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アダプションの機運高まる

国際会計基準、いま日本で何が起きているか

2008/11/17

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 企業の業務システムや業務プロセスに大きな影響を与える会計基準の今後が極めて不透明な状況だ。日本は長く日本独自の会計基準を採用し、欧州発の「国際会計基準」(IFRS、正確には「国際財務報告基準」)との差異を徐々になくす方向(コンバージェンス)だった。しかし、ここに来て日本の会計基準を取りやめて、一気にIFRSを採用する動き(アダプション)が出てきた。SAPジャパンのイベント「SAP BUSINESS SYMPOSIUM PREMIUM '08」で、コントロール・ソリューションズ・インターナショナル 代表取締役社長で公認会計士の加藤厚氏が、最新動向を説明した。

米国の方針転換がきっかけ

 「最近突然、アダプションの動きが出てきた」(加藤氏)。日本でIFRS(用語解説)が注目されるようになったのは今年8月からだ。具体的なきっかけは米国の心変わり。米国は日本と同様に国内の会計基準である「US GAAP」とのIFRSとの差異をなくす方針を2002年の「ノーウオーク合意」で決めていた。しかし、米国証券取引委員会(SEC)が2007年8月に米国企業がIFRSを適用できるかを問う「コンセプト・リリース」を公表。さらに同年11月にはIFRS適用の米国外企業がUS GAAPに合わせて財務報告を調整しなくてもいいようにした。

 日本にとって決定的だったのは2008年8月。SECが2014年から米国企業にもIFRS適用を認める案を決定したことだ。2009年からは一部企業に任意でIFRSを適用できるようする方向で、最終決定は2011年の予定。IFRSとの差異をなくすコンバージェンスから、IFRS自体を採用するアダプションへの方針転換だった。具体的なロードマップがまだ未公表(SECは11月14日にロードマップ案[PDF]を公表した)で、米国大統領の交代や時価会計を認める気運が高まるなど紆余曲折は予想されるが、方針転換の大きな流れは覆らないだろう。

ifrs01.jpg コントロール・ソリューションズ・インターナショナル 代表取締役社長で公認会計士の加藤厚氏。企業会計基準委員会(ASBJ)の元委員でもある

「先進国でIFRSを使わないのは日本だけ」のリスク

 米国がIFRSに転じたことで「先進国でIFRSを使わないのは日本だけになり、世界で孤立する」(加藤氏)というリスクが生じる可能がある。IFRSと日本の会計基準では差異があり、日本企業が欧州や米国で資金調達をしようとしても、海外の投資家は会計の尺度が違うために財務の健全性をチェックできないのだ。日本企業への投資が減る危険がある。日本でもIFRSを適用すべきとの議論が多くなってきたのはこういう危惧が背景にある。

 米国の方針転換を受けて、10月23日には金融庁の企業会計審議会の企画調整部会でIFRSのアダプションについて、検討が始まった。ただ、9月にはコンバージェンスを進めるための工程表が企業会計基準委員会(ASBJ)から発表されるなど「まだ、コンバージェンスの流れは続いている」(加藤氏)。日本の会計基準の将来は、いまのところ宙ぶらりんなのだ。ITサービス業界が対応に躍起になっている「工事進行基準」の採用もコンバージェンスの1つ。多くの企業はこれまでコンバージェンスを見越して動いてきたのが実際だ。

コンバージェンスは「果てしないプロセス」

 アダプションか、コンバージェンスか。どちらにもメリットとデメリットがあり、金融庁など日本の規制当局は難しい判断を迫られている。まずは従来のコンバージェンスを続ける場合。コンバージェンスについてはロードマップもできていて、日本側は粛々と作業をすれば2011年にはその差異がなくなって、日本の会計基準がIFRSと同等と認められるはずだ。しかし、加藤氏によればIFRSは「Moving target」、動く標的だ。IFRS自体が頻繁に変更されるため、その変更に合わせて日本基準の変更も頻繁に必要になる。「果てしないプロセス」(加藤氏)となり、日本企業の疲弊が心配される。

 また、これまでは米国もIFRSとのコンバージェンスを行っていたため、IFRSをとりまとめる「国際会計基準審議会」(IASB)も日本側の作業に付き合っていた。しかし米国が方針転換し、日本だけがコンバージェンスを行う場合、「個人的にはIASBは付き合ってくれないのではないかと心配している」と加藤氏は述べる。コンバージェンス作業が遅延、破綻すれば日本企業は本当に世界で孤立する。

アダプションは受け入れ方法がポイント

 アダプションというと大事に聞こえるが、実は「IFRSと日本の基準には大きな差はない」(加藤氏)という。一番ポイントになるのはどういう形で受けいれるかだ。連結の財務諸表のみをIFRSの対象にして、単体決算は日本基準を継続するか、連結・単体ともにIFRS適用するかだ。IFRSを強制適用するか、任意適用するか、非上場企業にも適用するかなども問題になる。

 いまの企業会計審議会での議論では「アダプションに前向きな意見が出ている」(加藤氏)といい、連結と単体を分離して、連結決算のみを先行してIFRS適用する意見が出ているという。ただ、強制適用か任意適用かは議論が分かれているようだ。日本の関連法の改正も必要になるだろう。

 また、日本の会計基準とIFRSには大きな違いはないが、「日本の基準には詳細規定や例外規定が多くあり、この差異をどうするかが問題になる」と加藤氏は指摘する。例えば、企業結合や金融商品、リース、税効果会計、退職金給付、ストックオプションなどに関してだ。これら小さな差異を埋めるにはIFRSをどう解釈するかという指針が必要になるが、現在IASBは各国が解釈指針(IFRIC)を作成するのを禁じている。さらに本格的にIFRSを導入するに当たっては企業の財務部門だけでなく、監査法人や規制当局も新たな教育が必要。業務システムの改修も当然迫られる。

2011年までは日本基準、先行適用は認める

 加藤氏はこれらの状況を踏まえて、「2011年までは連結・単体とも日本基準で行くのがよい」と提言した。ただ、上場企業の連結決算については、2011年以前にIFRSを任意で適用することを認めることを提案。2012年以降は、上場企業の連結決算についてはIFRSを強制適用し、単体決算は日本基準を継続。非上場企業は日本基準を認めるべきとした。さらに2014年頃からは単体決算についても上場企業はIFRSを適用すべきと提案した。つまり、上場企業については2014年以降は連結・単体ともIFRSを強制適用するということだ。

 コンバージェンスについては2011年まで現在のロードマップで進める。2012年以降は非上場企業向けの日本基準としてIFRSとのコンバージェンスを別プロジェクトで進めることが考えられると提言した。

 

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