「sinsai.info」がAPI公開、開発者やデータ入力・承認の参加呼びかけ

オープンなコラボレーションが生んだ復興支援プラットフォーム

2011/05/20

 東日本大震災の被災者向けに避難生活や復旧/復興に必要な情報を集約、整理し、公開している情報サイト「sinsai.info」は、「オープンなソフトウェア」「オープンなデータ」「オープンなコラボレーション」を柱に活動を続けている。そしていま、震災後の緊急支援から、中長期的な復興支援へ向け「新たなスタート」を切ろうとしている。

 5月7日に開催された「OSSチャリティセミナー」、そして5月14日に行われた「sinsai.infoシンポジウム」での講演内容を基に、その取り組みを紹介したい。

sinsaiinfo01.jpg sinsai.infoシンポジウムには会場がいっぱいになるほどの参加者があった

復旧のインフラとなる情報を提供

 sinsai.infoは、3月11日に発生した東日本大震災の直後に、オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンや有志が集まって立ち上がった情報集約サイトだ。Webサイトへの投稿やメール、Twitterで流れてくる震災関連情報を収集し、内容を検証した上で、「救援要請」「安否確認・消息」「避難所」や「利用可能なサービス」「交通情報」、さらに「ボランティア募集」「雇用情報」といったカテゴリに分けて紹介している。

sinsaiinfo02.jpg 5月7日に開催された「OSSチャリティセミナー」でsinsai.infoの取り組みを説明した三浦広志氏

 特徴は、一連の情報を位置情報とひも付けて表示していることだ。OSSチャリティセミナーで講演を行った三浦広志氏(sinsai.info 副責任者)は「位置情報を付けて見せていることがポイント」だと述べた。例えば、孤立している人から助けを求める投稿があれば、それを元に迅速に救出に向かう、あるいは自分の半径10キロメートル以内で新しい情報が投稿されればアラートを送る、といった形で活用できる。いわば、救援や復旧作業のインフラとなる情報を提供する役割を担っているわけだ。

 このsinsai.infoの基盤は、オープンソースの情報集約ソフト「Ushahidi」(ウシャヒディ)とクライシスマップだ。Ushahidiは、ハイチやニュージーランドの震災の際にも活用されたクラウドソーシングツールで、Webやメール、ソーシャルメディアで寄せられた情報を集約し、地図上にマッピングして表示する機能を提供する。背景となる地図情報には、有志がトレースすることでWiki風に整備していける「Open StreetMap」を活用。さらにマイクロソフト、ヤフー、JAXAなどの協力を得て、背景画像を整備していったという。

 これまでに1万件を越えるレポート(情報)が掲載された。ページビューは100万を超え、ユニークユーザーも50万人以上。中でも、仙台からのアクセスが最も多いという。

「オープンソース」「オープンコラボレーション」が柱

 sinsai.infoを開発、運用しているのはボランティアで集まった人々だ。大ざっぱに分けて、開発とバグつぶし、インフラ運用やユーザーインターフェイス開発に携わる「開発班」と、日々寄せられる情報の精査・分類に当たる「データ班」の二手に分かれ、延べ250人以上が活動している。また、企業からの協力も集まってきた。現在sinsai.infoのサーバ群はAmazon Web Services(AWS)上で稼働しており、運用監視はハートビーツが行ってくれている。

sinsaiinfo03.jpg 震災後3〜4時間で立ち上がったといわれているsinsai.infoだが、実はそれ以前、ハイチ震災の後からUshahidiの日本語化に向け、ベータ版の作業が進んでいたそうだ

 見ず知らずの人々のコラボレーションを支えているのは、TwitterやSkype、Yammerといったソーシャルメディア群だ。約90人が参加する開発チームのリーダーを務める上野氏によると、sinsai.infoへ負荷が集中したため、徹夜でAWSへ移行した際には、Skypeでコミュニケーションを取りながら作業したという。

 普通の仕事での開発ならば、コーディング規約なりワークフローなり、何らかの枠組みがあるものだ。しかしsinsai.infoの場合、それまでまったく会ったことのない人が、何も決まりのないままいきなり一緒に開発をすることになった。

 だが、sinsai.info開発チームのすごかったところは「課題を発見するだけでなく、それを解決する能力を持った人ばかりが集まっていた」(上野氏)こと。

 その要因について三浦氏は、「オープンソースだったことが大きい。すぐにGitHub上にレポジトリができて、チケットをRedmineで管理してどんどんつぶすという具合に仕事をすることができた。自分で問題を見つけて自分でつぶすという倫理観があった」と述べている。

 もう1つ興味深いのは、海外との連携だ。ハイチの震災においても、sinsai.infoと同様にクライシスマップの作業が行われたが、「通常の仕事ならば欠点になるはずの『時差』が、『常に誰かが起きている』という強みになった」という。こういった海外コミュニティとの連携も強化していきたいという。

新たなアプリケーションの開発が可能なAPIを公開

 sinsai.infoには、「助け合いジャパン」から提供されるデータも含め、大量の情報が集まっている。これをどう活用し、どのように見せていくかについても「オープン」に取り組んでいくという。

 シンポジウムに合わせ、sinsai.infoはリニューアルを行い、ユーザーインターフェイスを改めた。新しいAPIはOpenSocialガジェットとして実装しており、REST APIと、位置情報を表示するKML(Keyhole Markup Language)を公開している。このAPIでは、カテゴリやレポート(API上は「インシデント」と呼んでいる)、コメントの取得や絞り込み、位置情報に基づいたレポートの取得といった操作が可能で、結果はXMLやJSONで返される。

 また、opensocial-jqueryを利用してjQueryプラグインも作成した。基本的にJavaScriptだけで実装でき、例えば、ボランティア団体などがカスタマイズを加え、mixiやiGoogleなどへ埋め込むといったことが容易に行えるようになる。あるいは、「地域ごと、避難所ごとのポータルを作る」「ボランティア団体用Androidアプリケーションを作る」「位置情報を組み合わせたお知らせアプリを作る」……など、アイデア次第でさまざまなアプリケーションが開発できる。

 「今後は復興支援に焦点を当てた活動を展開していきたい。公開したAPIを使ってマッシュアップをどんどんやって、復興支援用のアプリケーションを作ってほしい」と上野氏は述べ、幅広いデベロッパーの参加を呼び掛けている。このAPIの詳細はブログ上にあるほか、5月21日、22日に開催される「第2回 Hack for Japan」でも説明される予定だ。

「人の目で確かめる」、メディアとしての自負

 一方、これまであまり表に出てくることはなかったデータ班の役割も大きい。「システムは人間がやることを手助けしてくれるだけ。情報については1つ1つ人の目を通して掲載している」(三浦氏)。

 この作業、実は工数の掛かるものだ。投稿された情報を選別して重複を排除し、レポートの形に直し、漏れがないかどうかを確認し、承認してから公開するというワークフローが組まれており、ダブルチェックを経た情報のみが「レポート」としてsinsai.info上で公開されることになる。

 被災地からはしばしば「情報が欲しい」という声が上がってきたが、その情報が不正確であるわけにはいかない。質を保つ上で承認はどうしても必要な作業だ。

 ただ、そのための人手が足りない。現時点では、レポートについては1日当たり10人、承認には1日当たり20人の労力が必要だ。なるべくタスクの粒度を小さくして1人当たりの負担を減らし、継続して活動できるよう工夫に努めているが、「完全に人手不足」だという。

 特に、承認作業が大変だという。すでに1万7000件以上のレポートが承認を待っているが、その作業にはどうしても、1件当たり2〜3分の時間がかかる。承認に携わる人は増やしたい。しかし誰でもいいというわけではなく、ある程度レポートやsinsai.infoのワークフローに慣れ、情報を見極める目を持った人でなければ任せられない――そこにジレンマがあるという。

 それでも「情報を垂れ流すのではなく、人の目を通して精査しているところにsinsai.infoのメディアとしての意味がある」とデータ班。この部分を解決していきたいし、希望者はぜひ参加してほしいと述べた。

災害対応から中長期的な復興支援に向けて

 当初、震災関連情報サイトとして立ち上がったsinsai.infoには多くの情報が集まり、活用されている。だが、「これで我々のミッションは終わりかというと、そうではない」と三浦氏は述べ、シンポジウムを、年単位の取り組みになる復興を支援する情報プラットフォームとして、あらためてスタートを切る日として位置付けた。

sinsaiinfo04.jpg sinsai.info総責任者の関治之氏は、「自分もヒント、そして勇気をもらった。ぜひ多くの人に参加してほしい」と呼び掛けた

 復興支援の観点から注目しているもう1つのオープンソースソフトウェアが「Sahana」だ。Ushahidiは、Twitterなどを活用し、情報を高速に収集して直感的に表示できることを特徴としている。これに対しSahanaは、ヒアリングベースで、現地からの情報を緻密に集めるのに適している。専門的な情報をまとめ、いわば地域ごとの「カルテ」を提供するというイメージで、現地のボランティア団体などを支援していきたいという。

 こうしたプラットフォームを使って「現地をエンパワーしたい」(三浦氏)。そのためにも、もっと効率よく、効果的に使ってもらえるような取り組みを進めていきたいという。

 さらに、sinsai.infoで得られた成果を、グローバルに公開していきたいとも述べた。そもそもsinsai.info自体が、Ushahidiやハイチ地震のチームとSkypeを介してコミュニケーションし、ノウハウを取り入れてきたもの。「ソースコードはもちろんだが、この取り組みを通して得られたさまざまな経験を世界に還元していきたい」(三浦氏)。

 一方で、プロジェクトが抱える課題も浮き彫りになりつつある。1つは現地との連携だ。現地の情報を吸い上げる仕組みをどう作るか、そして、ただ援助するだけでなく、地域の自立や生活再建を支援する取り組みにどうつなげるかという部分でアイデア交換が始まっている。

 また、sinsai.infoを継続できる体制作りも課題だ。開発班にしてもデータ班にしても、本業と両立しながら、継続的に支援していく枠組みをどう作っていくかが課題になりそうだ。例えば、sinsai.infoを開発者の教育の場、あるいは技術力をアピールしての転職の機会としてとらえる、というアイデアもある。一過性の取り組みに終わらせないために、より多くの力が必要とされている。

これからも取り組みは続く――

 5月21日、22日には、IT開発の側面から、震災復興を継続的に支援することを目的にしたコミュニティ、Hack for Japanが、2回目となる「ハッカソン」を開催する。宮城県仙台市、福島県会津若松市、福岡県福岡市、香川県高松市、東京・銀座、ロンドンの6都市での同時開催だ。1日目は、震災復興に向けたアイデアを出し合う「アイデアソン」、2日目は実際に開発を行う「ハッカソン」というスケジュールで、仙台会場は、21日に行われる「オープンソースカンファレンス2011仙台(OSC仙台)」とも連携する。

 また5月31日にはThe Linux Foundationが、災害時におけるオープンコラボレーションの力をテーマに、「The Power of Collaboration in Crisis」と題したオープンフォーラムを開催する。sinsai.infoの三浦氏やHack for Japanの山崎富美氏に加え、UshahidiプロジェクトのPatrick Meier氏が登壇し、講演とパネルディスカッションを行う予定だ。

(@IT 高橋睦美)

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