SAS、「将来を予測できる分析基盤整備が不可欠」ビジネスパーソン1000人に聞く「分析実施状況」を発表

» 2011年12月22日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 クラウドに次ぐキーワードとして、大量データを有効活用する「ビッグデータ」の取り組みが注目を集めている。だが、社会での関心の高さとは裏腹に、「分析」を実現できている企業はまだまだ少ないようだ。

 SAS Institute Japanは12月14日、クロスマーケティングとの共同調査「分析力に優れた企業ベスト10」2011年版を発表した。インターネットで1000人のビジネスパーソンに「自社における分析の実施、活用状況」を聞いたところ、「分析を行っている」企業は約3割、「分析結果を活用している」企業も約4割にとどまったという。

分析に対する意欲はあるが、ノウハウがない

 同調査は2011年11月、「成長企業と分析力に関する意識調査」として、1000人のビジネスパーソンを対象にインターネットによるアンケート形式で行われた。これによると「勤務先における分析の実施度」では、「十分に行われている」が2.7%、「ある程度行われている」が29.6%、「あまり行われていない」が47.0%を記録。「勤務先における分析の活用度」でも、「十分に活用されている」が3.7%、「ある程度活用されている」が36.2%、「あまり活用されていない」が54.8%と、多くの企業で分析を実施・活用できていない現状が浮き彫りになった。

 一方、「“今後”分析の対象となるデータ分野」という質問に対しては、「自社顧客の意識・ニーズ・実態」が55%、「競合他社の事業状況」が33.1%など、販売・マーケティング面のデータ分野が上位に。なおかつ、各データ分野とも高いパーセンテージを記録したことから、今は分析を実施できていなくても、今後、分析を取り入れていこうという意欲は高いことがうかがえた。

写真 ノウハウ不足、組織体制の不備などが分析に対する大きなハードルに

 ただ、「分析に取り組む上での懸念事項」として、「分析を活用するための組織体制が不備」が35.9%、「分析手法に精通しているスタッフの不足」が35.3%、「分析結果をどう生かすかのノウハウがない」が32.9%を記録するなど、分析を実施するための組織体制、ノウハウ不足がハードルになっていることも明らかに。

 こうした結果を受けて、SAS Institute Japan マーケティング本部 本部長の北川裕康氏は、まず「分析」の意味合いから解説。一般に、データの「分析」というと、過去の業績を振り返り、現在を確認する「レポーティング」の意味で理解されている例が多いが、本来「分析」とは、過去と現在のデータから将来を予測する行為を指すことを挙げ、「企業間競争が激化している現在、市場を勝ち抜くために必要なのは“何が起きたか”ではなく“何が起こるか”を知ること。しかし、そうした分析を行うためには、ツールだけではなく、仕組み、組織、人、文化という4つの要素が不可欠だ」と解説した。

写真 今求められているのは、“何が起きたか”ではなく“何が起こるか”を知ること

 また、組織体制やノウハウ不足に悩んでいることを示すアンケート結果を挙げながら、欧米企業では4つの要素が揃っている例が多いが、「日本企業ではそうした企業はまだまだ少ない」と指摘した。

分析でニーズを予見。収益向上と顧客の囲い込みに成功

 実際、欧米では「分析」による成功事例が多数存在する。その1つが、SASの導入企業、米国オーランドのNBAプロバスケットボールチーム「オーランド・マジック」のケースだ。同チームは全てのプロスポーツチームの中で第3位のTwitterのフォロワー数を誇るなど、“ファンとのインタラクティブかつ継続的な関係作り”を全社的に重視している。そのゴールを実現するために、2010年、SASを導入し、顧客をよりよく知るために”全社的にデータを活用できる環境を整えたという。

 具体的には、Webポータルを介して、ビジネス部門をはじめ、チケット販売部門、企業パートナーシップ部門、顧客サービス部門など、関係部門の誰もがチケットの在庫状況や販売レポートなどを随時閲覧可能な環境を整備。また、SASの導入以前には「人気チームとの対戦」や「週末の試合」のチケットに最高額の価格を設定していたが、導入後からは各試合に対する実際の需要を分析。1つ1つの試合に最適なチケット価格を設定し、安定的な販売と売り上げ向上を果たした。

 また、データマイニングツール「SAS Enterprise Miner」を使って、「シーズンチケット保有者が年次更新を決める要因」を分析。「チケットの保有期間と利用率」が年次更新を決定付ける主要因であることを把握し、チケットが使用されていない時期、保有者に電話で情報提供して未更新を防止するなど、顧客の囲い込みに成功したという。

 こうした取り組みについて、オーランド・マジックのビジネス戦略担当ディレクター、アンソニー・ペレス(Anthony Perez)氏は、「われわれはファンとの関係を長期的なパートナーシップと考え、ファンをより良く理解するため、SASを活用してスタジアムの売店の購入履歴などを分析してきた。データから顧客の全体像を得ることで、真のニーズを理解し、適切な提案やサービスだけを届けることができる」とコメント。

 オーランド・マジックは2011年12月21日には、データマイニング、時系列予測、テキスト分析、統計・解析、シミュレーションなどで構成する分析スイート製品「SAS Analytics」を導入したことも発表し、今後はデジタル発券システムを導入してファンにIDカードを提供することで、カードデータを活用して「ファン1人1人に最適なサービスを開発、提供する」としている。

ツールとともに、分析のためのノウハウ、仕組みづくりも啓蒙

 もちろん、日本でもこうした取り組みを実践している企業はメーカー、小売り・流通、金融をはじめ、少ないながらも存在する。だが大半の企業は、前述の「仕組み、組織、人、文化」という4つの要素が揃っていないのが実情だ。

写真 “分析”を行うためには、ツールだけではなく、仕組み、組織、人、文化という4つの要素が不可欠

 また、“ビッグデータ”トレンドに乗ってBI市場が活性化し、優れた使い勝手を持つツールも増えたことから、“分析”の敷居が低くなったのは歓迎すべきことだが、高度な分析スキルを持つ人材が慢性的に不足していることも問題視されている。「分析に取り組む上での懸念事項」に対するアンケートの回答を見ても、データを有効活用するための人材育成や環境作りの方が、ある意味では、ツール以上に求められているのかもしれない。

写真 SAS Institute Japan マーケティング本部 本部長の北川裕康氏

 その点、SASは統計学や分析技術を教育するための分析ツール「JMP」などを20年以上にわたって提供しているほか、「データを分析できる人材」「分析のためのプログラムを書ける人材」のスキルを認定する「SASグローバル認定プログラム」を各国で展開するなど、ツール開発・提供とともに、人材育成に力を入れてきたことでも知られている。

 北川氏はそうした点にも触れつつ、「大量データをスピーディに分析し、有効な知見を基に、プロアクティブに顧客との対話を進めることが収益・ブランド価値の向上につながる」として、将来を予測するBA(Business Analytics)の重要性をあらためて強調。それを実現するためのツールとともに、「分析ノウハウや環境作りの在り方なども併せて啓蒙していく」とまとめた。

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