トランジスタ集積数だけではない

AMDが考える、マルチコアでもソフトウェアが遅いのはなぜ?

2008/02/08

 マルチコア処理の将来についていえば、米AMDは新世代プロセッサを投入するたびにトランジスタ集積数を増やすことだけを考えているのではない。

 マルチコア処理の進歩にソフト開発が後れを取っている現状を受け、AMDのシニアフェロー、チャック・ムーア氏は、AMDはハードウェアのほかの部分――アクセラレータ――を従来のCPUと統合してアプリケーションの性能を高めると同時に、アプリケーションがマルチコア技術をフル活用できるようにする新しい方法を模索し始めたと語った。

 同氏は2月6日、国際固体素子回路会議(ISSCC)のパネルディスカッションでマルチコア技術の開発について自身の考えを披露した。この会議では、サン・マイクロシステムズやインテルなどの半導体メーカーの上級エンジニアもコメントした。

 マルチコア技術が最初に市場に登場し、OSやサードパーティーのアプリケーションが活用できる処理能力は増えた。だが、プロセッサのコアが増えるに伴い、ユーザーは新世代のマルチコアプロセッサと同じくらい高速に自分のアプリケーションを走らせたいと思うようになっていると、ムーア氏はプレゼンテーション前の取材で語った。

 問題は――何年も前から積み上がってきたものだが――いま開発されているソフトは並列処理を活用してないということだ。この問題が拡大していると考えているのはAMDだけではない。x86プロセッサで優位に立つインテルは、ソフトベンダや開発者がマルチコアシステム向けアプリケーションを開発するのを支援するツールを作ろうと考えている。

 ムーア氏にとって、いまのソフト開発の問題は明確だ。ハードウェア、具体的にはPCにマルチコアプラットフォームが組み込まれていても、いま開発されているソフトを使っている場合、性能の低下が見られることだ。

 マイクロプロセッサの基本要素であるトランジスタの数は年々増え続けているが、ムーア氏は、それが性能向上に直結するわけではないと指摘する。

 「過去30年間、われわれはプロセッサに載せるトランジスタを増やせば、性能が上がると解釈してきた」と同氏は、インテル創設者ゴードン・ムーア氏にちなんだ「ムーアの法則」を指して語った。この法則は、プロセッサに集積されるトランジスタの数は18〜24カ月おきに倍増するというものだ。「それが、プロセッサに価値を付加する主な要因だった。それは主に、われわれがトランジスタの増加を性能向上と解釈することができたからだ。ムーアの法則で誤解されているのは、18カ月おきに性能が2倍になるように思えるところだ」

 同氏はその解決策として、クライアント(デスクトップでもノートPCでも)がマルチコアx86プロセッサを活用できるようにして、性能を高めるもっと小さなハードウェアパーツあるいはサブシステムを開発することを挙げた。

 その最も明白な例が、GPUをプロセッサパッケージに追加して、ビデオなどのマルチメディアアプリケーションのレンダリングを高速化するというものだ。AMDはすでに、「Accelerated Processing Unit」というプログラム(以前は「Fusion」と呼ばれていた)の下、2009年にCPUとGPUを同じシリコン片に統合する計画を発表している。

 AMDには「Torrenza」という計画もある。Opteron搭載システム向けのコプロセッサの開発を促進することを目指している。

 AMDが2006年にATIを買収した理由の1つは、こうしたプロセッサの開発にシフトする際に、ATIのグラフィックスポートフォリオを活用できることにある。その場合、GPUはソフトの命令スレッドを実行し、情報を小さく分割して同時に処理することができる。そうすれば、クロックスピードを向上させる方法に依存しなくても、さまざまなアプリケーションで高スループットと性能向上を達成できる。その結果として生まれるのが、GPUとCPUが協力して動作する、ムーア氏がいうところの「異種混在プロセッサ」だ。これは性能を向上させると同時に消費電力を減らすはずだ。アプリケーションがマルチコアプラットフォームをもっと活用できるようにもする。

 「単に、特定の目的を持ったハードの方がずっと効率的だということだ」と同氏はいう。「CPUでビデオをデコードしたいとは思わないだろう。ビデオは横にある専用ハードでデコードする方がいい。また、これは20分の1の電力で同じ性能を発揮する」

 AMDは主にデスクトップ向けの自社プロセッサに、この種のサブシステム――CPUは一例にすぎない――を加える方向へ進んでいる。ムーア氏は、現在ほとんどのデータセンターのサーバは、Webサービスや金融処理など、マルチコア技術を活用できるアプリケーションを実行していると語る。2009年までに、AMDは最大8コアのプロセッサをサポートする最初のプラットフォームを提供する計画だ。

 AMDはPCプロセッサだけに注目しているわけではない。同社は11月に、HPC(高性能コンピューティング)市場向けのFireStream 9170 GPUを発表した。ここでは、ATIと同じくGPUベンダであるNVIDIAが以前から関心を持っていたHPC市場に焦点を合わせている。

原文へのリンク

(eWEEK Scott Ferguson)

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