内部統制の監査報酬は、前年度比50%増の10億円強に〜NRI監査基準は、実施基準よりも厳しくなる傾向が

» 2008年07月07日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 野村総合研究所(NRI)は7月7日、報道関係者向けに「内部統制整備プロジェクトは未だ始まっていない」と題した説明会を開催。NRI ERMプロジェクト室 上級コンサルタント 能勢幸嗣氏が説明した。

内部統制監査費用は平均10.6億円

 能勢氏は冒頭、昨年より話題に上がることが少なくなってきている内部統制について、「上場企業であれば、上場審査を経ているため、最低限の統制は存在している。その後、会社運営をするに当たって、現場ではさまざまな工夫や暗黙/ローカルルールができあがっていた。4月に本番期を迎えた日本版SOX法では、それらのローカルルールを可視化する作業に過ぎない」と分析した。

能勢氏写真 野村総合研究所 ERMプロジェクト室 上級コンサルタント 能勢幸嗣氏

 また、NRIが実施している研究会における調査結果(有名企業30社が参加)から、評価の実施に必要な要員は全社的内部統制に6.5人、業務プロセス統制に14人、IT業務処理統制に8.7人、IT全般統制に6.6人、子会社・海外拠点で8.3人必要であり、全体では40人強が必要だとした。要因の確保では、全社的内部統制や業務プロセス統制では9割程度を内部調達しているが、IT業務処理統制やIT全般統制、子会社・海外拠点では2割近くを外部コンサルタントなど、外部から調達していることが分かった。

 また、米国証券取引委員会(SEC)に登録しており、米国SOX法の監査を受けている日本企業10社を調査したところ、「監査法人による内部統制の監査」には平均して10.6億円かかっているほか、2006年3月期と比較して2007年3月期には監査報酬が平均63%増しになっているという。この点について、能勢氏は「日本でも、内部統制監査の見積もりを取ると、おおむね前年度比50%増を提示されることが多いという」と説明した。

米国SOX法よりも企業負担が少ないというのはうそ!?

 日本版SOX法では、米国の反省を生かして「トップダウンでのリスクアプローチ」を採用し、企業の負担を軽くしていると金融庁などは説明しており、同庁が公開しているQ&Aなどでもその点を述べている。

 しかし、能勢氏は「結局、日本での内部統制監査への経験不足から、初年度から評価範囲を絞り込むことは難しい。米国でも絞り込めたのは3年目くらいからといわれている。しかも、各監査法人は、慎重を期すために実施基準よりも厳格な監査法人内の基準を設けているケースが多い。日本版SOX法では、ダイレクトレポーティングを採用していないものの、その分経営者評価に依拠できるように企業側は厳格に評価を行って報告書を作ることを求められている。これらを勘案すると、米国SOX法と比較して負荷が軽くなっているというのは難しい」と語った。

SOX法の先には、業務改革が必須

 米国SOX法適用後、3年目を迎えているSEC登録企業では、内部統制対応コストを回収するように指示が出始めており、NRIの調査でも「既存の業務監査/内部監査と日本版SOX法の統合」や「業務改革への発展のさせ方」などに取り組もうとしている企業が増えているという。その業務改革における主要人物になるのが、プロセスオーナーだ。

 例えば、売上計上のリスクコントロールでは、関西支社では原票データを入力後、担当者が会計データベースから会計プルーフリストを取り出して承認していた。一方、関東支社では、部長が債権管理データベースから売掛帳を取り出して確認し承認していたというケースがあるとする。この場合、「売上情報の誤入力を防ぐ」というコントロールにおいて、関西支社も関東支社もそれなりに有効だが、評価においては方法が異なるため、手間が増える。このため、業務改革を実施してどちらかに統一することが評価コストの削減には必要となる。「このような業務改革することこそが、統制数を削減して評価コスト削減につなげることができる。つまり、この業務改革こそが真の意味での内部統制整備だ」(能勢氏)とコメントした。

 しかし、現実的にプロセスオーナーだけで業務改革を実施するのは難しい。「プロセスオーナーは本業で忙しく、時間がない。また、部門間の調整も難しい。これはまさしくBPRが昔流行して、それが長続きしなかったときと同じ理由だ」と説明。これを回避し、しっかりと業務改革するためには、すでに存在する業務改革活動や監査活動の棚卸しを実施し、新たな仕組みは作らないことが重要だとした。また、強力な事務企画機能を持った部署を専属で作ることが重要だという。能勢氏は「米GEは社員の5%がこのような事務企画を担当し、シックスシグマなどを行っている。日本でも10人程度でよいからこのような部署を作るべきだ。また、システム部門がこのような機能を担い、システム部門の立場から業務改革提案をするのもよいのではないだろうか」と提案した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ