失敗しないクラウドサービスの選び方とは広がるシステム調達の選択肢

» 2010年05月18日 00時00分 公開
[伏見学,@IT]

 野村総合研究所(NRI)は5月18日、IT業界の最新動向などを紹介する定例イベント「ITロードマップセミナー SPRING 2010」を開催した。「クラウド進化論」と題した講演では、同社 情報技術本部 技術調査部の城田真琴上級研究員が、クラウド時代にとるべき企業の情報システム戦略について考えを示した。

NRI 情報技術本部 技術調査部の城田真琴上級研究員 NRI 情報技術本部 技術調査部の城田真琴上級研究員

 目まぐるしく変化するIT業界において、毎年多くの技術やサービスが登場しては、単なるバズワード(流行語)のうちに消えてしまう。そうした中、NRIが昨年来注目し続けているのが「クラウドコンピューティング」である。講演冒頭で城田氏は、「米マイクロソフト本社でソフトウェア開発に携わる約4万人のうち、70%がクラウドに関する仕事をしている。今後1年で比率は90%に高まる」という米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが今年3月に語った言葉を引用し、クラウドがIT業界において今や重要な戦略になっていることを強調した。

 また、米ヴイエムウェアと米セールスフォース・ドットコムが提供するJavaアプリケーションのためのPaaS(サービスとしてのアプリケーション開発・実行基盤)である「VMforce」、米デルのクラウド基盤向け高密度サーバ「PowerEdge Cシリーズ」など、クラウドに照準を合わせた製品やサービスが相次いで登場していることも、クラウドの普及を象徴しているという。

 クラウドサービスの広がりはユーザー企業のIT部門にも大きな影響を与える。情報システムを調達する際に、クラウドを導入するかどうか、導入する場合は「パブリッククラウド」を利用するのか、あるいは「プライベートクラウド」を構築するのか、どのようにクラウドを活用するのかなど、これまでよりも選択肢が増えるのだ。このように、今後ますますクラウドの利用を意識したシステム開発が進むにつれ、ビジネス要件の定義やビジネスプロセスの設計に関するIT部門のスキルは今まで以上に重要になる。

 「クラウドの選択肢は多岐にわたるため、適切なサービスを選択する能力は不可欠」(城田氏)

続々と登場するクラウド基盤構築用製品 続々と登場するクラウド基盤構築用製品

システムの特性の見極めが重要

 では、IT部門はどのような点に留意するべきか。城田氏によると、情報システムの特性とクラウドの特性を見極めて判断することが成功のポイントだという。システムの特性については、可用性やセキュリティ、トランザクションの一貫性といったビジネス要件、利用期間、利用人数、ワークロードなどを指標にする。「あらゆるシステムをクラウド化する必要はなく用途に応じて検討すべきだ」と城田氏は述べる。例えば、財務会計システムや販売管理システムは長期にわたり利用するうえに、可用性やセキュリティを重視するためクラウドには不向きである。一方、キャンペーンサイトのように利用期間が短いシステムはクラウドに適しているという。

 その事例として、城田氏は「ユーキャン新語・流行語大賞」のWebサイトを挙げた。同サイトのページビューは、通常は1日に1万6000〜1万7000程度だが、流行語大賞を発表する年末には100万〜160万に急増する。従来はシステム開発会社、イーストのデータセンターを利用していたが、回線に負荷が掛かりサイトにアクセスしにくくなったほか、ハードウェアをセットアップする手間も掛かっていた。そこで、アクセスが集中する年末限定でAmazonのクラウドサービス「EC2」とCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)サービス「Amazon CloudFront」を活用したところ、ピーク時でもサイトは正常に表示された。

 クラウドの特性についても同様で、各プロバイダが提供するサービスの質や料金は異なるため、個々に確認してシステムに求められる要件とのマッチングを実施するべきだとしている。

 「システムごとに求められる要件を整理することで、パブリッククラウドの利用が適するもの、プライベートクラウドが適するもの、あるいはオンプレミス(社内設置)が適するものといった判断が可能になる」(城田氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ