LiMoファウンデーション、トップインタビュー

Androidとの最大の違いはガバナンス、LiMo

2008/05/23

 アップルのiPhoneやグーグルのAndroidなどが話題を集める一方で、Linuxベースの携帯電話向けプラットフォーム「LiMoプラットフォーム」が着実な進歩を見せている。LiMoファウンデーションで実質トップを務めるエグゼクティブ・ディレクター、モーガン・ギリス(Morgan Gillis)氏に話を聞いた。

――Androidとの違いを教えてください。

limo01.jpg LiMoファウンデーション エグゼクティブ・ディレクターのモーガン・ギリス氏

ギリス氏 まず、技術面では両者のカバー範囲が異なる点です。AndroidがOSやミドルウェア、ユーザー・エクスペリエンスの部分に至るまですべてを含むソフトウェアスタックを定義しているのに対して、LiMoプラットフォームはミドルウェアまでしか含みません。これはLiMoの理念で、意図的にそのようにしています。LiMoはキャリアや端末メーカーが集まった業界団体ですが、共有することが合理的だと参加メンバが考えるOSやミドルウェアは共有して維持・開発しますが、差別化できるところは各メンバに残しています。差別化要因はユーザー・エクスペリエンスやコンテンツの部分にあり、その部分はLiMoには含みません。競争すべきところは競争するというのが、各社にとって非常に合理的判断なのです。

――すると、ある端末メーカーがAdobe AIRを採用して、別の端末メーカーがWebKitだけを使うということが起こるのが、LiMoの目指す世界ですか。

ギリス氏 そういう環境を作るというのがまさにLiMoの狙いです。OSやミドルウェアは差別化要因として意味を持ちませんが、ユーザー・エクスペリエンスの部分は今でも非常に戦略的に重要な位置付けにあります。

――例えばNTTドコモがiモードをアプリケーションとして実装して提供することはできますか?

ギリス氏 可能です。LiMoはアプリケーションや、それを実装するための言語、開発フレームワークなどについてオープンな立場を取っています。2008年後半にリリース予定のSDKでは、ネイティブ、WebKit、Java環境に対応しています。

 LiMoの理念は、成功するアプリケーションというのは市場原理を通じて選択されるのだというものです。現在、アプリケーション作成のための新しい技術がいろいろ登場していますが、LiMoは特定の技術に縛られません。この柔軟性がLiMoの利点の1つです。端末メーカーからすれば、Adobe Flash LiteだろうとSilverlightだろうと、どんなものでも対応可能です。アプリケーションのフレームワークのためにOSやミドルウェアを変える必要はないのです。また、日本の端末メーカーにしてみれば、よりグローバル市場に向けた製品開発がやりやすくなるというメリットもあるでしょう。

 ビジネスモデルに関してもLiMoは関与しません。ウォールド・ガーデン・モデルと呼ばれる囲い込み型のビジネスモデルから、もっとオープンなビジネスモデルまで幅広く含まれることになります。

――技術面以外でのAndroidとの違いは?

ギリス氏 もう1つのAndroidとの大きな違いはガバナンスです。LiMoは2007年1月にNEC、NTTドコモ、モトローラ、パナソニック・モバイル・コミュニケーションズ、オレンジ、サムスン電子、ボーダフォンの7社によって設立されました。その後もソフトバンクや韓国最大のキャリア、SKテレコム、米国2位のベライゾン・ワイヤレスといったキャリアのほか、AMD、ARM、エリクソン、LG電子などのデバイスベンダ、モバイル向けソフトウェア開発のアクセス、ウインド・リバーなど、現在では合計41社が参加しています。

 こうした企業がLiMoに無償で供与している技術は、すでに市場で実績のある十分に成熟したものだということもAndroidとの違いです。

 また、特定の1社がプラットフォームの方向性を決められないというのもLiMoの特徴です。公開された規約集に基づくガバナンス体制をしいていて、知財の扱いについても明確にしています。これに対してAndroidはグーグルが実質的に主導権を握っています。

 これまでWindows MobileやSymbianのS60が業界で広く受け入れられるに至らなかったのは、業界が特定ベンダにコントロールされないプラットフォームを望んでいるからなのです。

――参加メンバ間で利害が対立し、標準化プロセスに手間取ることはありませんか?

ギリス氏  プラットフォームの標準化プロセスは、これまでのところ非常にうまく行っています。もちろん何もかも簡単に決まるというものではありませんが、「良いプラットフォームを作ろう」というコミットメントがメンバ間で共有されているので、何かを決めるのに投票という手段に頼る必要があったのは2回だけです。それ以外はすべて話し合いだけで決定しています。

 LiMoで何かが決定した場合、それを売り込む必要はありません。現在LiMoに参加しているメーカーだけでも全世界で出荷される端末の半分、5億人のユーザーを抱えるだけのシェアを持っています。ですから、LiMoの決定は業界の決定でもあるのです。従来の意思決定というのは、どこか1社によるもので効率は良かったかもしれませんが、その決定について業界に説明し、売り込まなければなりませんでした。これは重要な違いです。

 今年はより重要な会社がLiMoに参加すると思いますし、2009年には多くのLiMoを使った端末が市場に出てくるでしょう。また、長い目で見ればLiMoプラットフォームは携帯電話端末だけでなく、より広くデジタル家電などで使われる可能性があります。2、3年で実行可能なプランが出せるかもしれません。

――あなたはシンビアンから移籍されたそうですが、現在のシンビアンをどうご覧になっていますか?

ギリス氏  シンビアンは、特に株主でもあるノキアとともに一定の成功を収めました。しかし、それ以外の市場ではそれほど成功しているとは言えません。

 モバイルインターネットは、日本を除く市場でまだ立ち上がっていません。iPhone登場のインパクトは、はかり知れません。iPhoneは出荷台数こそ限定的ですが、iPhoneの登場によって欧米の開発者やユーザーが、モバイルインターネットの可能性に気付いたのです。アップルがSDKを提供するなど非常に大きな変化も起こっています。

 「オープン」が時代の1つのキーワードです。テクノロジーで言えば、プロプライエタリなソフトウェアからオープンソースに、ガバナンスでいえば1社によるコントロールから多数のメンバによるガバナンスに、そして開発者やユーザーには、オープンな選択肢というふうに時代が変わってきています。

 シンビアンと異なるアプローチを取るLiMoには、より広範囲な、全世界的な普及の可能性があると信じています。モバイル端末のOSで重要なのは、技術よりも、ガバナンスやビジネスモデルです。

 シンビアンからLiMoファウンデーションに移籍した個人的な動機は、全業界が喜んで採用することになるかもしれない初めてのプラットフォームの制定プロセスに関わりたいというものでした。

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(@IT 西村賢)

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