ネットワークただ乗りには、ネットワーク付加価値で対抗せよジュニパー、「J-Tech Forum 2008」を開幕

» 2008年05月28日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 ジュニパーネットワークスは5月28日、タイ・バンコクにてイベント「APAC J-Tech Forum 2008」を開幕。同社の方向性などを発表した。基調講演では、米ジュニパー 戦略および計画担当副社長 ジュディ・ベニンソン(Judy Beningson)氏が「金のなる木、ならない木〜サービスプロバイダのネットワークを考える」と題した講演を行った。

パケット配達屋から、サービス配達屋への変換が必要

 ベニンソン氏は、GoogleやSalesforce.comなどを代表とした新しいビジネスモデルの誕生や変化にネットワークをどれだけ対応させていくのかが非常に重要になってくると現状を分析。「サービスプロバイダビジネスは、いままさに1つの転換期を迎えようとしている」とし、「コンテンツの重要性が増している。エンドユーザーを満足させるネットワークを提供しなければならなくなっている」と強調した。

ベニンソン氏写真 米ジュニパー 戦略および計画担当副社長 ジュディ・ベニンソン氏

 現在のビジネスモデルを立場別に説明すると、「一般的なサービスプロバイダ」「クリエーター」「ディストリビューター」の3種類に分別できる。例えば、一般的なサービスプロバイダとは米ベライゾンなどで、帯域課金やサブスクライブモデルが標準的なビジネスモデルだ。「クリエーター」は、コンテンツクリエーターの手伝いをするベンダで、ディズニーやGoogleなどが代表的な存在。そして「ディストリビューター」は、プロバイダとクリエーターをつなぐビジネスモデルで、米AOLなどが代表例となる。

 ここで問題となるのは、プロバイダやディストリビューターのビジネスモデルだ。Salesforce.comやYouTubeなどのWebサービスを購入する際、エンドユーザーはSalesforce.comなどに直接料金を支払うため、プロバイダにお金は落ちない。日本ではいわゆる「ネットワークただ乗り論」といわれている問題だ。

 この問題の解決策としてベニンソン氏は、「サービスベンダは、パケットを右から左へ移すだけではなく、サービスをデリバリーするベンダにならなくてはならない。ネットワークに付加価値を加え、そこに対してお金を支払ってもらうようにするべきだ」と提言。例えば、「YouTubeのために1Mbpsの帯域を保証するサービス」などを用意し、YouTubeやオンラインゲーム利用時に、より快適に閲覧・利用したいユーザーに付加価値として有料で利用してもらうケースなどが考えられる。

 この点に関して、ベニンソン氏は「ネットワークはとても大きな資産だ。このままではただのパケットを運ぶプロバイダで終わってしまうかもしれない。プロバイダはクリエーターになるべく、ネットワークに付加価値を追加してサービスプロバイダになるべきだ。それができるのは『誰がつながっているか?』を知っているプロバイダだけだ」と語り、講演を締めくくった。

ネットワークプロバイダがサービスを提供するためにSDKを提供

 続いて登壇したのは、ジュニパー アジアパシフィック地域のCTOであるマット・コロン(Matt Kolon)氏。コロン氏は、技術面からサービスプロバイダのネットワークを語った。

コロン氏写真 ジュニパー アジアパシフィック地域 CTO マット・コロン氏

 コロン氏はまず、いまネットワークサービスプロバイダに求められている点について、「ニーズに対して、必要に応じて帯域を提供すべきだ。すでにそれを実現しているベンダもいる」と定義。「ユーザーは素晴らしい体験にお金を払いたがっている。1日中BitTorrentをやっているユーザーが全体の20%の帯域を占有しているが、これをうまく管理するなどすれば、より良い品質のネットワークを提供できるだろう」と語った。

 つまり、より細かなサービスレベルごとに品質を保証する「マイクロSLA(Service Level Agreement)」のようなサービスを提供すべきだと提案した。「例えば、オンデマンド映画を閲覧しているときに十分な帯域を保証すれば、それがネットワークの高い付加価値として、十分有料サービスとして提供できるはずだ」(コロン氏)という。

 ジュニパーでは、このようにネットワークサービスプロバイダが付加価値を提供しやすくするために、同社の専用OSであるJUNOS向けのSDK(Software Development Kit)の提供を2007年12月より開始した。「これにより、ユーザー自身が自分でアプリケーションを作ることができる。今後、JUNOSにはさらにさまざまなコンポーネントが統合される。それによって、SDKでできることはいっそう増えていくだろう」(コロン氏)と説明した。

 コロン氏は付加価値サービスの実例として、「香港のPCCWのケースでは、英国のプレミアリーグの試合をPCやIP-TVや携帯電話などに配信し、ユーザーが試合を見逃さないようなサービス『クアドラプルプレイ』を提供している。このように、ユーザーの『プレミアリーグの試合が見たい!』というニーズに対して、『どこにいても見逃さない』という付加価値を提供している。これこそまさにネットワークサービスの付加価値だろう。また、NTTグループでは、NGNで高度なQoSや認証を提供することで価値を上げている」というケースを挙げた。

 最後には、「今後ネットワークサービスベンダは、コンテンツに付加価値を提供するコンテンツクリエーター化を促進するべきだ」(コロン氏)と強調し、講演を終了した。

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