日本初の完全ネット大学が2007年春に開校

入試ナシ、選抜はロト抽選で公平に! サイバー大学 吉村作治学長

2006/12/07

 11月30日に文部科学省から正式に設立認可が降りたことを受け、いよいよサイバー大学が2007年度春学期に向けて第1期生の募集を12月11日から始める。12月7日、説明会に現れた吉村作治学長は「もともと入学試験は憲法違反だと思っている」と過激な発言も飛び出すほど教育論に熱弁。長年身に染み付いた大学講義時間の関係で「体内時計は90分」だと言う吉村氏。会見予定時間の60分を大幅に超えるキッカリ90分間で、サイバー大学の目指す教育と方法論をとうとうと語った。

早稲田大学はタンカー、サイバー大学は伝馬船

cyberu01.jpg 考古学者でサイバー大学学長の吉村作治氏

 吉村学長の熱意は30年以上に及ぶ早稲田大学での教員生活での反省や、反発に端を発している。大学教育の現場が抱える矛盾や非効率、あるいは学校側が授業を受ける学生たちに押し付けている不公平を正したいとの思いが強い。「早稲田大学のようなマンモス校はタンカー。学長が変わって舵を切ったところで方向性は少ししか変わらない。しかし、サイバー大学は小回りの効く伝馬船だ」と、この新しい試みの船頭役として意欲満々だ。

 サイバー大学はスタート時点で「IT総合学部」と「世界遺産学部」の2学部、それぞれ600人ずつの正規学生を募集する。高校卒業者、社会人、定年後のリタイア組で、それぞれ3分の1程度ずつの構成になるのではないかと見るが、実際のところは蓋を開けて見なければ分からない。応募人数についても文字通り未知数だ。

 出願には高卒相当の資格証明のほか、志願動機と推薦状が必要だが、入学試験はない。吉村学長は入試選抜は違憲ではないかと言う。すべての人が、その能力に応じて平等に教育を受ける機会を保障した憲法26条に抵触する、というのだ。「だからサイバー大学は入試はしません。もしも定員の1200人を超えたら? そうなってほしいですね。そうなったら、公平にロトによる抽選を行います」。吉村学長は続ける。「教育というのは、できない子をできる子にすることでしょう? 今の日本の多くの大学は、できる子をできない子にして世に出している」。

 吉村学長は現状の大学教育には、教育機会の格差がある言う。原因は地域格差や年齢、境遇、身体的ハンディキャップの有無と多岐にわたる。地方分権が叫ばれているが、実際には教育機関の都市部集中が進んでいる。ネット大学は、そうした格差を是正できるのではないかと言う。また、現状の大学では車椅子での入学を認めているものの、実際には車椅子通学では通勤・通学ラッシュのため朝9時の講義には出られないという問題があるという。また、日本の大学では車椅子では教授になれない、なぜなら対応できる設備がないからだという。「サイバー大学では身体障害者の生徒は授業料を免除しています。また、教員についても積極的に身体障害者の方を採用している」。

講義コンテンツは内外の委員会が客観的に評価

cyberu02.jpg 推奨環境は500kbps以上の接続回線でMacintoshには対応しない。講義は蓄積型で再生やチャプター送り、メモの書き込みなどができる(クリックで拡大)

 現状の大学教育で吉村学長が問題だと認識するのは、「学校法人」という聖域に守られたブラックボックス状態の教育現場だ。「日本には700の大学があり、12〜13万人の教員がいる。ところが質のばらつきが大きく、誰も先生の評価ができていない」という。学生による投票を行う大学も増えたが、「教えられる側が教える側を評価するのは無理がある。結局は化粧が濃いとか話が面白いといった人気投票に終わる」。

 サイバー大学の講義コンテンツは、すべて学内、学外から募った専門家と非専門家からなる評価委員会によって評価される。例えば、学会で定説になっていない自説を教えるのは構わないが、それが定説と違うということを明言すべきだが、現状の大学の講義ではノーチェックだ。あるいは、教員の遅刻や雑談で講義の質が低くても、多くの生徒たちは文句を言わない。講義コンテンツの評価は「分かりやすい言葉で説明されているか」と言った点にまでおよび、「あー」、「うー」といった無駄な発話や、論理的必然性のない駄洒落のようなジョークも排除するという。

利潤が上がれば授業料を下げ、研究費に回す

 まるで一般企業の製品開発サイクルのような講義コンテンツの制作プロセスだが、大学のあり方そのものも、一般企業に近い。つまり、利潤の追求だ。

 教育や学問の世界に利益優先の考えを持ち込むことには危惧の声があるが、吉村学長は「それは、まったく逆だ」と反論する。むしろ私企業が大学を経営するメリットは経理が明快になることだという。「これまで学校法人という利権に守られていたのは不健全。教育も、教員の知識や知見を提供するサービス。対価に合ったサービスが提供できているか判定されるべき」だと言い切る。良質で人気のある講義を行う教員にはインセンティブを出すという。

 生まれた利潤は、株主還元するのはもちろん、教育と研究に回す。具体的にはスタート時点で1単位あたり2万1000円の授業料を順次下げていくのだという。スタート時の授業料で計算すると、卒業に必要な124単位をそろえるには入学金などを含めて300万円弱かかる。このサイバー大学の学費でも、すでに平均的な私立大学の4年間の授業料、500万円より安いが、吉村学長は、今後さらに授業料を低く抑えられるのではないかと見ている。ネット大学では先行している韓国・ソウルのインターネット大学では「毎年授業料を下げている」といい、一般大学との価格差が大きすぎ、学生がネット大学に流れ込むことが問題になるほどだという。

 利潤は授業料で還元するほか、研究費にも当てる。「国立大学並みの研究費を支給する」ことで教員にとっても魅力のある環境作りを目指すと言う。

産業界からの要請に応える人材を育成

cyberu03.jpg サイトには学生個人個人のページを用意。掲示板で議論や質問、他の学生との交流ができる(クリックで拡大)

 日本の大学では産業界で即戦力となる人材の教育をしていない、とは長年言われてきたことだ。この点でもソフトバンクが出資しているだけあって、サイバー大学はプラクティカルだ。例えばIT総合学科で「コンテンツ制作」について現場の一線で活躍するビジネスマンによる講義があるほか、長期間のインターンシップ制度や、ボランティア・留学プログラム、語学検定の個別指導といったメニューを充実させている。

 こうした実践的教育に対しては、大学教育は教養教育や人格陶冶までカバーする全人教育であるべきだという批判がある。こうした批判に対する吉村学長の言い分は、いささか歯切れが悪い。吉村氏は「ビジネスにも教養や理念は必要。サイバー大学の使命は教養ある社会人を育てる」と言うが、その一方で「ソフトバンクと吉村作治がやったからITと世界遺産という学部ができたんじゃないかと言う方がおられますが、違うんです、いや、そのとおりでもあるのですが……」と口ごもる。考古学調査でいまやITは不可欠だと実例を挙げて説明してみても、ITと考古学という取り合わせのチグハグさは取り繕えない。

 教養なのか、即戦力なのか、それは大学教育の永遠のテーマなのかもしれない。いずれにしても、今までの学校法人はブラックボックスの中、教育の質と結果にあまりにも目を向けてこなかったということなのだろう。

 教員と生徒、あるいは生徒同士のコミュニケーションを通じた学問的・人間的な教育という面では、リアルな教室よりも、むしろサイバー空間のほうが有利だと言う。早稲田大学でこれまでに行ってきたインターネット利用の講座では、30人参加者がいれば10人程度が意見や質問をメールしてきたという。「これまで30年教えてきて教室で質問が出たことはほとんどありませんよ」。サイバー大学では掲示板や電子メールを使って教員と学問的な質疑応答を交わしたり、相談事が可能だという。「教員の方には毎朝起きたら必ず掲示板を見るようにとお願いしてあります。どんな質問でも必ず48時間以内に回答する」という基準も設けているという。キャンパスライフの充実もテーマだ。サークル活動を推奨し、オフラインでの交流も促す。携帯電話を使ったアクセスへの対応も検討中で「ユビキタス・キャンパス」を目指すという。

 2004年に国立大学が法人化されるなど大学改革の嵐が吹き荒れる大学教育界。IT技術をフル活用した「伝馬船」で漕ぎ出した吉村作治学長は、その荒波の中で輝ける船頭となれるのか。教育関係者の注目が集まる。

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(@IT 西村賢)

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