新会計年度の国内事業戦略を発表
シスコはIPで「B to S」を目指す
2010/10/07
米国企業の多くが、日本市場への興味を失っているようだがどう思うか、とたずねると、シスコシステムズの日本法人社長からアジア太平洋地域および日本担当プレジデントに就任したエザード・オーバービーク(Edzard Overbeek)氏は、「日本人が自らこうした状況を招いている側面がある」と答えた。自信を失い、ネガティブになってしまっているのが気になるとオーバービーク氏は話す。
マイクロソフトの日本法人から2年半前に移籍した平井康文氏が8月にシスコシステムズ合同会社の代表執行役員社長に就任し、打ち出したスローガンは「Ignite Japan !」(日本に火をつけろ)だ。「ビジネス、コンシューマー、地域コミュニティに対し、ネットワークセントリック(ネットワーク志向の)ソリューションを通じ、日本の社会、経済、環境面でのイノベーション(革新)を牽引していきたい」という。
これを事業分野としての柱(シスコでは「アーキテクチャ」と呼ぶ)に分解すると、「ボーダレスネットワーク」(ネットワーク機器関連事業)、事業者向けIP NGN、データセンター/仮想化、コラボレーション/ビデオの4つだ。これに、世界売上では19%を占めるシスコサービスが加わる。IP NGNは他国では見られない日本独自の取り組みだ。そしてビジネスの機会としては、「スマート+コネクテッドコミュニティ」とクラウドを平井氏は挙げる。
「スマート+コネクテッドコミュニティ」とは、放送を含むマルチメディアコンテンツの世界、医療、住民サービス、エネルギー管理など、さまざまな分野におけるIPをベースとした新しい仕組みの投入のことだ。
今回のスローガンにも「ネットワークセントリック」という言葉が挟み込まれているように、シスコの事業がすべてIPネットワーキングをベースとしていることには変わりがない。同社はこの3年近く、さまざまな分野に進出してきたように見えるが、究極的な目的は、これまでIPネットワーキングの恩恵を受けていなかった業界や市場にIPネットワーキングベースのソリューションを持ち込むことで、その業界や市場におけるビジネスのあり方を変えたり、新しい世界を開いたりすることにある。
日本におけるコラボレーション/ビデオの責任者であるデル・ホワイト氏は、アフガニスタンに派遣された兵士の家族をシスコのオフィスに呼び、アフガニスタンにいる兵士との高精細テレビ会議システム「TelePresence」での対話を実現した例もあるという。また、心臓の専門医と、ある病院の緊急救命室(ER)をTelePresenceで結び、迅速に助言できる体制をつくったことが、心臓発作の患者で時間の経過とともに急速に増加する脳細胞の死を食い止めることに役立っているという。
平井氏は、インターネットはB to B、B to CからB to S(Business to Society)の時代に入ったとし、「ガス、電気、水道に続く第4のユーティリティだ」と表現した。具体的な取り組みとして、ツルハドラッグの店舗に置いた端末を通じた北海道大学病院スタッフによる健康相談、和歌山県における外国人教師の遠隔英語授業、三機工業、伊藤忠商事とのエネルギー管理における協業、福岡ヤフードームにおけるコネクテッドスタジアムなど、すでに多数の例が出てきていると説明した。
シスコは今後も、間接販売のスタンスを貫く方針だ。新たな取り組みに際しては、既存の販売パートナーに加え、IT業界ではない対象分野の企業や団体とのパートナーシップを広げていくという。一方で、パートナー制度を上記の4つの柱に沿うように再編し、それぞれにおけるトレーニングを強化していくという。
シスコで興味深いのは、こうした活動が元来の事業基盤であるスイッチやルータの販売減につながっているとか、逆にこれらネットワーク機器の販売減を原因として新たな取り組みを強化したということにはなっていない点にある。2005会計年度におけるシスコの世界売上のうち、スイッチとルータは約62%を占めていた。これが2010年には約50%になった。その意味では総売上に占めるネットワーク機器の割合は減ってきている。しかしルータとスイッチの売上金額は、2005年度の154億ドルから200億ドルへと約30%増加している。
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