バックアップ・ストレージはテープの完全駆逐を目指す

EMCがストレージ製品を大幅強化、その先に見えるものとは

2011/01/21

 EMCは1月18日、全世界で41の新製品および新機能を発表、これらを通じて同社のストレージ製品戦略を再定義した。ミッドレンジ・ストレージ製品シリーズの再編のほかにも、ハイエンド・ストレージ、バックアップ・ストレージで大きな発表を行った。買収が正式に決定したアイシロン・システムズについても、その製品群の大まかな位置付けが明らかになった。以下では、同日にシンガポールで行われたブリーフィングに基づき、今回の発表を要約してお伝えする。

アイシロンの役割はどうなるのか

 各ストレージ製品シリーズの位置付けは、まず企業の業務アプリケーションに向けて、ミッドレンジ/エントリレベル・ユニファイド・ストレージの「EMC VNX」「EMC VNXe」と、ハイエンド・ストレージの「EMC Symmetrix VMAX」を展開(Symmetrixシリーズは事実上 Symmetrix VMAXとほとんどイコール)。そしてアイシロン・システムズのストレージと、大規模マルチテナント・クラウドのストレージ・プラットフォーム「EMC Atmos」は、「Big Data」アプリケーションに向けた製品として展開していく。バックアップ・ストレージの「EMC Data Domain」は重複除外ソフトウェアの「Avamar」とともに、上記すべてのストレージに対し、バックアップ/アーカイブ機能を提供する。

 「Big Data」の定義は人によりさまざまだが、遺伝子解析、地球物理学的解析、映画やCGなどの編集/レンダリングなどを、Atmosおよびアイシロンの用途の例として挙げている。もともとスケールアウトNASとして、大容量の単一ファイル・ストレージ領域が作り出せることが最大の特徴であるアイシロンのストレージは、これまでどおりメディア&エンターテイメント、CAD、大規模コンテンツ事業者などに向けて展開されていくことになる。

 これらの製品群により、EMCは企業の業務システム、クラウド・コンピューティング、Big Dataと、今後予想される主なニーズをすべてカバーしていくことになる。

emc01.jpg EMCストレージ製品群の新たなポジショニング

 EMCの副会長であるビル・チューバー(Bill Teuber)氏によると、同社がいま、注力するIT課題は、企業のIT支出の大半が維持管理に費やされていること、データの急増、異機種混在、データセンター分散、アプリケーションにおける柔軟性の欠如など。これを解消するためにEMCは、「顧客におけるプライベート/パブリック・クラウドへの移行過程を支援していく」という。「クラウド」といってもあいまいだが、一般的にいえば効率化、柔軟化、自動化は上記の問題を解決するための武器となりうる。EMCの今回の発表でも、効率化、自動化、柔軟性向上を目的としたものが多く見られた。

 今回の発表のほとんどは、企業の業務アプリケーション向けのストレージ製品群とバックアップ製品群に集中している。ミッドレンジのVNXは「affordable」「simple」「efficient」「powerful」というキャッチフレーズを掲げる。ハイエンドのVMAXは「the most powerful, trusted and smartest storage array」、バックアップ・ストレージのData Domainは「the world’s fastest backup」だ。VNXについては別記事で報じたため、ここでは主にVMAXとData Domainについて説明する。

Data Domainでは「テープの最後のとりで」を攻略

 Data Domainでは、性能を向上した新製品を投入するとともに、その適用範囲を広げる新製品「Data Domain Archiver」を発表した。

 新製品の「Data Domain DD890」「Data Domain DD860」は、スループットがそれぞれ最大14.7TB/hrと9.8TB/hr、論理容量は最大14.2 PBと7.1 PBという。また、2台のData Domainアプライアンスを並列に使うことでスループットを高める製品「Data Domain Global Deduplication Array」では、新製品のDD890を用いることで、26.3TB/hrを達成するという。

 Data Domainのバックアップ・アプライアンスの用途を広げる新製品は、「Data Domain Archiver」。その名のとおり、バックアップ後のほとんど触られることのないデータを長期保管(アーカイブ)するための製品だ。

 「アーカイブは、テープの最後のとりでだ」とEMCのバックアップ&リカバリ・システムズ部門プレジデントであるB. J. ジェンキンズ(B. J. Jenkins)氏は話した。バックアップ/アーカイブ全体の市場におけるテープの利用率は、急速に低減しているが、アーカイブ用途ではまだテープが使われているケースが多く、これ自体が膨大な市場を構成しているという。これに目を付け、アーカイブのハードディスクへの移行を狙うのがData Domain Archiverだ。

 この製品では、Data Domain DD860のコントローラと、複数のディスク・ユニットで複数階層のバックアップ/アーカイブ・システムを構成する。下図のように、各ファイルの最終更新日に基づき、古いデータを定期的に、順次次のユニットに送り出す仕組みだ。最も古いデータを保管するためのユニットの空き容量がなくなると、それ以降の、このユニットに対する書き込みはロックされ、読み出しだけが可能になる。アーカイブ用のディスク・ユニットでは、データの読み出し速度は低下するものの、重複除外の除外率を高められ、これによりアーカイブのための記録媒体の単価を下げることができるという。また、Data Domain Archiverでは1台のコントローラを複数のディスク・ユニットで共用できるため、機器の全体的コストも抑えられる。すべてのディスク・ユニット上のファイルのメタデータは、コントローラで一括管理するが、必要に応じて、データの存在するユニットに複製することもできるという。

emc02.jpg DD Archiverはバックアップ/アーカイブにおける自動階層管理

 EMCはバックアップ関連でソフトウェアベースの重複除外製品「EMC Avamar」や、バックアップソフトの「Legato Networker」を持っている。ジェンキンズ氏は@ITに対し、これらの製品の統合を進めていることを明らかにした。「(将来、)Avamarで重複除外したデータの保存先はData Domainになる」。データやネットワークの特性に応じ、最適な場所で重複除外のプロセスを実施できるようにするのがEMCにおける重複除外の方向性だ。

VMAXではデータの自動階層管理で効率化を推進

 VMAXは、「FAST VP」を新たに搭載した。自動データ階層化機能のFASTは、データを一定の単位で、アクセス頻度などの事前設定ポリシーに基づいて、適切な記憶媒体に移動するというもの。この「一定の単位」は、CLARiXでは1GBだが、VMAXではこれまでLUN(論理ユニット)だった。今回のFAST VPでは、仮想プロビジョニング機能と連動し、8Mバイト単位での移動がVMAXで実現した。これは、業界でもっとも小さな単位だという。EMCはこのFAST VPをIBMのEasy Tierと比較。平均レスポンスタイムはEasy Tierの約2分の1、すなわち2倍の性能が得られたとしている。

 VMAXでは、オンラインでのデータ移行を実現する新機能「Federated Live Migration」が発表された。ストレージ装置を入れ替える際などに、稼働を止めることなくデータを新しい装置に動かせる。Symmetrix DMX4からVMAXへの移行のほか、VMAX間の移行にも今後は対応の予定。VMAXではさらに、CLARiXにおける対応からは数カ月遅れたものの、VMwareとのAPIレベルでの連携(VAAI対応)が実現した。

emc03.jpg EMC Symmetrix&Virtualization製品グループ・プレジデントのブライアン・ギャラガー氏

 EMC Symmetrix&Virtualization製品グループ プレジデントのブライアン・ギャラガー(Brian Gallagher)氏は、他社が「ハイエンド・ストレージ」として出してきている製品はミッションクリティカル・ニーズに対応できないと切り捨てた。ハイエンド・ストレージを目指す製品でもSATAハードディスクドライブを積極的に利用するものが増えているが、「SATAドライブは寿命が短い。VMAXでもSATAドライブを使うが、FASTやFASTキャッシュにより、SATAドライブに対するアクティビティを最小化できる」。ネットアップのFAS 6000シリーズも、コントローラが2基という限界があるとジェンキンズ氏は指摘する。

emc04.jpg EMCが今回発表した41の新製品リスト

 それでもネットアップはEMCのストレージ事業全般において、最大のライバルだとジェンキンズ氏は認めた。そして今年、勝敗をはっきりさせられるだろうと続けた。「VNXeで下から攻め、ミッドレンジのVNXではより優れた機能で勝つ。また、ネットアップはバックアップ関連市場を否定しているようだが、ここでもシェアをとっていく」という。その一方で、技術やコードの製品間での共用を進めているという。「(EMCの)すべての製品がいつの日か、1つのプラットフォームになるのかどうかは分からない。EMCはベスト・オブ・ブリード(各分野で最高)の製品を提供することで伸びてきた会社だ。しかしいまではすべてがインテルのプロセッサを使っている。RSAなどの優れた技術もある。これを自社製品に幅広く実装していきたい」

(@IT 三木泉)

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