大容量で映像の長期保管に有利

いま、放送・映像制作業界でLTOが普及し始めている理由

2011/03/17

 放送・映像制作業界で、ITの世界では過去10年にわたり使われてきた記憶媒体、LTOテープが普及を始めようとしている。4月に米国ネバダ州ラスベガスで開催の2011 NAB Showでも、多くの対応機器が展示されるとみられる。

 LTOは、10年前からあるテープ規格だ。この規格に基づく製品は、ITシステムのバックアップに広く使われてきた。これがなぜ、いま映像業界に広まろうとしているのか。

放送業界のテーマは「ファイルベースへの移行」

 背景には、放送・映像業界向けのVTR製品の保守の問題がある。1インチアナログVTR、D2やD3などのデジタルVTRは生産終了で、すでに保守が受けられないか、受けられなくなる日は遠くない。

 そうなると、ビデオテープとして蓄積された映像アーカイブをどうするかという問題が出てくる。放送局には、規模によるが数万本のビデオテープが蓄積されているといわれる。これを何らかの別の媒体に移行しなければならない。

 映像アーカイブの量が多ければ多いほど、移行作業に時間がかかるため、多くの素材が蓄積されているVTRの保守が現時点で終了していなくても、その時期を見据えた早めの対応が必要になっている。保守が今後も継続されるVTRに映像をダビングするという選択肢ももちろんあるが、ダビングという作業は、基本的には映像の長さと同じだけの時間を必要とする。どの媒体に移すにしろ、素材を一度ファイル化しないと、移行するたびに実時間がかかってしまい、非常に効率が悪い。逆に、いったんファイル化してしまえば、映像の移行作業はファイルのコピー作業になり、手間も時間も大きく軽減される。

 「ファイルベースへの移行」は、放送・映像制作の世界では、ほかにもさまざまな意味で避けて通れないテーマとなっている。

 放送業界では、収益源の多様化の観点から、「ワンソース、マルチユース」への取り組みが活発化している。NHKオンデマンドに代表されるように、放送番組を即座にインターネットでオンデマンド配信するような試みが増えている。インターネットや携帯電話向けの配信では、それぞれに適した動画コードや解像度への変換が必要だ。映像をビデオテープにアーカイブしたままでは、こうした変換作業についても、映像の長さと同じだけの時間はかかってしまう。一方、ファイル化がなされていれば、必要に応じて、より短時間で変換作業を行うことが可能だ。

 ただし、「ファイルベース」という言葉は、映像制作の最後のプロセスだけの変化を意味するものではない。収録から編集、配信まで、テープではなくファイルとして作業するワークフローが完全に構築できるようになってきたことが、この言葉で表現される。より自由度の高い映像制作が迅速に行えることから、ファイルベース・ワークフローへの移行が急速に進んでいる。

 ファイルベース・ワークフローとなれば、新しい映像の制作で利用される記憶媒体は、ITシステムのそれと変わらなくなってくる。半導体メモリ、ハードディスクドライブ、Blu-ray Discなどが、ビデオカメラによる収録やノンリニア編集、局内流通などの記憶媒体として用いられるようになってきている。

圧倒的な容量がLTOの基本的なメリット

 こうしたなかで、LTOテープが、特に映像のアーカイブ媒体として浮上してきている。ファイルベース・ワークフローで製作された映像、それ以前のテープベースの映像の双方を低コストで長期保管するのに有利だからだ。

 LTO規格は、過去10年間に進化を続けてきた。2010年に登場したLTOの第5世代規格「LTO-5」は、前世代の約2倍の1.5TB(2倍圧縮で3TB)の記憶容量を実現した。例えばBlu-ray Discは50GBだから、容量では圧倒的に有利だ。1.5TBで計算しても、LTOはBlu-rayに比べ30倍の容量を記録できることになる。

lto01.jpg LTOは現在LTO-5。だが将来に向けたロードマップも決まっている

 しかし、前世代のLTO-4でも圧縮なしで800GBを実現していた。Blu-rayに比べればこれでも容量はかなり大きい。なぜ、いま注目されるのか。その謎を解く鍵は、LTO-5で初めて、ファイルシステムを持つようになったという点にある。

 LTOは、もともとファイルシステムを持たない記憶媒体だ。これまでの主な用途であるITシステムのバックアップでは、バックアップ・ソフトウェアがデータの管理を行ってきた。しかし、LTO-5規格で新たに策定された「マルチ・パーティショニング」という機能が、これを変えるきっかけとなった。

 マルチ・パーティショニングとは、文字どおりテープを複数のパーティション(論理区画)に分割できるという機能だ。それ自体はファイルシステムと直接関係がない。しかし、規格策定後に、これを活用してファイルのインデックス情報を置くパーティションをつくれば、ハードディスクドライブやUSBメモリなどと同じように、LTOテープを汎用的な記憶媒体とすることができるのでないかという発想が生まれた。

lto02.jpg 朋栄のLTO-5ビデオアーカイブレコーダ「LTR-100HS」

 そこで登場したのが「Long Term File System(LTFS)」というソフトウェア。これを使えば、コンピュータ上でデータをLTOテープに記録する、あるいは取り出す作業がドラッグ&ドロップで行える。LTFSを開発したIBMは、同社のWebで、LTFSを無償ダウンロード提供している。

 ファイルシステムによって使い勝手が向上したことで、LTOを採用した放送・映像プロフェッショナル向け製品が増えてきた。例えば朋栄は、LTO-5ビデオアーカイブレコーダ「LTR-100HS」を2010 NAB Showで発表し、注目された。また、千代田ビデオは、ビデオテープの映像をLTO-5テープに移行するアーカイブサービスを提供している。

でもBlu-rayのほうが頭出しで有利?

 LTO-5は容量で圧倒的に有利とはいえ、現在、局内流通やアーカイブ用にBlu-ray Discが用いられているケースもたくさんある。そしてBlu-rayにはLTOに比べた場合のメリットがある。最大の利点は頭出しの早さだ。テープは、インデックス情報によってデータを記録している位置が分かっていても、その位置までテープを巻かなければならないため、Blu-rayに比べれば明らかに頭出しは遅くなる。ただし、インデックス情報は一度読みこめばキャッシュされるため、ファイルの読み出しリクエストがあるたびに、インデックス情報のある位置まで戻る必要はない。

 だが、大容量(長時間)のデータの読み書きになると、LTOの転送速度の速さが効いてくる。Blu-rayはシングルピックアップで、実質的に1チャンネルだ。これに対し、LTO-5は16トラック。つまり、データを読み書きするチャネルが16チャンネルある。転送するデータ量が大きくなると、転送スピードの速いほうが有利になってくる。ニュースのような短尺物はBlu-rayが有利でも、長尺物にはLTOのような媒体が適しているといえる。

 今後は、放送・映像業界に向けたLTO-5の大型テープライブラリが登場する見込みだ。これにより、一日に放送する映像をすべて単一のライブラリ装置に格納し、プログラムにしたがって適宜呼び出すといった使い方もできるようになるはずだ。

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