Windows 7、クラウド、Bingに期待

マイクロソフトの2010年は明るいか

2010/01/07

 マイクロソフトにとって収益の減少と多数の製品分野での競争激化という逆風にさらされた2009年は、同社の歴史の中であまり良い年ではなかったようだ。2010年に状況が好転するかどうかは不明だが、レドモンドはいくつかの明るい兆しに期待をかけている。Windows 7とBing(同社の検索エンジン)はいずれも大きな問題なしにリリースされ、好調な滑り出しを見せている。これは今年、さらに大きな飛躍が期待できることを意味する。

 しかしマイクロソフトは、困難な課題にも直面している。米ヤフーとの検索広告提携は、Bingの市場シェアを3倍近く拡大する可能性があるものの、米グーグルはオンライン検索分野で依然として支配的地位を維持している。マイクロソフトのモバイル事業もまだ弱体であり、アップルやRIM(Research In Motion)などの企業との厳しい競争にさらされている。また、景気が回復しなければ、PCの販売増加に伴うマイクロソフトのソフトウェアの売り上げ拡大を期待することはできない。

 では、2010年はどんな年になるのだろうか。いくつかの重要な分野におけるマイクロソフトの今年の状況を展望してみよう。

マイクロソフトとヤフーの契約が発効――グーグルに本格チャレンジ

 マイクロソフトは2009年6月に検索エンジンBingを公開し、その開発とマーケティングに巨額の資金を投じた。今年、Bingの市場シェア拡大に最も貢献をする可能性が高いのは、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOとヤフーのキャロル・バーツCEOとの間で締結された検索広告契約だ。

 マイクロソフトとヤフーは2009年7月29日、ヤフーのサイトの検索エンジンとしてBingを採用し、ヤフーが両社の検索広告主への独占的販売をワールドワイドで引き受けるという内容の10年契約を発表した。両社では、この提携が独禁法当局に認可されるとみており、契約は今年発効する見込みだ。

 ヤフーの市場シェアがほとんどそのままBingに移動すると仮定した場合、両社の契約が発効すれば、米国の検索エンジン市場におけるマイクロソフトのシェアは30%近くに達する可能性がある。だがグーグルは依然として同市場の約70%を支配しているため、Bingが少しくらい強力になったからといって、その存在が脅かされることはないだろう。とはいえ、2010年はオンライン検索分野の勢力地図が、市場シェアをめぐって死闘を演じる2つのエンジンに収束することになりそうだ。ヤフーは検索市場から完全に撤退し、Webアプリケーションプロバイダーへの脱皮を図る考えのようだ。

 Bingとグーグルは今年も、検索機能をめぐる遺恨試合を続けるだろう。マイクロソフトは2009年11月と12月に、Bingの新機能をいくつか発表した。その1つが、グーグルのストリートビューの強力なライバルとなる「Bing Maps」のβ版だ。また、Bingでは動画検索ページが改善されたほか、Wolfram|Alpha Alphaの検索結果も統合された。マイクロソフトとグーグルは今年、競合機能の改善とアドオンをめぐって新たな戦いを繰り広げることになりそうだ。

 マイクロソフトは今年、中国をはじめとする海外市場でもBing事業を展開する方針だ。しかし海外市場におけるグーグルの基盤は強固であり、マイクロソフトとヤフーとの提携が米国に限定されていることを考えれば、Bingが米国外で市場シェアを拡大するのは容易ではないかもしれない。

Windows 7効果で収益好転の可能性

 景気後退はマイクロソフトに大きな打撃を与えた。同社の2009年第4四半期(4〜6月期)の売上高は、ウォール街の予測を約10億ドル下回り、前年同期比で17%の減少となった。その次の四半期の決算では、前年同期比14%マイナスと減収幅はやや小さくなったものの、営業利益、純利益、希薄化後1株当たり利益は、いずれも引き続き2桁の落ち込みとなった。

 マイクロソフトとそのOEM各社では、WindowsベースのITインフラを利用している企業が今年、Windows 7をシステム更新の口実にして、新世代のマイクロソフト製品を購入するものと期待している。マイクロソフトの幹部らは米eWEEKによるインタビュー、さらに投資家とメディアを対象とした電話会見において、2010年以降はWindows 7と関連製品の販売増加とPCの購入拡大が足並みをそろえる格好になるとの見通しを示し、マイクロソフトの運命はIT産業全体の運命と不可分に結び付いていると述べた。

 企業でITインフラの更新が起きる可能性があると考えているアナリストは少なくない。

 Jefferiesのアナリスト、キャサリン・エグバート氏は2009年11月12日付の報告書で「Windows 7を引き金とするアップグレードサイクルが2010年後半に始まり、2013年初頭まで続く可能性がある。新規ハードウェアの購入がソフトウェアのアップグレードよりも6カ月ほど先行すると予想される」と述べている。

 しかし再び景気が落ち込む可能性もあり、その場合、企業は予算の引き締めにかかるため、ITインフラの更新は必然的に鈍化するだろう。いずれにせよ、マイクロソフトの幹部たちは期待が膨らむのを抑えるのに躍起になっているようだ。2009年10月23日の収支報告でマイクロソフトのクリス・リデルCFO(最高財務責任者)は、IT更新の見通しについて同社は相変わらず「適度な警戒心」を抱いていると述べた。スティーブ・バルマー氏も先に同様の発言をしている。

 2009年4〜6月期の段階で、モバイルOS市場におけるマイクロソフトのシェアは9%前後まで落ち込んだ。10月にはマイクロソフトのモバイルOSの新バージョン「Windows Mobile 6.5」がリリースされたが、このアップグレードが2010年までの“つなぎ”にすぎないことを同社幹部は認めている。同社は今年、「Mobile 7」を発表する予定だ。

 Mobile 7はマイクロソフトのモバイルOSのメジャーアップグレードとなるものだが、同社はこれまで、その詳細をベールに包んできた。しかしグーグル、アップル、RIMなど、この分野で活躍する多彩な競合企業からのプレッシャーを前に、市場シェア拡大を狙うMobile 7の前途は非常に険しいものとなりそうだ。

 この狙いを達成するのは不可能だと言い切る人もいる。Strategic News Serviceのマーク・アンダーソン氏は、12月10日付の米New York Timesの記事で「携帯分野でのマイクロソフトの敗北を宣言する時がきた。彼らはすぐに撤退すべきだ」と述べ、大きな反響を呼んだ。「携帯電話はコンシューマーアイテムであり、マイクロソフトはコンシューマーのDNAを持っていない」と同氏は指摘した。

 アンダーソン氏の指摘が正しく、Windows Mobileが落伍者になるのか、それともMobile 7が携帯電話市場でシェアを維持、あるいは徐々に拡大するのかどうかという疑問は、今年に最終的な決着が付くだろう。

マイクロソフトがクラウドに進出――ここでも立ちはだかるグーグル

 マイクロソフトは主としてデスクトップ上に事業を構築した。しかし同社は、クラウドコンピューティングの普及に伴うパラダイムシフトを受け入れる方向に踏み出した。今年は、その取り組みの一部が実を結ぶだろう。

 2010年1月1日、マイクロソフトのクラウドプラットフォームWindows Azureが“本格始動”した。このプラットフォームは3つの部分で構成され、それらが連携してWebアプリケーションとサービスを実現する。3つの構成要素とは、Windows Azure(サービスとしてのOS)、SQL Azure(クラウドベースのRDBMS)、そしてセキュアな接続およびアプリケーションの連携アクセスコントロールを実現する.NETサービスだ。

 Azureサービスでは、従量課金方式、サブスクリプション、ボリュームライセンスという3種類の支払い方式が用意される。この分野でマイクロソフトと競合するのは米アマゾンとグーグルだ。

 米市場調査会社Gartnerによると、クラウドサービスの潜在的な市場規模は1500億ドルに上るため、これらの企業が市場シェアを求めて戦うのも当然だといえる。マイクロソフトの参入は、企業市場でのクラウドの普及を促進する可能性がある。

 米Gartnerのアナリスト、レイ・バルデス氏は、Azureプラットフォームが2008年に初めて発表されたとき、「マイクロソフト製品で社内を統一しており、ITスタッフはマイクロソフトのツールとAPIしか知らないという企業は多い。アマゾンとグーグルは、これらの市場を少しずつ切り崩してはいるが、マイクロソフトの基盤は強固だ」と米eWEEKの取材で語った。

 マイクロソフトは今年、エンタープライズクラウド市場で好位置を確保する可能性があるが、同社のそのほかのクラウドベースの取り組みは危険な賭けになりそうだ。Google Appsへの対抗を狙うマイクロソフトは、Windows Live登録ユーザーにブラウザアクセス版のOneNote、Excel、Word、PowerPointを提供する予定だ。これらのWebベースアプリケーションは、今後登場する「Office 2010」のフル機能を備えてはいないが、マイクロソフトでは、多数のユーザーがグーグルの製品よりも自社のクラウドプロダクティビティスイートの方に引き寄せられるものと期待しているようだ。

 しかしコンシューマー、地方政府、企業の間でGoogle Appsが注目を集めている現実を見れば、マイクロソフトは自社ブランドのWebベースプロダクティビティ製品を普及させるのに少し苦労することになるかもしれない。だがレドモンドにはあまり選択の余地はない。グーグルが今年、「Google Chrome OS」を通じて企業およびコンシューマーの間でGoogle Appsをさらに普及させることを狙っているからだ。Chrome OSは同社が開発中のブラウザベースのOSだ。当初はネットブック向けだが、より本格的なPCでの採用も目指している。しかしOfficeのブラウザアクセス版の登場が、グーグルのインパクトを鈍らせる可能性もある。

原文へのリンク

(eWEEK Nicholas Kolakowski)

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