すべて言いなりに動くようなオフショア会社は選ぶなオフショア開発成功のポイントとは

» 2010年06月04日 00時00分 公開
[伏見学,@IT]

 コスト削減やIT人材不足の解消をテーマに、海外でオフショア開発に取り組む日本企業は増えている。IT調査会社のガートナー ジャパンによると、日本企業のオフショアリング金額はこれまで数年にわたり年率20〜30%成長を続けてきた。2009年には世界的な景気後退の影響で減少したものの、総額で3590億円に達している。委託先としては、エンジニアの単価の低さや日本語対応できる人材が多いことから、中国が全体の84%を占めている。しかしながら、依然として品質やコミュニケーションなどの問題からメリットを生み出せていない企業は多く、オフショア開発に関する悩みは尽きない。どうすればオフショア開発を成功裏に進めることができるのか。

日本企業のオフショアリング金額推移(出典:ガートナー ジャパン) 日本企業のオフショアリング金額推移(出典:ガートナー ジャパン)

 6月2日にシステムベンダやユーザー企業のIT担当者に向けて開かれたオフショア開発セミナーにおいて、中国・西安を拠点とするオフショアベンダ、ソフトロードの劉忱社長が「日中共同開発の成功パターン」をテーマに、日本企業がオフショア開発で注意すべきポイントを紹介した。「発注者の言うがままにただシステム開発するような会社は選ぶべきでない」と劉氏は強調した。

ソフトロードの劉忱社長 ソフトロードの劉忱社長

 現在、中国にあるオフショア会社の大半は、仕様書や指示された開発プロセスに従って忠実に働くのみで自主性に欠けている。当然、ユーザー企業に直接ヒアリングすることはなく、上流開発への進出は難しい状況だ。社員の流動性が高く、会社にノウハウが蓄積できないのもボトルネックになっている。劉氏はこうした現状を「IT業界の構造的な問題」だと言い切る。例えば、企業のシステム開発を考えると、発注者であるユーザー企業を頂点に、開発子会社、さらにその下請け会社といった具合にピラミッド構造になっており、必然的に上から与えられた指示通りに仕事をこなすような業務が発生してしまうわけだ。

 これは開発したシステムの品質にも大きくかかわる。製造品質そのものは日本の開発会社にも劣らないのだが、オフショア側のエンジニアはユーザー企業の業務を深く理解していないため、製造テスト時の業務確認工程がどうしても欠けてしまうという。結局、「オフショア会社に委託できる部分は限られてしまい、オフショアの割合をさらに高めることは難しい」と劉氏は現状を説明する。

 では、どうすればオフショア開発の効果が上がるのか。劉氏は「ユーザー企業と直接やり取りできる自立したオフショア会社を選択すべきだ」と力を込める。すべてユーザー企業の言いなりで動くのではなく、共同でプロジェクトを進めたり、上流工程までも対応できる会社を選ぶことが成功への近道だという。しばしば会社の規模やCMMI(ソフトウェア開発の能力成熟度を示す国際標準的な指標)など所有する資格で委託先を決めることがあるが、「設計力や他社にない強みで判断することが好ましい」と劉氏は述べる。

 「オフショア開発は決してコストセンターではない。オフショア利用は欧米では当たり前のことであり、心強いパートナーを見つける気概で積極的に取り組むべきである」(劉氏)

日系企業が売り上げの4割を占める

陝西省西安ソフトウェア発展センターの雷力副主任 陝西省西安ソフトウェア発展センターの雷力副主任

 ソフトロードがオフショア開発の拠点を構えるのは、中国のほぼ中央に位置する陝西省西安である。中国のオフショア開発地域といえば大連や上海、北京などが有名で、劉氏自身も北京出身であるのに、なぜ西安にこだわったのか。劉氏は「現地には優秀なエンジニアが数多くいて、低コストで安定的に活用できる」と理由を話す。

 西安といえば、言わずと知れた中国の古都であり、東西の文化を結ぶ交通路であるシルクロードの出発点としても有名だ。中国最初のアウトソーシングサービス基地都市として政府から認定を受けている西安は、1991年3月に「西安ハイテク産業パーク」を立ち上げており、現在、同パークには国内外の1万5000社を超える企業が登録している。ハイテク産業パークの一部を構成する「西安ソフトウェアパーク」は1998年に設立され、日本企業および日系企業では、富士通、NEC、NTTデータ、デンソーなど40社以上が拠点を設けている。2009年のソフトパークの総売り上げは320億元(約4800億円)で、そのうち40%は日系企業が占めている。

 同セミナーに登壇した陝西省西安ソフトウェア発展センターの雷力副主任は、西安ソフトウェアパークの特徴について、「政府はオフショア開発を戦略産業としており、入居企業に対して補助金の援助、税金や賃料の免除といった優遇政策を打ち出しているほか、(西安文理学院など)地元大学とのカリキュラム連携により年間数万人規模のIT人材を育成している」とコメントした。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ