RIAプラットフォーム戦争で有効な一手?

グーグルのアドビ買収はあり得るか

2008/03/17

 米グーグルがインターネットを活用した収益増大とユーザー獲得でマイクロソフトより優位に立っていることはよく言われる通りだが、グーグルが参入しておらず、マイクロソフトがグーグルを制しているように見える分野が1つある。リッチメディアアプリケーションだ。

 マイクロソフトは3月5日、リッチWebアプリケーション「Silverlight 2」のベータ版をリリースした。ハイテクメディアやアナリストは、世界のブラウザの98%で使われているアドビのFlashの代替になるものとして、Silverlightを位置付けたがっている。

 AjaxとリッチWebアプリのこの時代に、もしマイクロソフトがFlashの市場の一画にでも食い込むことができたら、グーグルが支配を目指すインターネット経済において、マイクロソフトはかなりの収益を上げられる地位に立つ。

 グーグルは途方に暮れているのだろうか。コードネーム「Gash」とかGoogle lightとでも呼ぶリッチWebアプリケーションを開発しているのか。それとも市場を一網打尽にするためアドビ買収を仕掛けるか。

 今後の計画に関するeWEEKの質問についてグーグル広報からは、同社の使命は世界中の情報にどこからでもアクセスできるようにすることにあるという、型通りの返事しか戻ってこなかった。「わが社はこの使命を形にし続けるために継続的なイノベーションを行っているが、現時点で特に発表することはない」

 しかし真っ向から否定されなかったのは怪しい。検索・アプリケーションメーカーの同社が何か隠していることをうかがわせる。そこでリッチWebアプリの分野に詳しい専門家数人に意見を聞いてみた。

 Gartnerのアナリスト、レイ・バルデス氏はeWEEKの取材に対し、グーグルは画像処理とグラフィックスを手掛ける企業を買収しており、それを通じてリッチWebアプリ機能を提供できる可能性があると語った。

 例えばグーグルは、Google Earthの基盤となるKeyholeを買収し、後にSketchUpの買収で3Dモデリングを追加した。さらに、写真マッピングを手掛けるPanoramioと、グラフィックス仮想化ツールのGapminderも手中に収めた。

 こうした技術とそのエンジニアがいて、Firefoxブラウザコミュニティとの親密な関係があることを考えれば、グーグルにはSilverlightキラーを開発する手段がある。

 バルデス氏によると、マイクロソフトは企業受けがあまり良くなかった自社のWindows Presentation Foundationの軽量版代替製品としてSilverlightを開発した。マイクロソフトがSilverlightの市場投入を急いでいる今のうちに、グーグルは手を打つべきだというのがバルデス氏の見方だ。

 「事情が分かっているなら競争相手が不必要に優位に立つのを黙って見過ごしはしないだろう。対処しなければ後で厳しくなるとさえ言えるかもしれない」

 Forrester Researchのアナリスト、ジェフリー・ハモンド氏は、グーグルがSilverlightに対する答えを用意しているという証拠はないが、何もないとは言い切れないと話した。

 ハモンド氏によると、別の面から見た場合、グーグルはGoogle Web ToolkitとGoogle GearsですでにAjaxに相当の投資を行っている。Androidでは、既存のAjax資産を利用できる可能性もあるモバイルプラットフォームも立ち上げた。

 グーグルは、Flash対抗プレーヤーを幅広く普及させるにはどうすればいいかという課題にも直面することになるとハモンド氏。これは現在マイクロソフトが取り組んでいる問題でもある。

 「YouTubeを利用するのは目に見えている。私はそこを注視していくつもりだ。同社はメディアをH.264にエンコーディングし直してiPhoneに対応させるプロセスを経てきており、理論的にはその取り引きを損なうことなくH.264対応プレーヤーを開発できる可能性がある」

 一方、IDCのメリッサ・ウェブスター氏はこの理屈に反論している。グーグルが再生とユーザーの利便性向上のために利用するのは自社の技術である必要はないとして、「アドビのもの(いずれかの時点で必要になればプレーヤー、真のストリーミングをやるならストリーミングサーバ、オンライン編集ツールなど)を使えばいい」と語った。

 WebプレゼンテーションソフトメーカーSpresentの創業者で社長のサーシャ・クズネツォフ氏も、グーグルのこの市場への参入には懐疑的な見方を示し、グーグルがオープンソースのWebグラフィックス言語「SVG」(Scalable Vector Graphics)に肩入れする公算の方が大きいと見る。

 Forrester Researchのハモンド氏は、グーグルがアドビを買収する公算も同じくらい大きいと言う。「すでに市場に行き渡っているものを買収できるのに、なぜ自社で開発する必要があるのか」

 Gartnerのバルデス氏もその可能性についてはしばらく前から考えていたといい、アドビは中堅企業でありながら超巨大企業と競合しており、マイクロソフトもずっと前にFlashを所有する同社を視野に入れていたと指摘する。グーグルとアドビが組めば、グーグルはリッチWebアプリ市場でシェアを獲得でき、アドビは事業拡大が可能になる。

 しかしウェブスター氏はこれ対して否定的な見方を示し、グーグルはアドビを買収しなくても、リッチインタラクションでやりたいことは達成できると話す。アドビの主力事業はデスクトップPC向けのパッケージソフトであって、グーグルが信奉しているクラウドコンピューティングモデルではないとも指摘、「それでは方向がそれることになる」と言い添えた。

 グーグルがアドビに照準を定めるかどうかは想像の域を出ないが、そうなった場合、マイクロソフトのヤフー買収に対する対抗策としては興味深いとハモンド氏は言う。

 それだけは確かだ。

原文へのリンク

(eWEEK Clint Boulton)

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