アンドリーセン氏とベニオフ氏

2人のマーク――「クラウド」を語る

2008/01/22

 マーク・アンドリーセン氏は、世界で最初に普及したWebブラウザ「Mosaic」の開発者として有名だが、同氏はNetscape、LoudcloudおよびNingの共同創業者でもある。同氏の新たなベンチャー事業であるNingは、ソーシャルネットワーキングサイト用のプラットフォームを提供している。

 セールスフォースのマーク・ベニオフCEOは、アンドリーセン氏について「人々が今日、メインストリームとして利用しているコア技術を実質的に発明した人である」と評する。

 ベニオフ氏は「SaaS」(Software as a Service)ムーブメント創出の立て役者として知られ、アンドリーセン氏が生み出したとするこれらのコア技術上でアプリケーションを提供している。ベニオフ氏は現在、クラウドコンピューティングの推進者の1人として、これらのコア技術を「PaaS」(Platform as a Service:サービスとしてのプラットフォーム)に仕立てようとしている。

 両氏は1月17日、サンフランシスコで開催された開発者向けの「Tour de Force」カンファレンスで意見を交わし、その中でアンドリーセン氏は、Platform as a Serviceの波が始まったと考えていると述べた。

ベニオフ この業界を振り返ると、これまでにPC、Windows、Linuxおよびプラットフォームのホリゾンタル面が出現し、データベースや分析などのアプリケーションを提供する企業が登場しました。いま新たなタイプのプラットフォーム企業が出現しようとしているのでしょうか。

アンドリーセン はい、何千社もの広範なプラットフォーム企業が登場すると思います。

 プラットフォームとは何かについては共通の定義が存在します。それはプログラムができるということです。インターネットあるいはクラウドへのシフトは、さまざまな点において非常に大きな出来事です。文字通り何千もの新企業がこのアプローチを目指すでしょう。この奔流は、いままさに始まろうとしています。

ベニオフ この業界では、オンデマンドプラットフォームの第1層は信頼されるグローバルなプラットフォームとみられています。データ管理レイヤ、インテグレーションレイヤ、WebサービスAPI、メタデータAPIなどがそろっているからです。その上にロジック、言い換えればワークフローが置かれ、さらにその上には、おそらく何らかのユーザーインターフェイスやパッケージングメカニズムが置かれる形になります。PaaSもこのような構成になると思いますか。つまり、PaaSはこのようなスタックとして進化するのでしょうか。

アンドリーセン それは昔から考えられてきた一般的なスタックの形態です。プラットフォームスタックに関する古くからの考え方に対する新たなアナロジーとは、その上にいくつかのものを追加することです。重要なのは、オンデマンドインフラは、開発者をインフラに関する悩みから解放するということです。われわれのネットワークの中には、1週間に10%あるいは20%というペースで成長しているものもあります。

 つまり、トラフィックが軌道に乗れば、基盤となるインフラ、つまり実行環境のことを心配しなくてもいいのです。これは実に素晴らしいことです。

 PaaSの2番目のポイントは、プラットフォームがコードを実行するためだけのものではなくなるということです。ほかのサービスにアクセスするためのプラットフォームであってもいいのです。財務データにアクセスする、グーグルと連携する、Amazonと連携するといった具合です。コードだけではなく、ライブなコネクションであるサービスやデータにアクセスすることが重要になるのです。

 もう1つのポイントは、定義からすれば、PaaSというのは何万人あるいは何百万人の人々が同時に利用できるサービスです。つまり本質的に社会性を帯びているのです。人々はアプリケーションの開発でコラボレートできるだけでなく、アプリケーションの利用でもコラボレートできるようになるのです。ライブなデータ、ライブなサービス、ライブな人々と連携し、すべてがつながるのです。これは、サーバが床の上にポツンとあるのと比べると、はるかに肥沃なイノベーションの土壌です。

PaaSは既存プラットフォームを補完するのかリプレースするのか?

ベニオフ PaaSは既存のプラットフォームを補完するのでしょうか、それともリプレースするのでしょうか。今後の展開をどう予測しますか。

アンドリーセン セールスフォースやNingを見れば、サーバやLinuxを始めとするOSなど、旧世界の多くの部品を利用して新世界を構築しています。われわれが構築したマルチテナント用データベースでは、基盤レイヤとしてOracleなども利用しています。

 開発者の視点でいえば、ユーザーにとってわれわれは新しいスタイルのプラットフォームを代表するものです。ユーザーはOS、SQL、ハードウェアといったことに煩わされずに済みます。彼らは、自分たちがどんなルータを使っているのか、ストレージの構成はどうか、OSの構成はどうか、といったことを意識することは一切ありません。HTML/スクリプティングレイヤでプログラミングするだけでいいのです。これは開発者にとって大きな変化です。

 セールスフォースやNingのようなプラットフォームを構築する新しい企業に対して、サン・マイクロシステムズは武器の供給者になるでしょう。いずれ、ほかの企業がどんな動きをするのかも見えてくるでしょう。

 ここには大きな成長の可能性があります。誰が顧客であり、開発者は最終的に何ができるのかといったような役割の変化も起きています。

ベニオフ 結局、これは業界にどんなメリットをもたらすのでしょうか。大きな付加価値とは何でしょうか。

アンドリーセン 世界の多くの人々にとって、アプリケーションを構築するには、サーバやファイアウォールを購入し、わたしが育ったウィスコンシン州の田舎に配備しなければならない、といったようなやり方はもはや通用しないでしょう。

 今日では、人々はNing、AmazonあるいはForce.comに行き、そこでアプリケーションを構築することができるのです。シリコンバレーを見ても、インフラの問題に対処する必要がないというコンセプトに基づく新興企業が次々と誕生しており、わたしも全部に投資しきれないほどです。

 こういった新興企業には2つのタイプがあります。プラットフォームを開発する新興企業とアプリケーションを開発する新興企業です。後者の場合、WebにアクセスするためのノートPCさえあれば、アプリケーションの開発を始められるのです。取り引きを実行するのにはPayPalを利用し、広告にはGoogle Adsを利用すればいいのです。社内システムもGoogle Apps上で運用することができるので、数台のノートPC以外には何も買う必要がないのです。

 今後、完全な仮想化に向かう企業が世界中でますます増えるでしょう。

ベニオフ それは今、起きていると思いますか。また、こういった変化は、新たな国々、新たな地域で出現するのでしょうか、それともシリコンバレーが主導権を握るのでしょうか。

アンドリーセン シリコンバレーにはクリティカルマスがあり、こういったことに慣れている人材もそろっていますが、完全に仮想化された新興企業はますます増えています。投資家の立場から見れば、完全に仮想化し、他社が提供するプラットフォームで運営することができれば、新興企業を立ち上げるのに必要な資金は非常に少なくて済みます。つまり投資に伴う財務リスクが大幅に軽減されるということです。これは非常に大きな意味を持っています。

原文へのリンク

(eWEEK Renee Boucher Ferguson)

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