“もったいない”が、日本を低炭素化し産業変革を救う!?アクセンチュア、スマートグリッドの実践を支援

» 2009年08月27日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 アクセンチュアは8月26日、ITを利用して電力供給を最適化する環境負荷低減活動「スマートグリッド」の日本における可能性について説明会を行った。月に1度、人手で検針している電力メーターから、“15分単位”といった細かいメッシュで電力の使用状況を自動的に収集できる「スマートメーター」に切り替え、電力の使用状況を分析したり、それに基づいて必要なだけ発電したりする取り組みで、電力供給の効率化や環境負荷低減に貢献するという。同社では、電力会社がデータを収集・分析するためのITインフラ整備や、官民が連携してスマートグリッドに取り組むためのプログラム全体管理を支援するという。

写真 IT基盤を使って、複数の電力供給源と電力消費を統合管理し、環境に優しい生活インフラを実現する

 スマートグリッドは、米国の環境政策「グリーンニューディール政策」の1つとして組み込まれるなど、世界的に注目を集めている施策。米国のほか欧州でも取り組みが進みつつあり、低炭素化のトレンドにあるいま、急速に各国に浸透していくとみられている。

 アクセンチュア 経営コンサルティング統括本部長の西村裕二氏は、「ポスト京都議定書の制度設計に向けて国際的な議論が交わされている中、今後、日本も劇的なCO2削減を迫られることは間違いない。だが、現在は代替エネルギーのコストが低下しつつあるほか、電気自動車というモビリティ面での革新も進んでいる。世界的に低炭素化の流れにあるいま、それらとの相乗効果を狙ううえで、スマートグリッドは日本でも非常に重要な取り組みとなるだろう」と解説した。

 ただ、スマートグリッドの本格展開に、民間の電力会社が単独で取り組むにはコスト負担が大きい。また、エネルギー、自動車、家電、ITといった幅広い業界、さらには消費者にも影響が及ぶことから、「社会全体で投資対効果を考えていくような“官民連携”が実現のポイントになる」(西村氏)という。

 その事例として、米アクセンチュア グローバル スマートグリッド チーフ・アーキテクトのジェフリー.D.タフト博士が、米国コロラド州ボルダー市のケースを紹介した。同市は、2007年12月から2009年12月まで、電力会社の米エクセルエナジー、米アクセンチュアをはじめ計7社と連携してスマートグリッドを実施。約1億ドル(約100億円)を投じ、スマートメーターによる消費電力の可視化をはじめ、風力・太陽光発電といった再生可能エネルギーの利用や、プラグインハイブリッド電気自動車の導入などを行っている。

 現在、これにより「エネルギー管理による省エネ効果」として年間約2.5%のCO2削減、「送電ロスの削減効果」として年間約20%のCO2削減のほか、「スマートメーターを使った検針・請求の自動化」による業務コストの50%削減などが見込まれているという。オランダ・アムステルダム市でも2016年まで、約11億ユーロ(約1500億円)をかけてスマートグリッドに取り組んでおり、こちらも高い効果が期待されている。 

 アクセンチュア 素材・エネルギー本部 公益事業部門統括 エグゼクティブ・パートナーの伊佐治光男氏は、「低炭素化の取り組みというと、分散電源や電気自動車、省エネ機器などハードウェア面が注目されがちだが、最も大切なのはそれらを使う消費者の行動をどう変えるかにある。その点、スマートグリッドは、スマートメーターを使って時間別・機器別のエネルギー利用情報を可視化する。“もったいない文化”がある日本なら、消費者の行動が変わる可能性は高い」と解説した。

スマートグリッドの流れに取り残されるべきではない

 ただ、スマートグリッドの実践には複数のハードルが存在する。1つは影響範囲が広範なため、官民が連携した都市単位での取り組みが求められること。また、本来的に“営利活動”ではないうえ、投資対効果が出るまでに時間がかかる。この点で、行政、企業、消費者のそれぞれに環境負荷低減に向けた高いモチベーションが求められることだ。

写真 アクセンチュア 素材・エネルギー本部 公益事業部門統括 エグゼクティブ・パートナーの伊佐治光男氏

 加えて、スマートグリッドの実践には、一定の形式やスタイルがあるわけではない。「センサー技術やデジタル通信、電力情報を管理するソフトウェアなどを使って、電力供給の可視化/制御/自動化・自律化/統合化を行う」といった基本要件を、各都市の環境や住民のニーズに応じてどう実現するか、各地域“独自の在り方”を考えなければならない。この点でも、行政、企業、住民の強い自主性と深い理解、プログラム全体を統合的に管理する知見・ノウハウが求められる。

 これらを受けて伊佐治氏は、「住民の理解はもちろんだが、“自治体としての特色を出していこう”といった行政の意思が不可欠となる。行政と公益企業が手を組めるよう対話する環境も必要だ。今後、アクセンチュアとしては、行政と公益企業が対話する機会を醸成していきたい」と述べた。

 また、日本では電力会社のサービス供給体制が非常に安定しており、現時点でも効率的といえるため、一部にはスマートグリッドの必要性に懐疑的な見方もある。伊佐治氏はこの点にも触れ、「世界は確実に低炭素化のトレンドにあり、スマートグリッドの取り組みも加速している。そしてスマートグリッドが、電力、自動車、家電、ITといった幅広い産業分野に影響を与えることを考えれば、ビジネスの観点からみても、この世界的な流れに取り残されるべきではないだろう」と力説。「アクセンチュアとしては、環境と産業、双方の視点から、確実に投資対効果を生むITインフラ構築、プログラム全体管理を支援していきたい」とまとめた。

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