コカ・コーラ ゼロを支えるのはシスコとSAP Business SuiteNetweaverを介してビジネスネットワークを構築するのがキモ

» 2008年05月08日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 「SAP SAPPHIRE 2008」の2日目となる5月6日(米国時間)には、4月に独SAPの共同CEOに就任したレオ・アポテカ(Leo Apotheker)氏が基調講演を行った。長年販売やマーケティングを担当していたアポテカ氏らしく、講演では繰り返し“ビジネスネットワーク”が競合他社との差別化要因になると強調した。

“ビジネスネットワーク”が競合優位性を確保できる唯一の道

 2009年に退任予定のカガーマン氏の後継者であるアポテカ氏は、新製品や同社の戦略を語ったカガーマン氏とは別の切り口として、パートナー戦略やエコシステムなどについて講演した。

 アポテカ氏はまず、現在企業が無視できないキーワードとして「Connectivity」「Consumer Power」「Hyper-competition」「New markets」「Economic uncertainty and volatility」の5つを挙げた。

アポテカ氏写真 4月に共同CEOに就任したレオ・アポテカ氏

 Connectivityでは、従来の有線ネットワークに加えてモバイルユーザーがBRICsなどを中心に急増している点を指摘。「モバイルユーザーは10億を超えようとしている。この規模は無視できないレベルだ」(アポテカ氏)と説明した。「Consumer Power」では、「コンシューマーのパワーがいままでにないくらいに増えている。サーチエンジンを中心としてコンシューマーが自主的に行動を起こしている現在、コンシューマに何が起きているかを十分に検討しなければならない」と指摘した。

 続いて「Hyper-competition」では、インドのタタ自動車が英ジャガーとランドローバーを買収するなどグローバル化が進んでいるほか、中国インド勢力の勢いが増している点を指摘した。「New markets」では中国市場を例に出し、同国での契約者数が850万超えているとし、中国やインドなどの新しい市場が急拡大していることを強調した。そして最後の「Economic uncertainty and volatility」では、「米国のサブプライム問題などによる景気の後退懸念によって、経済の不安定化が進んでいる」(アポテカ氏)と語り、「これらすべての問題を解決するのは“ビジネスネットワーク”だ」と指摘した。

 アポテカ氏が語るビジネスネットワークとは、企業がNetWeaverなどを中心としたネットワークを通して連携することによって、さまざまなビジネス連携をしていくもので、同氏は「ビジネスネットワークはネットワークの能力を結集したもので、ユニークな差別化要因となり得る」と説明した。

ハーレーやP&Gがビジネスネットワークの優位性を実証

 講演では、実際にビジネスネットワークを利用した例としてP&Gやハーレー・ダビッドソン、コカ・コーラなどが登場した。

 P&Gは300以上の商品があるが、それらを管理するためにSAP製品を利用。導入前の1994年と比較すると、売り上げが300億ドルから2008年には800億ドルに、株価は13.6ドルから67ドルに向上したほか、コストを6億ドル削減できたという。同社のCIOであるフィリポ・パッセリーニ(Filippo Passerini)氏は、「SAPを導入してビジネスネットワークを実現したことで、競合優位性を維持できている。コラボレーションの数が多ければ多いほど良い結果になる」と語った。

ハーレー写真 自らハーレーに乗って登場したハーレー・ダビッドソンCIOのジム・ハーニー氏

 また、ハーレー・ダビッドソンでは、2年前にSAP CRMを導入した。その効果について、ジム・ハーニー(Jim Haney)氏は「ハーレーは個別の店舗に実際にお客さんが訪れて購入するケースが多い。しかし、CRM導入によって店舗従業員が店舗に出れる時間が増えた。これにより、パーツやアクセサリーの話をお客さんとする時間が増えた。このように、お客さんと接する時間が長ければ長いほど、ユーザーエキスペリアンスは向上する」と評価した。

 アポテカ氏は、これらの事例紹介を受けて「ビジネスネットワークの利点は、コラボレーションすることによって、個別会社の弱点を補うことができる点だ」と語った。一方で、「コラボレーションするためには、コラボレーションをするための能力や、パートナーのプロセスを受け入れる能力も必要になってくる」と指摘した。

コカ・コーラ ゼロを支えるのはシスコとSAP Business Suite

 アポテカ氏の指摘する「コラボレーションするための能力」や「パートナーのプロセスを受け入れる能力」を実現するのが、SAPの「NetWeaver」だというのだ。NetWeaverがビジネスネットワークのパス(path:道)やハブ(hub)になることで、よりビジネスコラボレーションを迅速かつスムースに実現するという。

 例えばテンプレートを利用することで、ベストプラクティスを利用できるほか、自分たちの業界以外のベストプラクティスも再利用できる。また、NetWeaverを利用することで、複合環境で利用できることができる。

 アポテカ氏は、「複合環境で利用できる点は大きい。ビジネスネットワークは、大企業だけではない。中小企業も入ってくるものだ。そのためには、大企業向けの『SAP Business Suite』から、小企業の『BusinessOne』まで取り揃えている強みはある」と強調した。

 同氏は、このようにSAP製品を使ったビジネスネットワークのよい例として、コカ・コーラの倉庫のケースを挙げた。コカ・コーラの倉庫では、サプライチェーンを改善するために倉庫業務を改善。倉庫で配送作業する社員にIPフォンを持たせて、各所にWiFiのアクセスポイントを設置。社員がIPフォンと対話することで、荷物の場所や配送先などが分かる仕組みを構築した。ERPには大企業向けの「SAP Business Suite」を利用し、Datria Systemsの製品や、シスコのルータなどを組み合わせて構築しているという。

コーラ写真 コカ・コーラの配送倉庫のシステム図。IPフォンと音声認識技術を応用することで配送業務を大幅に改善した

 例えば、配送員がIPフォンで「今日配送予定のコカ・コーラ ゼロの場所」というと、音声認識技術を介してシステムが動き、「右に○メートル、左に○ブロック進んだところのB1ブロックにあるので、それをAゲートへ運んでください」などと指令するという。

 コカ・コーラでCIOを務めるエサット・シーザー(Esat Sezer)氏は、「従来は、倉庫の配送業務を手動や人的操作で行っていたため、配送ミスが多かった。しかし、このように自動化したことで間違いが減ったほか、コスト削減にも貢献している」とコメントした。

 アポテカ氏は、「従来のようにパートナーとの関係は1対1ではなくなってきている。コーラのケースでは、コーラのシステムをSAPとシスコ、Datriaの3社でコラボレーションして構築している。このようなビジネスネットワークが競合の重要なポイントになる」と語り、ビジネスネットワークの重要性を説いた。

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