は、オプションの位置づけになっているが、802.11nデバイス間での干渉を回避するために必須とすべきである

 現在のドラフトに修正されるべき欠点があるとするエアゴーも、2005年3月の採決では、これに賛成票を投じた。しかしデヴェット氏は、「ドラフトの採択は、標準策定作業上、次の段階に進むのに十分だという意味しか持たない。ドラフトになってからさまざまな修正を加えるのはごく一般的な標準化プロセスだ。エアゴーも議論の俎(そ)上に載せ、技術のレビューという重要な段階に進めるという意味で賛成した」としている。

 デヴェット氏は、同社が既存の製品の寿命を延ばすために標準の成立を遅らせようとしているのではないかという見方を否定する。「802.11nにはエアゴーの提案したMIMO OFDMが技術の核として組み込まれているし、802.11nはMIMOにとっても、PC以外の家電や携帯電話端末、企業におけるソリューションなどにおけるビジネスチャンスを大きく広げてくれる。当社が指摘している修正を加えたとしても、2007年中ごろには標準化作業を終了することができると考えている」

 しかし同氏は、「現在の構図は、以前とはまったく異なっている。陣営に分かれた対立はない。あるのは1つ1つの問題について、あるべき姿をどう考えるかということだ。Letter Ballotは政治的な立場を離れ、各メンバーが純粋に技術的な立場からチェックを行い、より完全なものにしていく、すべての802.11ドラフトが通らなければならないプロセスだ。今回紹介したもの以外にもほかのメンバーから主要な技術的課題が提案される可能性も十分ある。確かなのは、ドラフト1.0が採択されたからといって、802.11nの標準化作業が終わったわけではないということだ。現段階の製品が、ファームウェアで最終的な規格に対応できると宣伝するのはIEEEの正規のプロセスを軽視するものであり、Wi-Fi市場の健全な発展を阻害するものだ」と強調した。

(@IT 三木泉)

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