FatWire、「情報管理を徹底すれば、“見せ方”も洗練できる」無償セミナーで「グローバルPIMの構築事例」を発表

» 2011年05月19日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 ブランディングや収益向上を目的に、現在、多くの企業が自社ホームページを運営している。だが、情報量やページのデザイン、ユーザーエクスペリエンスなどには配慮している一方で、掲載写真の著作権管理など“守り”の取り組みについては手薄になっている傾向が強い。特に商品情報サイトなどの場合、掲載商品は膨大な数に上るが、商品写真の著作権をはじめ、スペック、価格といった商品関連情報も一元管理できていない例が多い。

 CMS関連製品を提供するFatWireは5月12日、「こうした状況が、Webサイトの運営やリニューアルの手間とコストを増加させる原因となっている」として、PIM(製品情報管理)とコンテンツ管理をテーマにした無料セミナーを開催。その模様をUstreamでも配信し、企業事例を通じて、Webサイト運営におけるコンテンツ管理の重要性とそのポイントを紹介した。

Webサイトのコンテンツ管理は“ページ単位ではなく構成要素単位で”

 セミナーでは、まずFatWire代表取締役の田中猪夫氏が「コンテンツ著作権管理とグローバルPIM(Product Information Management)」と題して講演。ある企業が自社Webサイトをリニューアルした際、写真の著作権をめぐって、コンテンツ内容、コストの両面で思わぬダメージを被ってしまったケースを紹介した。

 その企業では、Webサイトの立ち上げ以来、同一のデザイン会社にリニューアル作業を依頼。だが、あるときのリニューアルを機に、デザイン会社の変更を決定した。ところが、新会社に業務を引き継ぐ際、Webサイトに掲載していたほとんどの写真の著作権を、従来のデザイン会社が持っていることが判明。その結果、新しいデザイン会社にWebサイトのリニューアルを任せたものの、短期間でいちから新しい写真素材を用意しなければならなかったため、以前よりもビジュアル要素に乏しいWebページになってしまったのだという。

写真 FatWire代表取締役の田中猪夫氏

 「これはデザイン会社との間で、コンテンツの著作権と管理方法を明確に取り決めておかなかったことが原因。写真の掲載媒体や二次使用権の問題なども含め、『どう使い、どう管理するのか』という“コンテンツのガバナンス”を徹底できていなかったがゆえの問題だ」(田中氏)

 また、「こうしたコンテンツ管理の不徹底は、コスト面にも悪影響を及ぼす」として、紙媒体のカタログとWebサイトの両方を運用しているA社の事例も紹介した。

 あるとき、A社では、商品群ごとのカタログ制作を複数の印刷会社に依頼。Webサイトの制作は子会社に任せた。だが、A社がカタログ制作を依頼した全ての印刷会社が、製版会社Bに写真加工を依頼。一方、A社の子会社は、Webサイト制作をある印刷会社に外注したが、その印刷会社も製版会社Bに写真加工を任せていた。つまり、A社自身で写真管理を徹底していなかったばかりに、孫受け、ひ孫受けという下請け連鎖の中で、写真加工の中間コストを知らず知らず増幅させてしまっていた格好だ。

 「この場合、A社自身が著作権も含めて写真を管理しておき、印刷会社や子会社にカタログ/Web制作を依頼する以前に、A社が直接、製版会社Bに写真加工を依頼しておけば、加工コストは1回分で済んだ。コンテンツを確実に管理しておけば“思わぬコストダウン”も図れるという好例だ」

 田中氏は、「写真やテキストなどの著作権も含めて、Webサイトの各コンテンツ構成要素を継続的・効率的に利用できるよう、全社的にガバナンス対象と認識すべき。特にWebサイトは、同じ素材を使ってページデザインをリニューアルする機会も多い。よって“ページ単位”ではなく“構成要素単位”で確実に管理することが大切だ」と力説した。

PIMを実践し、製品関連コンテンツを一元管理

 この講演を受けて、営業部 ディレクターの佐藤高生氏は「某グローバル家電メーカーのグローバルPIM事例」を紹介した。この企業では、販売促進基盤として「製品ラインナップを紹介するグローバル規模でのWebサイト構築」に2004年から着手。具体的には、欧州で成功していたWebサイトを、他国にも横展開しようと考えていた。

 だが、他国の販売会社が、欧州と同様のWebサイトを制作するためには、製品写真や関連情報など、制作に必要な素材を、全世界に点在する製造拠点に頼んでイチから集めなければならなかった。加えてデータ入力の負荷も大きく、横展開はなかなか進まなかったのだという。

写真 各製造拠点が各販売会社に対し、それぞれバラバラに商品写真・情報を渡しており、製品関連情報をグローバルで一元的に管理できていなかった

 「つまり、製販間での商品情報の受け渡しプロセス/管理方法が全社的に統一されていなかったため、各製造拠点が各販売会社に対し、それぞれバラバラに商品写真・情報を渡していた格好だ。これを受けて、商品情報の量・質が不足していること、情報精度にも問題があること、市場に向けた情報発信のタイミングも遅れがち、といった情報管理・発信の課題も顕在化した」(佐藤氏)

 そこで同社では、PIM(Product Information Management)の実践を検討。具体的には、グローバル製品データベースを導入し、商品情報の受け渡しプロセス/管理方法を標準化することを考えた。これにより、各製造拠点が標準化されたプロセスに沿ってグローバル製品データベースに製品情報を登録し、各販売会社も一定のプロセスに沿って、随時、製品情報を引き出せれば、製品情報をグローバル規模で一元管理できる上、Webサイト制作の素材調達も大幅に効率化される。

写真 グローバル製品データベースを導入することでPIM(Product Information Management)を実践し、商品情報の受け渡しプロセス/管理方法を標準化することを計画した

 ただ、コンテンツ管理は一元化できても、「膨大な製品情報を効率よくWebに反映し、販売促進につなげる」という本来の課題はまだ残されている。特にWebの横展開を図る上では、各国の言語に対応するマルチリンガルの実現と、昨今の状況からスマートフォンなども含めたマルチデバイスへの対応も求められた。

 そこで同社が着目したのがCMS(Content Management System)だった。周知の通り、CMSはWebページのテンプレートと、そこに掲載するコンテンツデータをバックエンド・データベースに登録しておき、 条件に添ってコンテンツデータとテンプレートから新しいWebページを生成できるシステムだ。ページ作成者はHTMLコードを意識することなく、コンテンツ更新が可能となる上、Webページのデザイン、クオリティにも一貫性を確保できる。

 「つまり、PIMをバックエンド・データベースとし、これにCMSを組み合わせることで、『製造拠点はコンテンツをPIMに登録し、販売会社は既存のCMSで効率的に情報公開する仕組み』を考案した形だ」(佐藤氏)

既存の業務プロセスへの影響を抑えながら、ガバナンスを徹底

 ただ、このPIM+CMSの仕組み構築に乗り出す上では、もう一つ懸念事項があった。コンテンツ管理の“グローバル規模での”ガバナンス確立は、さすがに一度に実現することは難しいということだ。特に、CMS製品とそれを使う際のプロセス・ルールは、グローバルでは統一されていなかったが、各販売地域内では標準化されていた。ここに新しいCMSを導入してプロセス・ルールをいきなり変えてしまえば、各販売会社のWebサイト制作作業を停滞させてしまう可能性もある。

 そこで同社は、ガバナンス確立への最初のステップとして、欧州、東南アジアなど各国の販売会社が既存CMSを使えるよう、“既存CMSのフォーマットでXML配信ができる”特徴を持ったFatWireのCMS製品「Content Server」を採用した。これにより、「各国の販売会社が使い慣れた既存のCMSを使って、PIMで一元管理している製品写真、販促コピー、カタログスペックなどの情報を基に、自社の市場に即した独自のWebサイトを効率的に作成できる環境を整えた」のだという。

写真 各国の販売会社が、使い慣れている既存のCMSを使って、グローバル製品データベースから任意に情報を引き出し、利用できる体制を整備。これにより「グローバル規模でのコンテンツ管理の徹底」と「自社の市場特性に即した独自のWebサイト構築」という条件を両立した

 この仕組みを、まずシンガポールでテスト的に実施したところ、各販売会社が一から情報を集め、独自に作っていた従来のWebサイトに対して「情報量は3倍、アクセス数は46%に増加。さらに、サイト内のナビゲーションが洗練されたことで、サイト内検索の利用数が24%減った」という。

 佐藤氏は、「製品情報をいかに見せるか、いかにWebサイトを構築するかではなく、グローバル・ガバナンスとして『製品情報をいかに確実に管理するか』という“情報活用の基盤固め”をしたことと、各国で利用中のCMSをそのまま利用可能とし、既存のプロセスへの影響を抑えたことが最大のポイントだ。こうした“足元からの情報管理・活用”というアプローチは、情報の確実な管理と、効率的でスピーディな活用が求められている今、グローバル規模でのWeb展開をはじめ、企業のブランディング、収益向上にとって非常に重要な鍵となる」とまとめた。

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