米国企業で見る導入の障害

だからiPhoneはビジネスで使えない

2007/06/25

 BlackBerryを持ち歩いている企業幹部に新しい携帯電話「iPhone」を購入するつもりはあるかと尋ねてみるといい。彼らは逆にこう尋ねるだろう――「わが社のITスタッフがそれをサポートできるのかね?」と。

 企業ユーザーは、リモートメッセージング、スケジューリング、グループカレンダーなどの機能を盛り込んだハイテクタイプのスマートフォンに慣れてきている。しかしアナリストらによると、企業環境でiPhoneが受け入れられるためには、少なくとも3つのハードルを乗り越えなければならないようだ。

 マサチューセッツ州ノースボロにある技術コンサルティング会社、J. Gold Associatesで主席アナリストを務めるジャック・E・ゴールド氏は、「iPhoneにまつわる第1の問題は、企業ユーザーがメールをプッシュ配信したいと考えていることだ」と話す。

プッシュ型メールが障害

 多くの大企業では、Research in Motion(RIM)が提供しているBlackBerryメールサーバとリモートデバイス、あるいはMotorolaのGood Technology部門の製品で、システムを標準化している。これらのシステムが「プッシュ」型メール機能を提供するからだ。大企業の幹部たちは、先を争うように BlackBerryデバイスを買い求めているのだ。

 Forrester Researchの主席アナリスト、チャールズ・ゴルビン氏も「BlackBerryは企業での標準になった」と指摘する。同氏によると、このような状況をもたらした主な要因は、IT部門がプッシュ型メールシステムを大規模に配備することが可能な「Enterprise Server」製品をRIMがリリースしたことだという。iPhoneはメール標準のIMAPとPOP3をサポートするが、両標準は従来のプッシュ型電子メールシステムに対応しない。

 「Enterprise Serverは販売モデルを変え、個人よりもIT部門の間でBlackBerryが人気を博するようになった」とゴルビン氏は話す。

 ゴルビン氏のみるところでは、これは企業でのiPhoneの普及にとって大きな障害だという。多くの企業がRIMのサーバに本格的な投資をしてきたのに加え、アップルは同様のパッケージを提供していないからだ。

 メール(プッシュ配信方式を含む)だけでなくスケジューリング機能も必要とする企業ユーザーの間では、マイクロソフトの「Outlook」と「Exchange」も広く利用されている。

Outlookとの同期は

 ゴールド氏によると、これが2番目の障害だという。「幹部がiPhoneを持ち込んだら、Outlookの同期化がきちんと機能するだろうか。ノキアなどが知っているように、これは容易なことではない」と同氏は指摘する。

 プッシュ型メールに代わる選択肢としては、Webブラウザインターフェイスを通じてメール機能を提供するOWA(Outlook Web Access)がある。アップルでは、標準に準拠したSafariブラウザのフル機能版がiPhoneに搭載されることを明らかにしている。(OWAの関連記事はこちら

 OWAはSafariやCamino、FirefoxといったMac用ブラウザにも対応するが(iPhone上のSafariでもOWAが使えるという未確認の報告もある)、マイクロソフトではOWAの「Premium」機能はInternet Explorerユーザー専用とし、ほかのブラウザでは「Light」機能セットだけしか使えないようにしている。

 非Internet ExplorerユーザーがOWAで使えない機能としては、タスクモジュール、電子メール項目の検索、リマインダー、HTMLメッセージの作成、カレンダーの週単位表示、会話表示、スペルチェックなどがある。

 OWAを利用すれば、メールへのリモートアクセスが可能になるが(メッセージングやスケジューリング機能は制限される)、多少のセットアップ作業が必要となる。Exchange 2000以降ではOWAがデフォルトで有効になっているが、OWAを企業のファイアウォールの外で利用することを可能にするhttpsをサポートするには、マイクロソフトのIIS(Internet Information Server)をセットアップし、SSL通信を行うために証明書機能を使えるようにする必要がある。

 「しかしOWAだけでは不十分だ」とゴールド氏は指摘する。同氏によると、ユーザーはコンタクト情報、スケジュール、メールにオフラインで即座にアクセスする必要があるという。企業幹部が会合に出席するために出張し、ネットワークの通信範囲外にいても、自分がいつどこに行かなければならないかを知る必要があるという。

 「正しいかどうかは別として、ユーザーはオンライン情報にアクセスできるだけで満足するものとアップルは考えている」と同氏。

iPhoneとセキュリティ

 ゴールド氏によると、さらに第3のハードルが存在するという。「企業ではセキュリティがますます重要な問題となっているが、一般に知られる限りでは、iPhoneは十分に強力な防護機能を提供しない」と同氏は指摘する。

 「多くの企業がモバイルデバイスのセキュリティ管理を重視している。企業では、携帯電話をロックしたり、データを暗号化するなどしてセキュリティを管理できる必要がある」とゴールド氏は語る。

 ただしiPhoneの場合、これはそれほど問題にならないことを同氏は認めている。iPhoneでは、ネットワークアクセスを経由した形でしかデータにアクセスできないからだ。

 今のところ、iPhoneユーザーが暗号化されたセキュアなSSH(Secure Shell)プロトコルを通じてリモートシステムにアクセスできるのかどうかは不明だ。しかし開発者のマーク・レスル氏は、iPhone用のWebベースのシェルアプリケーション「WebShell」の“バグだらけ”版を公開した。

 「しかしリモートアクセスを行うのであれば、https SSL/TLSの使用を強く推奨する。これは、WebサーバのApacheを利用すれば簡単に構成することができる」とレスル氏は記している。

 マサチューセッツ州アシュランドにある調査会社、Farpoint Groupのクレイグ・マサイアス社長によると、デバイスの紛失や盗難というリスクを考えれば、iPhoneは企業にとって「大きなセキュリティホール」になる可能性があるという。一般に知られている限りでは、iPhoneはドキュメントやスケジュールをデバイス上に保存しないが、最近の携帯電話と同様、コンタクトリストを備えており、Webベースアプリケーションにアクセスする機能も用意されている可能性が高い。

 しかしマサイアス氏にとって、iPhoneがWebベースの情報にフォーカスしているというのは否定的な側面ではないようだ。「iPhoneのアイデアは非常に気に入っている。わたしはWebサービス信奉者だ。Webサービスは将来の大きな潮流になるだろう」と同氏は語る。

 「結局、スマートフォンというモデル自体が、Webアプリケーションを利用するのに必要なネットワークの通信範囲内でなければ十分に機能しないのだ。ユーザーが通信範囲外にいるときは、電話がどれだけ“スマート”であっても通話することはできない」とマサイアス氏は指摘する。

 「しかしiPhoneが直ちに、IT部門の認可リストに含まれることはないと思う」と同氏。

 マサイアス氏は、企業社会では、Exchangeなどが備えるプッシュメールのサポートの欠如は否定的な要因になると考えている。「しかしiPhoneと連携した製品が早期に登場するのは間違いないと思う」(同氏)

アップルは企業市場に無関心?

 経営幹部やITマネージャらは、企業環境でiPhoneがどのような形で受け入れられるかに関心を抱いているかもしれないが、アナリストらによると、アップルは企業でのiPhoneの普及を狙ってはいないという。

 「iPhoneは“プロシューマー”ユーザーをターゲットにしているわけではない」とゴルビン氏は指摘する。

 すなわち、BlackBerryやPalmのTreo製品ラインとの競争を狙った製品ではないという。「これはアップルが狙っている市場セグメントではない。彼らは富裕層のコンシューマーに狙いを定めているのだ」と同氏は話す。

 ゴールド氏も「iPhoneは企業をターゲットにしていない。基本的にはコンシューマー分野を狙った製品だ」と指摘する。

 「しかし波及効果があるだろう」とゴールド氏は話す。同氏によると、企業での普及は、社内の誰がiPhoneを買うのか、そしてそのiPhoneユーザーが技術サポートを要求できる地位にいる人なのかどうかによって決まるという。

 ゴルビン氏も、そういった形でiPhoneが企業環境に進出するとみている。「幹部の行動は“エンタープライズに感染する”。BlackBerryの企業進出もそのようにして始まった」(同氏)

原文へのリンク

(eWEEK Daniel Drew Turner)

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