東証トラブルが契機、富士通 黒川社長が「運用回帰宣言」

2006/6/10

 富士通の代表取締役社長 黒川博昭氏は6月9日会見し、運用などのサービスビジネス拡大を柱とする2006年度の事業戦略を発表した。2005年11月に発生した東京証券取引所のシステム障害では、システム構築を担当した富士通側のミスが原因の1つとされた。黒川氏は「東証の障害に関して顧客から一番言われたのは、運用をきちんとしないと開発も何もないということだ。原点に返って運用を見直す」といい、運用などのサービスビジネス強化を表明した。

富士通の代表取締役社長 黒川博昭氏

 富士通のビジネスはシステム構築や運用、保守、アウトソーシング、サーバ、ネットワークなどの「テクノロジーソリューション」事業が中心。2005年度には売り上げの57%、利益の69%を占めた。その中でもSIや運用・保守などのサービスビジネスが売り上げで76%を占める。ただ、サービスビジネスは低落傾向にある。2005年度は国内ソリューション/SIがマイナス2%、インフラサービスが1%の減だった。「国内サービスビジネスの採算向上が富士通の成長には重要」と黒川氏は説明した。ソリューション/SIはシステム構築などが主、インフラサービスはシステムの運用やアウトソーシングなど。

 サービスビジネスは今後、軸足をシステム構築から運用・保守やアウトソーシングに移す。黒川氏は「モノをつくるSIはできるだけ減らさないといけない。やるのであれば徹底的に効率的にしないといけない」と話した。インフラサービスは「いまはTRIOLEとプロダクトを組み合わせたシステムの運用が主流だが、今後はBPOや顧客アプリケーションの運用まで拡大するかもしれない。既存顧客をもっと耕して、顧客のためになるサービスを拡大する」という。

 富士通のサービスビジネス全体の営業利益率は6.1%。競合他社には10%以上の企業もいて、黒川氏は「収益力向上の余地は大きい」という。パッケージソフトウェアの利用も増やして「安定的な収益につながるパッケージ、サービスへシフトする」(黒川氏)。

 システム構築の不安定要因となる失敗プロジェクトのさらなる削減も目指す。2005年度の損失額は100億円だったが、プロジェクト管理の高度化や進ちょく管理の可視化で、2006年度は50億円に抑える計画。富士通は5月に黒川氏出席の下で、700人のSE幹部らを集めた失敗プロジェクト勉強会を社内で開いた。「なぜ失敗したかを共有する」(黒川氏)のが目的。先進的な機能を求める顧客の要望に応えながら、プロジェクトの成功率を高めるのが課題だ。黒川氏は「無闇に飛び込むことは止める」と語り、顧客のやる気や具体度、リスクで受注を見極める考えを示した。「受注前にリスクが大きいと分かったら引けといっている」(黒川氏)

 富士通は東証のトラブルの後に、既存顧客との契約を確認し、作業分担の明確化を行った。契約にない作業を技術者が暗黙の了解で行っているケースなどを確認。システム運用管理にリスクがないかをチェックし、運用業務の品質を向上させるのが目的だ。黒川氏は「それができたうえで次のことを提案したい」と話した。

 富士通は2006年度、サービスビジネスの営業利益で2005年度比220億円増の1600億円を目指す。テクノロジーソリューションでは売上高が7%増の3兆1800億円、営業利益1850億円が目標。

(@IT 垣内郁栄)

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