最終的にはその技術がPCに

IBMとサンが拓くスーパーコンピュータの「ペタフロップス」時代

2007/06/28

 米IBMとサン・マイクロシステムズは、スーパーコンピューティングを「ペタフロップス」の時代へと移行させようとしている。

 このIT大手2社はそれぞれ、ドイツのドレスデンで6月26日に開幕した「2007 International Supercomputer Conference」(ISC)において、最新スーパーコンピュータシステムの詳細を説明している。どちらのシステムについても、性能はペタフロップス(PFLOPS)の壁を突破すると見られている。1PFLOPSは毎秒1000兆回の浮動小数点演算を実行する能力を示す。

 比較としては、世界最速スーパーコンピュータを決めるTop500リストで首位に選ばれている米エネルギー省のローレンスリバモア国立研究所(LLNL)で利用されているIBMのBlue Gene/Lシステムの性能が、280.6TFLOPS(1TFLOPSは毎秒1兆回の浮動小数点演算を実行)だ。なお、今回のISCで発表された最新のTop500リストにおいても、IBMは首位の座を維持している。

 Forrester ResearchのITインフラオペレーションズリサーチ担当主任アナリストのジェイムズ・ステーテン氏は、サンの最新スーパーコンピュータ「Constellation」の初期のデモを見て、この新しいシステムを「非常に強力で印象的なシステムだ」と評している。

それほど多くの顧客はいない

 だがステーテン氏によると、サンやIBMといった企業はISCなどのイベントを用いて、業界観測筋に対し、あるいは企業同士で、自社の技術力をアピールしているが、そうした大規模コンピューティングシステムの市場は実際には非常に小さいという。

 「確かに、他社より一歩先んじていることを示す手段にはなる。サン、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、クレイなどといった企業は常に性能の強化に取り組んでおり、それはいいことだ。それが、資本主義的なビジネスのあり方だ。だが率直なところ、このようなコンピュータには、世界中のどこを探しても、それほど多くの顧客はいない」と同氏。

 これら最新の2つのスーパーコンピュータは、厳しい予算に縛られている企業や組織のためのものではない。サンのシステムは約5900万ドル掛かり、IBMのスーパーコンピュータにしても、システムクラスタの各サーバ当たり130万〜170万ドル掛かる。

 IBMは今年のISCにおいて、同社の次世代スーパーコンピュータ「Blue Gene/P」を発表した。Blue Gene/Pはいずれ、Blue Gene/LシステムをリプレースすることになるだろうとIBMのDeep Computing部門の製品マーケティングマネジャー、ハーブ・シュルツ氏は語っている。

 「当社は初代のBlue Geneシステムにより、ライバルがまったく存在しないシステムを市場に投入した。今回、Blue Gene/Pにより、われわれは政府の研究機関や大学、大手企業などの組織に、さらに長期的なシミュレーションを実行できるシステムを提供できる。原子物理学、気候モデル、天文学の研究などの分野で活用されることになるだろう」と同氏。

Blue Gene/Pを開発

 Blue Gene/Pシステムは、IBMの現行のBlue Geneスーパーコンピュータよりも3倍高性能で、いまのところ、256台のサーバラックでフル構成とした場合には1〜3.5PFLOPSの処理性能が提供される。

 IBMはBlue Gene/Pシステムに自社のPOWERアーキテクチャを採用する。Blue Geneのプロセッサはそれぞれ、PowerPC 450プロセッシングコアを4個搭載し、最高クロック速度は850MHz、毎秒136億回の演算を実行できる。現行のBlue Geneプロセッサはデュアルコアで、クロック速度は700MHzだ。

 シュルツ氏の説明によると、新旧のBlue Geneプロセッサはどちらも同じ熱設計枠を用いており、新型スーパーコンピュータのほうが優れた性能を提供する一方で、消費電力は約20%増加する。

 また新しいBlue Geneプロセッサでは、マルチスレッドのソフトウェアアプリケーションのサポートを念頭に、メモリ容量が増強されるほか、SMP(対称型マルチプロセッシング)が提供される。さらに新型のスーパーコンピュータは新しいインターフェイスを搭載し、開発者にとっては、同システム対応のアプリケーションの記述が容易になる(このスーパーコンピュータのOSはLinuxをベースとしている)。

 典型的なBlue Gene/Pのシステムボードはマイクロプロセッサを32個搭載し、平均的な6フィートのラックサーバにはそうしたボードを32枚収容することができるため、同システムには1サーバラック当たり4000個以上のプロセッシングコアが集積されることになる。

 29万4912個のプロセッシングコアを搭載する72ラックのBlue Gene/Pシステムであれば、1PFLOPSの処理能力を実現するだろう、とシュルツ氏は語っている。216ラックのクラスタであれば、3PFLOPS の処理性能が提供されることになる。IBMはISCにおいて、2ラック構成のBlue Gene/Pシステムで達成したベンチマークの結果を発表する計画だ。その場合、Blue Gene/PはTop500リストにおいて30位に付けることになる。

 IBMはさらに、Blue Gene/Pシステムの導入をめぐり、すでに4つの組織との間で取り組みを進めていることを明らかにした。Blue Gene/Pの最初の1台は、イリノイ州にある米エネルギー省アルゴンヌ国立研究所に導入される見通しだ。

サンはConstellationを発表

 一方では、サンも負けてはない。同社は6月26日、ドレスデンでConstellationを発表した。IBMのBlue Geneほど大型ではないが、Constellationも2PFLOPS近くの処理性能を実現すると見られている。

 Constellationは、サンがテキサス大学のTexas Advanced Computing Centerと共同で開発したシステムだ。SunFireブレードサーバを82基、サン Magnum高密度スイッチを2基、InfiniBandホストインタフェース(288ポート)、次世代Mellanox HCA(High Contrast Addressing)のほか、サン Fire X4500ストレージクラスタを搭載し、1ラック当たり480Tバイトをサポートする。

 コアスイッチは最大3456ノードをサポートし、カスタムラックはそれぞれ48基のサーバモジュールをサポートするとチーフアーキテクトのアンディ・ベクトルシャイム氏は説明している。

 さらにConstellationは、Solaris、Linux、OpenMPI、Open InfiniBandのインタフェースと管理、x64 Computing Architecture、InfiniBand DDRスイッチを搭載する。処理性能は1.7PFLOPSと見られており、最大10ペタバイトのデータを保存できるという。

 これは、サンが開発する2世代目のConstellationシステムとなる。サンは昨年、東京工業大学向けにも同様のシステムを開発している(参考記事)。

 「Constellationは世界最強のコンピューティングプラットフォームの1つとなるだろう」とベクトルシャイム氏は先週、カリフォルニア州メンロパークでのプレビューセッションで記者やアナリストに語っている。同氏は1982年にサンを立ち上げた4人の共同創業者の1人だ。

Top500リストを簡単に上回る

 「ConstellationはいまTop500リストに載っているどのコンピュータの性能をも簡単に上回るだろう。どのシステムと比べても20倍は高速だ。ただし、まずはわれわれはこのシステムを実現する必要がある」と同氏。

 「11月に最新のTop500リストが作成されるまでには、Constellationシステムを完成させ、動作させられるようにしたい。だが、われわれは依然として、チップの入手を待っている状態だ」とさらにベクトルシャイム氏は続けた。

 同氏によると、Constellationは「Barcelona」と呼ばれるAMDのクアッドコアOpteronプロセッサで動作することになっているが、このプロセッサがまだリリースされていない。

 「もちろん、当社製のプロセッサもあり、性能テストにはそうしたプロセッサを使っているが、まだ生産できる体制のものがない。プロセッサはAMDから間もなく提供される見通しだ」とベクトルシャイム氏。

 「こうした開発の何が良いかと言えば、これらのスーパーコンピュータに採用されている多くの技術や優れたアイデアが、最終的には、PCに採用されるようになるということだ。NASAが購入しているような技術が、いずれPCレベルに浸透することになる」と同氏は続けて語った。

原文へのリンク

(eWEEK Scott Ferguson, Chris Preimesberger)

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