元Googleジャパン社員らが起業

気になる“モノ”をRT!? 「byflow」を使ってみた

2011/04/25

 Googleジャパンの“卒業生”たち4人が新サービス「byflow」を立ち上げた。アメリカではGoogleを退職して起業する例は非常に多いが、日本では珍しい。byflowは「Twitterのモノ版」ともいえそうな、コンシューマ向けサービスだ。昨年9月に3人で開発をスタートし、4月20日に招待不要の一般公開ベータ版となった。FacebookかTwitter、Googleのアカウント、またはOpenID(Yahoo! Japanやmixi、はてな、livedoorなど)があれば、誰でも利用できる。

byflow01.png

書籍、CD、モノがどんどんTLに流れてくる

 byflowは、ユーザーが持っているモノや本、音楽CD、映画などを“アイテム”として登録するサービス。登録したアイテムの傾向から趣味の似た人やお勧めのアイテムを紹介する。アイテムごとに「持ってる」「好き」「嫌い」「気になる」(未所有もしくは未視聴の場合)のボタンをクリックしていくことで、精度が上がっていくリコメンドサービスだ。日本語圏ではモノの登録サービスはいくつかあるが、ユーザー同士の関連を活用してアイテムを見せるというコンセプトのサービスは見つけづらい。英語圏ではGetGlueというbyflowに似たサービスがある。

toys.png アイテムは書籍やCD、DVDだけでなく、JANコードのある商品なら何でも登録できる

 byflowをヒトコトで説明すると、「タイムラインに本やモノが流れるTwitter」という印象だ。タイムライン風のインターフェイスには、他のユーザーや自分が登録したアイテムが、新しい順に大きめのサムネイルやコメントとともに一覧表示される。

 byflowはアマゾンや楽天といったECサイトに足りない購買行動のソーシャルな面を補完するサービスと言えるかもしれない。多くの場合、オンラインショッピングは1人っきりでボタンを押すことになるか、赤の他人のコメントを元に評判を知る程度だが、byflowのアイテムの周囲は顔アイコンで囲まれていることが多く、ちょっとした“ワイワイ感”がある。

 タイムラインには3つのタブがある。「すべて」ではbyflowの全ユーザーの登録アイテムが時系列に、「最新」には自分がフォロー中のユーザーのアイテムが現れる。「アラート」のタブは、自分が書いたコメントにコメントが付いたことなどを知らせるノーティフィケーションが集まる。

 登録アイテムとしてして現在比率が高いのはCDや書籍だが、ヘッドホンやマウス、日本酒、デジカメ、靴など、ジャンルを問わずにさまざまなモノが流れてくる。能動的に探すのではなく、漫然と眺めていると自分の嗜好に合ったものが流れてくる……、と言いたいところだが、実際には全然興味のないものもたくさん流れてくる。そういうところも含めてTwitterのタイムラインと似ている。ほどよいノイズ具合とも言える。

 ByFlowの共同創業者の1人で代表取締役CEOの牧野友衛氏は、これまでのインターネットでは「検索」は簡単だったが、新しいアイテムと出会うのは難しかったとサービスの狙いを説明する。

photo01.jpg ByFlowの共同創業者の1人で代表取締役CEOの牧野友衛氏

 「ほしい商品を見つけるのは、今でもネットでは難しいと思います。検索するにしても、自分に合ったものを探すのは難しい」(牧野氏)

 byflowの仮説は、共通して持っている商品が多ければ、好みも似ているだろうというものだ。しかし、これだけであれば多くのECサイトが協調フィルタリングの仕組みを取り入れているし、ほとんどのサイトにレビュー機能もある。

 こうした既存サイト・サービスとbyflowが異なるのは、

  • 趣味の似た人を推薦してくれて、フォローが可能なこと
  • TwitterやFacebookなど、既存のソーシャルグラフを利用しやすいこと
  • 特定ECサイトに紐付いておらず、モノを中心にユーザー同士が交流できること
  • 「レビュー」ではなく「コメント」として気軽な交流を促していること。コメントへの返信や「いいね」も可能
  • 書籍のみ、音楽CDのみは類似サイトがあるが、byflowはノンジャンル
  • 自分の所有アイテムリストを手軽に管理、タグ付けをして公開できること
  • 単に各ユーザーがアイテムを管理するのではなく、ユーザーのフォロー関係や嗜好を反映した共通集合としてアイテムリストを見せていること

といった点だろう。

 レビューサイトでは、どのような人が書いているか分からないために参考にならないケースもある。byflowであれば、自分の知り合いか、そうでなくてもその人の嗜好がリストで把握できるか、過去にリストを眺めた実績からコメントが参考になる確率も高いだろう。具体例として、牧野氏は「新・萌えるヘッドホン読本」という書籍アイテムをリストに入れている人のページに本物のヘッドホンが出てくる例を挙げる。わざわざ書籍を買うほどヘッドホンの違いにこだわる人が選ぶヘッドホンであれば、見るべきものがあると分かるわけだ。

ちょっとしたコメントによる交流が新鮮

 アイテムの画像は大きく、そこに所有者の顔アイコンがチラチラと並ぶ。ユーザーのアイコンよりモノの画像を大きくし、モノの周囲に自分の知っている人、知らない人が集まり、ちょっとしたコメントを残したり、交流したりしているという見せ方が新鮮だ。

communication.png モノを媒介としたコミュニケーションの例。誰かのコメントに対して「いいね」を付けることもできる

 嗜好の似た人同士はつながりやすいので、知り合いの知り合いという範囲での交流も楽しめそうだ。今のところ、私のタイムラインにはコンピュータ関連書籍がズラズラと並んでいる。これは、私自身が最近興味を持ってそうした本を読んでいるからということと、私の周囲にそういう人が今多いからだろうと思う。Twitterのフォロー・非フォローで嗜好ごとにクラスタ化しやすいのと同様だ。ユーザー数が増えるにつれて、「ユーザーごとに見えているタイムラインが異なる」というTwitterと同様に、byflowも将来は多様化してくるのかもしれない。

アイテムの追加登録も手軽

 いかに多くのアイテムを登録してもらえるかが、byflowの成否を分けそうだ。この点、アイテム登録には非常に多くの工夫が見られる。

 まず、初回ログイン時には、10個、20個……と商品のサムネイルが次々と表示されて、持っているものをクリックできる仕組みになっている。初回ログイン終了時には10個の登録が完了していて、それをシードとして、ほかのユーザーのアイテムが早速リコメンドされる仕組みだ。

 アイテム追加は、検索ウィンドウに名称を入れて、ヒットしたアイテムについて「持ってる」「気になる」のボタンを押すだけだ。検索対象となるのは日米のアマゾン、楽天、ヤフーショッピング。画面遷移なしに追加が可能で、連続的に追加しやすい。また、ブラウザ拡張機能をインストールすると、アマゾンなどの購入履歴からアイテムを一気にインポートすることもできる。アマゾンでの購入時に自動的にアイテムをbyflowに送信するかどうかも設定が可能だ。この機能は今のところGoogle Chromeのみ対応だが、ユーザースクリプトのようなので、Firefoxなどでも同様の拡張機能は使えそうだ。

extension.png ブラウザに拡張をインストールすれば、対応ECサイトのページから直接アイテム登録ができる

 アイテムには本なのかCDなのか、そしてジャンルはサイエンスなのか文学なのか、ジャズなのかといった属性があるが、こうした属性の入力や、タグの入力は、あまり前面に出ていない。商品区分やジャンルについては取り込み時に自動で設定してくれていて、見やすく整理される。さらに、シリーズ物を1つのアイテムとみなすグルーピングの概念や、BlurayとDVD、特別版DVDの違いがあっても同一作品とみなす機能も実装していて、このへんは検索エンジンと似て、出版社のサイトなどをクロールしているのだという。byflowではISBNかJANコードのある商品なら何でも登録できるが、同一商品の色違いやサイズ違いなどをどう扱うかなど、結構泥臭い実装が必要なのだという。

sort.png ジャンルは、ある程度自動的に分類してくれるようだ

「気になる」ボタンは、モノのRT!?

 誰かほかのユーザーが登録したアイテムやお勧めアイテムなど、画面中に表示されている未登録アイテムについても、「持ってる」「気になる」をクリックすれば自分のアイテムとしても登録できる。あちこちにボタンがあり、コメントを付けたり、自分のリストに追加したりといったことが簡単にできる。

 最初のうちこそ「検索→登録」という作業が必要に思えるが、しばらくしてフォロー、フォロワーが増えてくると、「あ、自分もそれを持っていたんだった」という感じでアイテムを追加する機会が増える。フォロワー同士で相互にアイテムリストを補完し合っているような具合だ。このため、いったんコンピュータ関連書籍のクラスタに属しさえすれば、私が読むべき書籍は、何度も繰り返しタイムラインに現れると期待できそうだ。なぜなら、私がフォローしている誰かが新規書籍をアイテムとして登録したり、他の誰かの書籍を「気になる」した瞬間に、それが私のタイムラインに登場するからだ。これはTwitterで重要な情報が何度もRTされる現象に似ていて、多くの人が読むべきだと思った本は何度も出てくることになるだろう。

 使い始めたばかりのころは、「気になる」ボタンをクリックすることには、単に自分の欲しい物リストへの追加の意味しかないように感じていたが、フォロワーが増えるに従って、これは「モノのRTなのではないか」と感じるようになってきた。私が「気になる」したアイテムを、別の誰かが「気になる」し、さらに……、というように連鎖が生まれる可能性を感じる。

airplane.png これは私のアマゾンの購買履歴から拾い上げたアイテムだが、私のフォロワー2人が「気になる」を押していることが分かる

使い勝手の良さと、ちょっとした中毒性

rec.png おすすめのアイテムが画面右側に表示される

 右ペインに表示されている「おすすめアイテム」に目をやると、1つか2つは気になるものがあったりする。目に止まったアイテムで「持ってる」「気になる」のいずれかを押すと、そのアイテムがスルリと横にアニメーションして消え、自分のリストに追加される。このとき、カーソルがあった場所に次のアイテムがスライドアップしてくるのだ。つまり「気になる、持ってる……、えーと、持ってない、持ってない……」と、連続的にアイテムを選り分けることができるのだ。むしろ、アイテムがカーソルの下に次々と滑りこんで来る感じがあって、ぼんやりと画面を見ながら“無限にチクチク”してしまいそうになる。

 アイテムの追加やコメントの追加、「好き」「嫌い」「気になる」などのボタンは、あるべき場所にすべてあり、ちょいちょいと情報を追加したくなる感じだ。また、すべてのソーシャルサービスがそうであるように、初期のmixiの足あとやTwitterでのmentionに似て、自分の行為に対して周囲から反応があると、何やら妙に嬉しい。それを確認するために、ついついまたサービスをのぞきにくるという、ちょっとした中毒性がbyflowにはあるように思う。

 例えば、ノーティフィケーションには、自分が登録したアイテムに対する反応が見える。私が登録するアイテムは私のフォロワーのタイムラインに現れるが、このとき、それを見た人が「気になる」を押すと、私のアイテムから「気になる」したことが分かる。私としては「これはいい本だから」「このおもちゃは買って正解だった」と思って紹介したアイテムが、自分の友人・知人や見ず知らずの人に「気になる」、あるいは「いいね」されていると、小さなガッツポーズをしたくなる。CDショップや本屋でポップ(手書きなどで作品の背景や紹介文を書いたり、売り文句を書く、紙のアレ)を工夫しながら書いて売り上げが伸びることを喜びとするショップ店員の気分は、こんな感じなのだろうかと想像している。私がbyflowを面白く感じて次々にアイテム登録しているのは、人が知らない本を面白がって紹介するという編集者的な作業が案外好きだからかもしれない、と感じている。

相互キュレーションという市場はあるか?

 byflowを使い始めて1カ月ほど。フォロー・フォロワーが増え始めてから、まだ1週間といったところだが、今のところ1日に数度はサイトを訪れるようになっている。Twitterの初期、2007年頃もせいぜい1日に2、3回だったことを思えば、byflowはフォロー関係が未熟な段階から、それなりに中毒性があるように感じられる。何気なくTwitterやFacebookを開くような感覚で、byflowも1日に何度か開くようなサービスになれば、大きなアフィリエイト収入になりそうだ。それは、相互キュレーションともいうべき新しい市場なのかもしれない。ブログのアフィリエイト市場がそうであるように、特定ジャンルでカリスマ的人気となるキュレータ的ーなユーザーが現れる可能性もあるかもしれない。

 一方、タイムラインを眺めていると、当たり前のものが多く流れてくることに、早速不満を感じ始めている。例えばスペンサー・ジョンソンの「チーズはどこへ消えた」だとかミヒャエル・エンデの「モモ」みたいな書籍が流れてくると、私はげんなりしてしまう。私も最初、何を登録していいのか分からずに夏目漱石の「こころ」を登録してしまったクチだから人のことは言えないが、地方都市駅前の小さな書店のような凡庸な書棚など、誰が求めているだろうか、と思う。「こころ」を「持っている」(読んだ、も含まれる)とだけ100人に言われても情報量ゼロである。コメントなしに読んだとだけ言われる村上春樹も同様だ。

 コメントなしのアイテム登録の割合がどの程度のラインに落ち着くかも、今後のユーザーコミュニティのあり方にかかっているのだろう。Twitter同様に、いずれ、「コメなしアイテムのみの方は相互フォローお断り」というようなユーザーが出て来るのかもしれない。Twitterがそうであったように、コミュニティのあり方にユーザーたちが自身が自覚的になったとき、どういうルールが出てくるのか、それはまったく未知数のように思う。


 いろいろとbyflowの特徴と個人的な感想を書いてきたが、byflowが注目だと思う一番の理由は、実は技術力、実装力だ。「作りたいサービスがあったからGoogleを辞めて独立した」、という創業者3人は全員元Googleジャパン勤務。牧野氏はGoogleジャパンに7年半在籍し、サービス開発を担当。CTOの林芳樹氏は検索サービスや動画検索のためのインフラ開発に携わっていたという。現在byflowはJVM上のLisp実装で注目を集めているClojureで作っていて、将来的にClojureエンジニアが確保できるのか少し不安に感じているともいう。プロダクトマネージャの徳生裕人氏は、Googleブックス、Googleトランジットなどの開発に携わり、2008年からYouTube本社勤務で、アジア太平洋地域のYouTubeの製品企画を担当していたこともあるという。早期からGoogleジャパンにいてストックオプションによるキャピタルゲインでもあったから起業したのかなと、うがった見方をしたくなるが、Webサービス開発の一流のメンツが揃っていることは間違いないだろう。

 ソーシャルサービスの本質は、ユーザーが増えなければ分からない。byflowも、もっと全体のユーザーが増えたり、私の周囲での利用者が増えてみないと、どういうサービスになるのか想像が付かないところがある。ただ、モノを媒介にしてつぶやき合ったり、かすかなやり方で情報を共有し合うということが、意外に楽しいことなのだということを見せてくれただけでも、byflowに将来性を感じるのだ。

関連リンク

(@IT 西村賢)

情報をお寄せください:

Coding Edge フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

キャリアアップ

- PR -

注目のテーマ

ソリューションFLASH

「ITmedia マーケティング」新着記事

最も利用率の高いショート動画サービスはTikTokではない?
ADKマーケティング・ソリューションズは、ショート動画に関する調査結果を発表しました。

古くて新しいMMM(マーケティングミックスモデリング)が今注目される理由
大手コスメブランドのEstee Lauder Companiesはブランドマーケティングとパフォーマンス...

Yahoo!広告 検索広告、生成AIがタイトルや説明文を提案してくれる機能を無料で提供
LINEヤフーは「Yahoo!広告 検索広告」において、ユーザーが誘導先サイトのURLを入力する...