プロジェクトマネージャの仕事の70%はITアーキテクト的な仕事

2006/7/1

アイ・ティ・イノベーション 代表取締役 林衛氏

 第15回 ソフトウェア開発環境展(主催:リード エグジビジョン ジャパン) 専門セミナーで、アイ・ティ・イノベーションの林衛氏が「これからの時代に求められるITアーキテクトの人材像、責務、資質」と題した短い講演を行った。

 林氏はITアーキテクトを次のように定義する。

 「ITアーキテクトとは、複雑で品質が高く美しい情報システムを構築するためのITアーキテクチャ(システム設計)とそれを実現するための工法(システム化方法論)を設計する総責任者である」

 この定義について林氏自身が「自分の考え」と強調しているように、ITアーキテクトという職務に関する明確な定義は現在でも固まっていない。というのも、日本のIT業界において、ITアーキテクトという職務を明確化し、その職分を明らかにしようとする動きが出てきたのはここ最近のことだからだ。しかし、ITアーキテクトの実質的な業務がこれまで存在しなかったわけではない。

 なぜ、いまになって、ITアーキテクトという職務が注目されなければならないのか。林氏はこの背景について、「企業の戦略を支え、価値を生み出すIT基盤を創造・構築・変革するうえで、ITアーキテクトの重要性が高まってきた」とする。企業におけるITの重要性の高まりは、システム開発を取り巻く環境をさらに複雑にしている。つまり、状況の変化に翻弄(ほんろう)されるシステム開発の現場が生み出したソリューションがITアーキテクトというスーパーマンだというわけである。

 ただし、林氏はシステム開発現場の環境変化ばかりがITアーキテクト待望論の背景だとは見ていない。システム開発に従事する人材にも問題があるとする。林氏は、現在のIT組織における人材の基本スペックとして、「横並び」「指示待ち」「プロ意識がない」「年齢層によりカルチャギャップがある」と厳しい指摘をする。

 これまでITアーキテクトがいなかったわけではない。名前がついていなかっただけだ。名前がついていないゆえに、明確な職分もなかった。「優秀なプロジェクトマネージャが行う仕事の70%が、実は現在ITアーキテクトと呼ばれる人々が行う仕事である」と林氏がいうように、現実にはシステム開発現場を取り仕切るプロジェクトマネージャが、ITアーキテクトでもあった。だが、システム開発を取り巻く環境が複雑化するなかで、プロジェクトマネージャが兼任してきたITアーキテクト的な仕事が切り出される必要があった。プロジェクトの運営を統括するスタッフをプロジェクトマネージャとし、プロダクトの品質に責任を持つスタッフをITアーキテクトとして区別するということだ。

 このような状況を受け、情報処理推進機構(IPA)のプロフェッショナルコミッティは、2005年5月にITアーキテクト委員会を設置し、ITアーキテクトの定義を行うなどの活動を展開している。このような活動が効を奏して、ITアーキテクトの知名度は少しずつ広まっているが、林氏がITアーキテクトの解説に触れながら警鐘(けいしょう)を鳴らすIT業界の本質的な問題点はなかなか解決されない。

(@IT 谷古宇浩司)

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