Jリーグの対戦予定作成に制約プログラミングソリューション2〜3週間かかっていた手作業を1日に短縮

» 2008年03月06日 00時00分 公開
[西村賢,@IT]

 Jリーグでは毎年シーズン終了後の12月ごろ、翌シーズンの対戦スケジュールの作成に取りかかる。どの日にどのチームとどのチームの対戦を組むかという対戦スケジュール作成は非常に難しい。J1で18チーム、J2で15チームとチーム数が多いために可能な組み合わせが膨大な一方、さまざまな条件を勘案する必要があるからだ。

 例えば、チーム間の公平性を保つために、各チームが連続してホームゲームやアウェイゲームを行わないよう配慮する必要がある。また、最近はホームスタジアムを複数チームで共有するケースがあり、これも制約条件となる。

 観客動員数の最大化を考えると、同一地域に属する複数チームのホームゲームの同時開催をなるべく避けるというのも考慮に入れる条件だ。地元ファンが2つのスタジアムに分かれてしまうからだ。また、芝枯れや、メンテナンス、コンサート開催などの理由でスタジアムが利用できない日程もある。

 こうしたJリーグが定める制約条件と、各チームの要望を調整して対戦スケジュールを作成する業務は、従来人間が行っていたが、現在は「制約プログラミング」と呼ばれる最適化ソフトウェアを利用して行っている。

 ビジネスルール管理や最適化ソフトウェア、可視化技術などを提供する仏アイログの日本法人は3月6日、Jリーグで同社が提供する最適化ソフトウェア「ILOG CP」を使い、J1、J2およびJリーグヤマザキナビスコカップの対戦スケジュール作成業務を効率化したと発表した。2003年からアイログとJリーグで「Jリーグ・マッチスケジューラー」の開発を始め、2004年から実業務で使用。年々バージョンアップを重ね、現在もアイログはコンサルティングサービスを提供しているという。規模によるが、このようなケースでは一般的に、ソフトウェアのライセンス料が1000万円前後でコンサルティングは3000〜4000万円程度という。

 従来人間が行っていたころには、対戦スケジュール作成には2〜3週間がかかっていたが、現在はこの業務が1日に短縮。また、これまでは担当者のノウハウに依存していたが、PCに制約条件を入力するだけで最適に近い解を求められるようになったという。実際の作業には一般的なノートPCを使い、1度の計算に数時間程度かかる。

 人間が対戦スケジュールを組む際、“ミラーリング”と呼ばれるテクニックが広く使われている。スケジュールを前期と後期に分け、前期だけの対戦を決定。後期はその前期の対戦の組み合わせで対戦チームのホームとアウェイだけを入れ替えたパターンにしてしまうことで効率化するものだ。この方法で組まれた対戦スケジュールでは、観客が既視感を覚えるゲームが増えるという問題があったが、最適化ソフトウェアを使うことで、こうした“パターン化”を避けられるようになった。

広がる最適化ソフトウェアの適用範囲

 アイログの最適化製品は、ドイツのサッカーリーグの対戦スケジュール作成にも使われているほか、金融サービスのシミュレーション、鉄道ダイヤグラム作成、航空機クルーのスケジューリング、ロジスティクスにおける輸送経路計画、製造業での生産計画などで広く使われている汎用的なソフトウェアだ。グローバルで1000社を超える企業がアイログの最適化製品を利用しているほか、オラクルやSAPなどのサプライチェーン管理ソフトウェアのベンダは、自社ソフトの開発にアイログの最適化製品を使用しているという。

 近年、多品種少量生産を行う製造業では、原料、中間生成物、最終製品の数が増え、製造プロセスの工程管理や生産計画を、人間が最適化することは困難だ。例えば乳製品製造のダノンの工場では、10種類の中間製品を製造し、15から25のパッケージラインで120種類の最終製品を製造している。鮮度の問題から、各中間製品は適切な生産量をスケジュールし、厳密な制限時間内に消費しなくてはならないなど制約が多い。こうしたことから同社は2007年6月にアイログ製品を採用している(参考記事:ダノン、乳製品工場に最適スケジューリングシステムを導入)。

 ハードウェア性能とソフトウェアのアルゴリズムの進化により、最適化ソフトウェアを、リアルタイム性の高いシーンで使うことも増えている。例えば、ある電力会社ではメンテナンス要員の位置情報とスキルをリアルタイムで把握して、フィールドでの事故対応など要員配備計画をPDAを通して指示しているという。

 また、最適化ソフトウェアは、利用に高度な専門知識が必要なことや、ある程度の規模と複雑さがないとコストに見合わないことなどから、これまで大企業での利用がほとんどだった。しかし、アイログの最適化ソフトウェアを組み込んだSaaS型サービスとして、2007年12月にNECとウィンワークスは「シフト勤務スケジューリングサービス」の提供を開始。時間帯ごとの繁忙状況とサービス提供に必要となる要員数の予測を行い、各要員の勤務形態や就業時間、スキルを踏まえた最適な勤務シフトを作成・管理するサービスを行っている。SaaSという形態を取ることで、10店舗当たり月額100万円から利用できるように低価格化。中小規模のビジネスで最適化ソフトウェアが利用できる局面が増えてきそうだ。

アイログの最適化ソフトウェアを利用して作成した看護師の勤務計画表の例(クリックで拡大)

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