日本ではSI業者とデータセンター事業者がカギ

「即席クラウド」を実現するMorph mCloudのビジネスモデル

2010/02/01

 米Morphlabs(モーフラブズ)が1月29日に発表したmCloudは、国内のクラウドの動きに大きな影響を与える可能性のある、ユニークなサービスだ。@ITでは同社CEOのウィンストン・ダマリロ(Winston Damarillo)氏にインタビューし、新サービスの狙いを聞いた。

 CSKベンチャーキャピタルの出資を受けているMorphlabsが、日本でいち早く展開する「mCloud」サービスは、同社が提供していたGoogle App Engine対抗ともいえるPaaSサービス「Morph AppSpace」のために開発された技術を活用している。しかし、Morph AppSpaceが直接開発者を対象としていたのとは異なり、企業ITのクラウド化を目的としている。

 AppSpaceでは、グーグルやアマゾンのようにハードウェアを自前で準備することができなかったため、ビジネス的に苦戦を強いられた(AppSpaceはAmazon EC2上のサービスとして提供していた)とダマリロ氏は説明した。これを教訓に同社がmCloudで採用したのは、「パートナーとの共存共栄」作戦だ。ダマリロ氏はこれを、「さまざまな人々がそれぞれのPaaS環境を作れるようにするためのイネーブラーになる」と表現する。

morph01.jpg Morph CEOのウィンストン・ダマリロ氏

 mCloudサービスの中核となるのは、MorphlabsがEucalyptus、Nagios、Puppetといったオープンソース技術を活用して作り上げたクラウド運用ツールにより、Java、Ruby on Rails、PHPの実行環境を構築・展開できるソフトウェア群(.NETにも対応予定という)。運用担当者はGUIでWebサーバ、Webアプリケーションサーバ、データベースから成る3層システムを10分程度で構築できるという。システムへの負荷を監視しながら、稼働を止めることなくWebサーバやデータベースのサーバ数を増減することが可能だ。

 米RightScaleなど、同様にグラフィカルなクラウド運用コントロールパネル機能を提供するサービスはほかにもある。ダマリロ氏は、「RightScaleはサーバ単位でしか考えていない。データベースサーバの数を減らしたら、Webアプリケーションサーバでそのことが認識されなければならないし、Webアプリケーションサーバを減らしたら、Webサーバがそれを知らなければならない」と話す。Webアプリケーションサーバとデータベースの接続を、バージョンの相性も含めてあらかじめ検証してあり、利用者がコントロールパネル上でグラフィカルに相互をつないでも、その接続に問題があれば警告を発する。問題がなければ構成ファイルが自動生成され、適用されるという。

morph02.jpg ドラッグアンドドロップでコンポーネントを組み合わせてクラウド環境をつくる
morph03.jpg 構成したクラウド環境は、「再生ボタン」1つで起動できる

 Morphlabsはこれを3種類の形態で提供する。

「mClound Server」

 IBMの「IBM BladeCenter HS」にハイパーバイザ(オープンソースXen)やmCloudのソフトウェアを導入したオールインワンの社内クラウド環境パッケージの貸し出し。最大96個の仮想マシンをこのうえで稼働できるといい、利用料は月額70万円から。ユーザー企業は、mCloud Server上に作成したシステムを、そのまま社内で運用することもできるし、Morphlabsのパートナーが提供するクラウドサービス上にデプロイすることも可能だ。企業は逆に、クラウドサービス上で開発・検証したアプリケーションを、mCloud Serverに移行することもできる。

 ハードウェアはMorphlabsがIBMからリースし、これを顧客にレンタルする。ほかのサーバベンダとも同様な仕組みを実現していきたいという。なお、スモールスタートしたいユーザー企業のために、10個程度の仮想マシンを稼働できる、Shuttle製コンピュータを用いた「mCloudスターターキット」(月額10万円から)も提供する。

「mCloud Controller」

 クラウドコントロールパネル機能だけをIBMのラックマウント型サーバに搭載したシステムの貸し出し(月額20万円から)。これは仮想化環境を稼働するサーバ環境を自前で用意できるユーザーのためのサービス。mCloud Controllerは、XenあるいはVMware vSphere 4のAPIを通じ、これらの仮想化環境を制御できる。ユーザー企業は、mCloud Serverの場合と同様、Morphlabsのパートナーのクラウドサービスと社内環境を連係して利用できる。

「mCloud On Demand」

 これはMorphlabsの運用ソフトウェアを使ってパートナーが提供するクラウドサービス。ユーザー企業はWebブラウザでクラウドサービスにアクセスし、その環境上でアプリケーションを構築、運用できる。

 これら3種類の形態すべてにおいて、日本ではパートナー経由での提供が中心となるだろうとダマリロ氏は話す。日本では特に、SI事業者とデータセンター事業者への働きかけを重視しているという。

 「日本のデータセンター事業者は、これ(mCloudの仕組み)があればAmazon EC2と戦っていくことができる。彼らが1仮想サーバ当たり月20ドルで運用できるなら、Morphのソフトウェア代を払っても、月80ドルのAmazon EC2に十分対抗できる。顧客をAmazon EC2に取られないというだけでなく、十分な収益性が確保できる」。自社のサーバ環境にmCloudをフロントエンドとして組み合わせるだけで、クラウドサービスをすぐに開始できるという。データセンター事業者は料金体系を自由に設定でき、Morphlabsへの支払いは、ユーザーの利用量に比例する形で行うことができる。すでにブロードバンドタワーが、サービス開始を前提にmCloudを検証中だ。

 Morphlabsは特に、日本のSI業者のニーズに合わせたやり方で、mCloudを提供することに力を入れているという。「企業がクラウドを活用する際には、そのプロセスが最も重要だ。ソフトウェアの一部書き換えが必要になるかもしれないし、OSやデータベースの統合も必要だ。そしてこれは(特に日本では)SI業者の仕事だからだ」。CSKシステムズはMorph mCloudを用い、同社のJ2EEプラットフォーム「arvicio2」をクラウドサービスとして提供する予定だ。

 Morphlabsでは日本および米国から始め、豪州、欧州、東南アジアへとビジネスを段階的に展開していきたいという。「Amazon Web Servicesがこれらの市場で浸透する前にAmazon EC2が実現するようなメリットを提供し、地元の事業者のビジネスを守れるようにしたい」とダマリロ氏は話した。

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(@IT 三木泉)

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