規律のないアジャイル開発は失敗するRationalのGeneral Managerに聞く

» 2011年06月08日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 米IBMは6月7日(米国時間)、開発者向けカンファレンス「Innovate2011」の二日目を実施。基調講演のほか、事例紹介やブレークアウトセッションなどが開催された。ここでは、初日に基調講演を行ったRationalのGeneral Managerであるクリストフ・クレックナー(Kristof Kloeckner)氏に話を聞いた。

開発プロセスをビジネスプロセスと同じように扱ってほしい

 まずクレックナー氏は、ソフトウェア開発の近況について、「組み込み開発が増加してきたことなどにより、明らかにコラボレーションやライフサイクル管理の重要性が増してきている。ビジネスの意思決定にも深く関係してきた。現場の開発者やPMだけのツールではなく、組織全体が使うツールになってきている」と分析。実際、Rationalもこのようなニーズを汲んで、ここ数年で経営層やマネージャ層向けの機能やツールを提供し始めており、これらのユーザーの利用を推進している。

クレックナー氏写真 米IBM Rational General Manager クリストフ・クレックナー氏

 この点については、「開発プロセスをビジネスプロセスと同じように扱ってほしい。ビジネスプロセスと同様に、組織全体が一連の機能を利用し、意思決定をするようになってほしいからだ。航空業界などではこのような利用方法が進んでいる」と説明した。

 また、実際の開発現場では、ITアーキテクトとエンジニア、エンジニアと運用管理者など、それぞれの立場の違いによって、さまざまなギャップが発生しているケースが多い。ソフトウェアを開発したものの、運用段階でうまくいかないケースも存在している。

 この点については、「ソフトウェアエンジニアと運用管理者の間には、確かに立場の違いからくるカルチャーギャップが大きく存在することがある。それを埋めるためには、コミュニケーションツールが必要だ。最近ではクランドコンピューティングの登場で、開発が短納期化しているため、特にエンジニアと運用管理者のギャップを埋める必要性が出てきている。このような背景によって、エンジニアや運用管理者自身もギャップへの興味が高まっている点も追い風だ。当社ではTivoliとの連携も視野に入れて連携を強化していきたい」とした。

アジャイル開発成功のカギは“規律”にあり

 続いて、クラウドコンピューティングの普及により、クラウド向けの開発環境を構築すべきかとの問いに対しては、「開発環境自体は大きく変わらないが、使い方が変わっていくだろう。まず環境構築が高速化し、一貫性を持たせることが重要となる。例えば、テスト環境においては、クラウドを利用することで柔軟性が高まり、一度に大量のサーバを仮想的に利用したり、資産をシェアすることが容易になった。クラウドを活用すれば、3週間かかっていた環境構築が数時間で実現できる可能性もある」と説明した。

 また、前日の基調講演で謳っていた「Software.Everyware.」では、ソフトウェアがどこにでも普及する分、セキュリティも非常に重要になってくる。この点について、「確かにソフトウェアの普及とセキュリティは切っても切れない関係で、非常に重要な問題になってきている。ソフトウェアの利用が普及すれば、セキュリティリスクも比例して広がるからだ。例えば、IBMではセキュリティを強化するために、ブラックボックスアプローチを用いてテストしているほか、外部からもスキャンして脆弱性検査を実施している。確かにソフトウェアの普及とともにリスクも高まるが、リスクを事前に洗い出し、モデリングによってきっちりとプロセス改善することで、リスクを低減できるはずだ」と語った。

 同じく前日の基調講演で強調していた“アジャイル開発”を成功させるポイントには、「成功させるポイントは“規律”をきちんと守ることだ。IBMもアジャイル開発では規律を特に重んじた。実際にはリーン開発のルールを取り入れたのだが、これによって、リスクを早期に改善できたメリットは大きい。一方で、アジャイル開発で失敗しないためには、きちんとリミットを設定し、リリースを頻繁に行うことだ。時間だけでなく、機能にもきちんとリミットを設け、必要であれば後から追加開発すればよい。その際にきちんと情報を集め、分析した上で判断することもとても重要だ。とにかく、アジャイル開発はきちんとした規律なしには成り立たないと考えた方が良いだろう」と語り、規律の重要性を説いた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ