IT投資 冬の時代、IT部門の生き抜き方アクセンチュア調査結果から考える

» 2008年12月17日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 アクセンチュアは12月17日、日米欧およびアジアのグローバル企業400社強に行ったIT活用についてのアンケート結果を発表した。世界的な不況で企業のIT投資は落ち込みが予測される。アクセンチュアは「IT投資の冬の時代が来る」としながらも「冬の時代をどう生き抜き、未来に備えるかが重要だ」として、戦略的なIT投資の重要性を訴えた。

 回答したのは欧米アジアの企業が260社。日本企業は154社が回答した。結果から分かる日本企業のIT投資の特徴は、IT部門ではなく、事業部門が中心にあるということだ。「ITの効果についての責任を誰が持つのか」との質問に対して、米国企業は70%、欧州企業は67%が「CIO、CTO」と回答。対して、日本企業は30%で、42%は「事業部長」と答えた。IT部門ではなく、事業部門がリードすることが多いようだ。事業部門がITシステムを管轄することで、ユーザーのニーズに沿った開発ができるという面があるが、一方で、作りっぱなしで全社的な最適化が難しいという面もある。

 アクセンチュアのシステムインテグレーション&テクノロジー本部 テクノロジーコンサルティング統括 エグゼクティブ・パートナーの沼畑幸二氏は「CIOこそが責任を持つべきといいたいわけではない」としたうえで、「日本のいまの商習慣の中で事業部門が責任を持つのであれば、事業部門が効果を出せるような支援をIT部門が考えないといけない」と指摘した。その支援とは具体的にはカットオーバー前後の作業。IT投資が決まる前には事業部門に対して、開発するシステムによってどのような効果を出すのかを約束させる必要があると沼畑氏はいう。

アクセンチュアのシステムインテグレーション&テクノロジー本部 テクノロジーコンサルティング統括 エグゼクティブ・パートナーの沼畑幸二氏

 また、カットオーバー後にはシステムで確実に効果を出すためのユーザー教育が重要になる。この教育はアプリケーションの操作法ではなく、「在庫を減らす」「リードタイムを短縮する」などビジネス上の効果を出すために「システムを使い倒す」(沼畑氏)ことを目的とした教育だ。同氏は「投資段階での効果の約束、併せて効果に対して必要な執着心を持って追求する気持ち」を事業部門に植え付ける必要があると語る。

事業部門リードでSOAに遅れ

 事業部門がIT投資をリードすることによる弊害もある。それは新技術の採用が遅れるということだ。事業部門は現状の課題をITシステムで解決することに注目するため、将来を見通したIT投資にはなかなか目がいかない。その1つの例がSOAの採用だ。調査によるとSOA採用を検討、計画している日本企業はわずか9%で、米国企業の34%、欧州企業の37%とは大きな開きがある。ITシステムの個別最適が進み、縦割りのシステムが乱立していることもSOA採用が進まない原因。日本企業への調査では、SOA適用への障害として「ビジネスメリットの定義」「経営層への説明・説得」「BPRの準備不足」が挙げられている。

日米欧企業の新テクノロジの採用状況。日本企業のSOA採用率は7%
SOA導入を検討、計画している企業の割合。日本企業は9%

 沼畑氏はまた、欧米企業が主にレガシーアプリケーションの再利用をSOAで考えているのに対して、「日本企業はSOAで新規アプリケーションを構築する傾向がある」と説明する。欧米企業と比較して複雑とされる日本企業の業務プロセスでは、SOAによる新規アプリケーション開発はハードルが高く、IT部門が尻込みする一因にもなっているという。沼畑氏はレガシーアプリケーションを生かしたまま、別のユーザーインターフェイスをかぶせて利用しやすくするなど欧米企業型のSOA導入も検討すべきと訴えた。ただ、沼畑氏は「私が顧客と話して感じるのは、次のシステムの構想にはSOAが入っていること」とも話し、導入形態には違いがあるものの着実に採用が増えるとの考えを示した。

足元を固めるためのIT投資

 アクセンチュアの調査によると、CIOやIT部門が企業のトップから求められるのは「もっと効果を出して欲しい」や「改革の先導役として目線の高い提案をして欲しい」ということ。しかし、景気の先行き不安を受けて今後は、コスト削減や迅速なサービス提供を経営から求められることは確実だ。そこで問題はIT投資のどの部分を削減するかということ。一般的なのはITシステムの新規開発を凍結するというコスト削減策。しかし、これでは「将来、ITシステムの能力が低下し、逆にオペレーションコスト(運用管理費)だけが増大しかねない」と沼畑氏は警告する。

 沼畑氏が訴えるのは「オペレーションコストを下げ、足下を固めるためのIT投資」だ。オペレーションコストの削減では過去のIT投資を精査し、使い続けるシステムとほかの安価なシステムやサービスで代替できるシステムに分ける。また、システム開発や運用のための方法論を整備、プロセスの標準化などを行ってシステムの構成を柔軟に変更したり、アウトソーシングしやすいようにする。

 将来の成長の源泉となるITシステムの新規開発では「作らずに利用する」考えをベースにSaaSやPaaSを利用し、「投資を抑えつつ早く効果を出す。効果のめどが立ったら拡大していく」とアドバイスした。さらに、ITの全体最適を考えると「問題は隠れたコスト」として、IT部門が管理しない事業部門運用のサーバやアプリケーションを「見える化する」ことが重要と強調した。「いまこそITを集権型にしないと全体的なコスト削減はできない。ガバナンスを取り戻すことだ」

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