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内部統制部会で改正案を提案へ

金融庁が内部統制制度を見直し、より簡素・明確に

2010/05/21

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 導入3年目を迎えた日本の内部統制報告制度の見直しが始まった。金融庁の企業会計審議会 内部統制部会が5月21日、運用の簡素化・明確化を柱とする見直し案を提示した。部会長の八田進二氏は「制度導入から2年が経過し、実際に制度を実施した経験を踏まえた企業からの要望や意見に基づき、審議会で作成した基準や実施基準などのさらなる簡素化・明確化の検討を行う。制度運用の見直しを図る」と語った。

 見直し案の骨子は以下。

(1)中堅・中小上場企業に対する簡素化・明確化

  • 小規模企業で作成しているメモや引継書を内部統制の記録として利用できるようにする
  • 小規模企業では必ずしも通期、およびすべての階層で内部統制評価を実施する必要はない
  • 経営者などによるモニタリング結果を内部統制監査で活用

(2)制度導入2年目以降に可能となる簡素化・明確化

  • 前年度の評価が良好で、大きな変化がない事業拠点を内部統制評価の対象から外すことを可能に(連結売上高の3分の2ルールの緩和、もしくは撤廃)
  • 持分法適用会社の親会社が上場企業である場合には、親会社からの何らかの確認書面の入手で足りるようにする
  • 経営者が評価の際に利用したサンプルを監査人がそのまま利用できるようにする

(3)その他の明確化

  • 「重要な欠陥」の判断基準として税引前利益5%以外の指標の利用を可能に
  • 全社的内部統制の評価対象事業拠点の選定について、現在の僅少基準(5%)に縛られず、財務報告に対する影響の重要度で判断できることを明記

(4)「重要な欠陥」の用語の見直し

対象事業拠点の絞り込み可能に

 この中で特に重要なのは(2)の評価対象拠点の絞り込みだ。現行の基準では、連結ベースで売上高の3分の2程度を占める事業拠点を評価対象としているが、見直し案では、前年度の評価範囲に入っていて、その拠点の内部統制の評価が良好、拠点の状況に大きな変化がない、その拠点が重要な拠点(本社など)でない場合には、評価対象としないとする案だ。このように絞り込んだ結果、連結ベースの売上高の総額が3分の2程度を下回ってもいいとする。

 例えば、前年度は本社とABCの4拠点で全体の売上高の3分の2以上を占めて評価対象となっていた場合、今年度にはAが上記で説明した条件を満たすなら、評価対象から外すことができる。継続的に良好な内部統制システムを維持している企業にとっては、作業範囲を絞り込むことができるだろう。また、そもそも3分の2という数値基準を削除することも案として提示されている。この場合、対象範囲はリスクなどを勘案し、監査人と協議して決めるという。

 このように絞り込んだ事業拠点の業務プロセスについても、従来の売上、売掛金、棚卸資産という評価対象を広げて、ほかの勘定科目や指標を使えるようにすることも提案している。金融機関であれば、預金と貸出金、有価証券、経常収益を例示する方針だ。

 また、経営者が内部統制の評価に利用したサンプルを、そのまま監査人が利用できるようにする。これまでは監査人が経営者のサンプルのすべてを使うことはできず、一部は監査人本人が確認する必要があった。前年度に良好であった業務プロセスについても、大きな変更がない場合、経営者や内部監査人が実施した評価手続きを採用できるようにする。

文書化の負担を下げる

 (1)の中堅・中小上場企業向けの簡素化・明確化も影響が大きい。企業で作成しているメモや引継書を内部統制の記録として利用できるようにする案は、いわゆる文書化の作業負担の軽減を狙っている。監査法人が用意するテンプレートなどを使わなくても、小規模企業であれば業務で使っている社内文書でOKとする。例としてはメモ、質問書、引継書、ソフトウェアのマニュアル、原資料、業務指示書などが挙げられている。

 全社的な内部統制の評価範囲についても見直す。現行基準では全社的な内部統制の絞り込みは認められていないが、小規模企業については組織構造が比較的に簡素であるとして、大きな変化がない全社的な内部統制の項目(例:ITに関する適切な戦略、計画などを定めているか)については評価を省略できるようにする。

 また、企業規模に関係なく、全社的な内部統制の評価範囲を緩和することも案に挙がっている。現行の基準では連結売上高で5%の売上を占める小規模な連結子会社をのぞいて、すべての連結子会社の全社的内部統制の評価が必要だが、その5%という数値基準に縛られずに、財務報告に対する影響度で判断することを提案している。数値基準自体をなくす案もあり、監査人との協議によっては全社的内部統制の評価対象企業を減らすことができるだろう。

 (1)でいう中堅・中小企業、小規模企業などの定義は示されていない。「比較的簡素な組織構造をしている」「商品・サービス数が少ない」などを判断の基準にするようだ。

「重要な欠陥」を言い換えへ

 「重要な欠陥」については(3)で税引前利益の5%という現状の判断基準以外の使用を認める。例としては剰余金が挙がっている。過去平均や業績変動への影響なども考慮に入れる。5%という数値基準を削除することも別案として提案されている。また、(4)では「企業自体に欠陥があるのではないかと誤解を招く」との指摘がある「重要な欠陥」の言い換えが提案されている。ただ、具体的な見直し案は提示されていない。

 金融庁は6月10日に開催する次の内部統制部会で「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」「実施基準」などの改正案を公開する予定だ。

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(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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