プレステ3に搭載、断トツ性能の「Cell」はITシステムを変えるか

2006/9/27

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)が次世代ゲーム機「プレイステーション3」(PS3)を11月11日に国内で発売する。コンピュータ業界が注目しているのは高パフォーマンスを実現する新プロセッサの「Cell Broadband Engine」(Cell BE)。SCEI、ソニー、東芝と共にCell BEの開発にかかわった日本IBMの開発製造 テクニカルサービス開発 浅野融氏は「ゲームやマルチメディアで消費電力を抑えながら断トツのパフォーマンスを追及するために開発した。PS3発売後に利用用途が広がることを期待している」と話した。

日本IBMの開発製造 テクニカルサービス開発の浅野融氏

 Cellは1つの制御系プロセッサ「Power Processor Element」(PPE)と、8つのデータ処理系プロセッサ「Synergistic Processor Element」(SPE)を組み合わせたマルチコアのアーキテクチャ。PPEはIBMの64ビットPowerアーキテクチャがベースになっている。SPEは128個の128ビットレジスタファイルを備えるSIMD命令セット対応のプロセッサ。256KBのローカルストアも持つ。「複雑な制御系プロセッサを8つ載せるよりも、制御系プロセッサは1つにしてデータ処理を得意とする軽いプロセッサを8つ乗せるほうが総体としてはパフォーマンスが出ると判断した」(浅野氏)。

 Cell BEはメインメモリまでのアクセス経路を簡素化。Itanium 2プロセッサなどは、メインメモリへのアクセスに4段階の経路を設定しているが、Cell BEはレジスタファイル、ローカルストア、メインメモリという3段階のアクセス経路で設計した。メモリコントローラにはRambusからライセンス供与を受けたXDR DRAMを搭載し、25.6GB/sのメモリ転送速度を実現。チップ間I/Oのデータ転送はリング状のバスである「Elememt Interconnect Bus」(EIB)を使い、75GB/sを可能にする。「それぞれのメモリ間のI/Oを最速化する」(浅野氏)ための設計だ。

 さらに、周波数を稼ぐためにプロセッサのハードウェア設計を簡素化。「複雑な処理はソフトウェアにさせるようにした」(同氏)。浅野氏は「これらがCellのブレークスルーだった」と振り返った。

 Cell BEは3.2GHzで稼働し、200GFlops以上の浮動小数点演算性能を持つ。トランジスタ数は2億4100万。設計上は4GHz以上の周波数で稼働させることも可能で、浮動小数点演算性能は256GFlopsを超える。IBMによると他社のプロセッサと比較するとCell BEは科学技術計算アプリーケーションで8〜9倍の高速処理が可能。画像処理では12〜30倍とさらに性能差が開く。IBMはCell BEによって「スーパーコンピュータ on チップ」が実現するとアピールしている。

 PS3発売で本格展開を始めるCell BEが狙うのは、幅広いデバイスへの搭載だ。浅野氏は「スレッドレベルの並列処理が必要なアプリケーションを得意にする」と説明し、ゲーム機器のほかにHDTVや家庭用のメディアサーバ、セキュリティ機器、車載機器、医療機器など、3Dグラフィックス処理や高度な画像処理を行うアプリケーション、デバイスに適していると説明した。

 米IBMはすでにCell BEを搭載したブレードサーバ「IBM BladeCenter QS20」の提供を開始している。米ロスアラモス国立研究所のスパコン計画「Roadrunner」でも、IBMはCell BE搭載スパコンを納入する計画で、エンタープライズ分野への進出をうかがう。

(@IT 垣内郁栄)

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