さくらインターネットがMSP事業に参入するワケ
日本のIDC事業を“輸出産業”にする、さくら社長
2009/10/29
海外のサーバレンタルビジネスが日本市場に一部入り込みつつあるなか、「海外から来るなら弊社にも(海外へ出る)チャンスのはず。こんなチャンスがあるのに、なんで(ほかの事業者は)出ていかないのだろうかと思いますねぇ」。関西弁イントネーションで、ひょうひょうと中長期的な海外進出の展望を語るのは、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏だ。ご存じのように、さくらインターネットはレンタルサーバ事業者の草分け的存在で、現在はホスティング事業とIDC事業が収益の2本柱だ。
ここに新たに第3の事業の柱を加えようとしている。サーバ貸しと同時に運用管理の面倒を見る、いわゆるMSP(Managed Service Provider)事業だ。メニューの詳細は未発表だが、これを足がかりとして海外進出が十分可能というのが田中氏の主張だ。“輸入超過”と言われて久しい日本のIT産業にあって、自分たちにはITの輸出ができるのだという。
ざっくり、従来のマネージド・サービスの半額
2009年10月29日に発表した米ネットエンリッチ(NetEnrich)との提携により、さくらインターネットはMSP市場に乗り出す。
2004年にレンタルサーバ市場で月額125円という価格破壊を起こした同社らしく、後発としての同社の強みは価格だという。「他社の100倍良いとは申し上げられませんが、ざっくり言えば、だいたい従来のマネージド・サービスの半額、もしくは同額でサーバ数が2倍というイメージです」(田中氏)。他社が月額20〜30万円でサーバ5台というところ、専用サーバのレンタル料も含めて10万円程度で提供できるという。最低レベルでは1台当たり数千円からスモールスタート可能で、「サーバをレンタルして運用・保守しても、リース料より安い」程度という。現在すでに10社前後の企業と話を進めており、数社で導入がほぼ決定しているという。
さくらインターネット取締役社長で創業者の田中邦裕氏。1996年、まだ学生だったときに開始した学内向け無償レンタルサーバサービスがスタート地点価格で優位性を保てる理由は、提携を発表したネットエンリッチが、ITインフラの遠隔監視管理サービスを行うのにインドの人材を活用していることにあるという。米国に本社を置いているが、ネットエンリッチ自体がインド出身のエンジニアが興した企業で、インドにオフショア拠点を持つ。「インドでは人件費が上がっていて、10分の1ということはありません。それでも日本よりはるかに安い」(田中氏)。例えば1人月50〜100万円の単価ならば、日本では仕様書通りの実装をするプログラマしか雇えないが、インドならActive Directoryを使ってネットワーク全体を構築できるエンジニアが雇えるといった具合という。
運用監視やサーバのパッチ当てなどインドから365日24時間体制で行うが、オンサイト作業や一次対応、顧客対応などは日本で行う。これまでMSP事業では、複数のIDC事業者と提携した事業者が、トラブル時対応などで異なるIDCに入局作業をする必要があったため、オンサイトサポートやスポット料金が高くなりがちだった。これに対してさくらは、自社運営のIDCに常時スタッフを抱えているのがメリットだという。
運用保守のサービスメニューは、ブロック方式。対象ノード数やサーバの死活監視のみか、DBサーバの監視までやるのか、あるいはロードバランサやルータといったネットワーク機器も監視するのかといった監視内容で価格が決まる。「細かい組み立てができるのが差別化要因」(田中氏)という。現在、提供を予定しているのは、サービス/リソース/プロセス監視、障害復旧作業、サーバ・ネットワーク機器の設定、ログ管理やレポート、バックアップ、ユーザーポータルの提供などだ。
さくらインターネットでは、SMB市場にフォーカスした国内向けMSP事業で、今後3年以内に10億円の売上規模を目指すという。従来のコロケーションやサーバレンタル事業とのシナジー効果もあるので、実際にはビジネスの規模全体としては、もっと伸びるだろうと読んでいるという。
将来的には企業内のデスクトップ管理も視野にあるという。
インド拠点からウイルススキャンの状況を監視したり、ヘルプデスクサービスを提供するといったことだ。現在、コピー機やFAXといったOA機器のオンサイト保守のために企業が支払っている月額5万円といった予算を、企業内のデスクトップ管理に振り向けてもらえればかなりの成長率になる、と読む。実際、ネットエンリッチは米国で、ネットワークアプライアンスを企業内に設置することでデスクトップまで監視するサービスを始めているという。
日本のデータセンターは海外で勝てる
国内市場での勝算にも増して、田中氏が語るビジョンとして興味深いのは、日本のデータセンター事業は海外で勝てる、海外に売り込めるという展望を持っていることだ。海外進出を考える裏には、現在日本のIT産業を覆う閉塞感がある。
「日本のITの市場規模は世界2位です。しかし、請負ばかりで内需依存。輸出できるITがありません。このまま5年、10年もすれば日本のITは危うい」(田中氏)
IT産業をサービス、パッケージ、請負に3分類すると、日本のIT産業は請負の比率が大きい。米国にはマイクロソフトやオラクル、ドイツであればSAPといったグローバルな有力ベンダがあるが、日本企業発のパッケージソフトウェアビジネスは壊滅状態。日本でITを輸出できる会社は皆無だ。今後、サービスやパッケージが流入し続ければ日本のIT産業は地盤沈下していく。
しかし、田中氏は日本のIDC事業者にはチャンスがあると見ている。グローバルに受け入れられる運用基準、インドの安価な人材、日本企業が常識とする高品質といった要素を組み合わせれば、ちょうどトヨタが価格と品質で世界を席巻したように、日本のサーバ貸しビジネスは、日本企業の海外拠点を足がかりとして徐々に海外の企業にも受け入れられていくだろうという。すでに拠点を持つ中国を始め、特に米国にデータセンターを新設する考えも視野にあるが、日本国内のデータセンターを外国向けに売るビジネスには将来性があると見ているという。
日本といえば東京を思い浮かべるが、地方に1万坪や2万坪のデータセンターを作ることも可能だという。土地はむしろ余っている。就職難が叫ばれているが、平均的な教育レベルの高さから、データセンターで働く人材の確保も容易だ。
ここで浮かぶ疑問は、日本国内にあるデータセンターを海外企業が使うのか? 遅延は問題にならないのか、ということだ。
田中氏がユニークなのは、むしろここには“非関税障壁”があると見ているところだ。海外サービスは日本ユーザーの高品質へのニーズを満たせず、日本市場には入りづらい。逆に、日本で高品質のサービスを提供すれば海外ユーザーは使うだろうという。

日本のユーザーは遅延に対して非常に敏感だが、海外のユーザーはそうでもない。「日本と米国(西海岸)の間で90msから100msの遅延です。これで日本のユーザーは遅いと感じている。しかし、アメリカだと東海岸と西海岸ですら150msと、むしろ遅いんです」(田中氏)。アメリカは日本ほど回線品質が高くない、という事情もある。つまり、日本国内で高品質で安価なサーバレンタルを提供できれば、それを海外ユーザーが利用するシナリオは十分にあるだろうということだ。
日本には、そうした高品質で安価なデータセンター事業が運営できる条件がそろっている、と田中氏は見る。例えば電気代。データセンター誘致の優遇措置として還付金のあるテキサス州のようなところに比べると、東京の電気代は高い。それでもせいぜい2、3割程度。シリコンバレーに比べると、日本の電力は圧倒的に安いという。
電力供給の信頼性も99.999%と高く、むしろ米国のデータセンターにおける基準でもっとも厳しいTier 4で発電機を二重化している場合よりも信頼性が高いという。安全保障上の問題から、米国では銃器で武装した警備員が必要だが、日本ではそうしたリスク要因が少ないので運用コストも下がるという。
しかし、そもそも安価なサーバ提供で国際競争力はあるのか?
「現在さくらで最も安い専用サーバは7800円。これを数千円の前半で出せといって現場が苦労している段階です。さくらはサーバを安くすることに命をかけているので、安価な専用サーバをベースにした仮想サーバサービスも同様に考えています」。
同社が提供している専用サーバの最安プランは月額7800円。これを実現するために、これまでAtom 330ベースの自社製サーバを利用していた。これは1Uに4台収容できるユニークな小型サーバだが、それでも1ラック当たり140〜160台の密度が限度だった。しかし、今後もし運用サービスが伸びると仮定すれば、事情が変わってくる。もはや、利用者はサーバがどういう形態だろうと気にしないはずだからだ。例えばサーバごとに搭載していた電源ユニットをなくし、ラックごとに直流電源を入れていく方式に移行すれば、さらなる高密度化ができる。高密度化したサーバ群で、新世代のIntel-VT対応プロセッサ、Atom Z530を採用すれば極めて安価な仮想サーバサービスが可能だろうという。いずれにしても、「サーバだけやっていくわけではなく、安価な運用、保守を提供していくことで差別化していく」(田中氏)という。
日本のIDCサービス事業は海外に売れる――。田中社長の狙い通りにコトが運ぶかは分からない。「そないに風呂敷広げてもうて大丈夫なんでっか?」と、思わず関西弁で突っ込みたくなるところがあるのも確かだ。まずは年内にもスタートするという国内MSP事業で、どこまで足場を固められるのか注目される。
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