米HP、「単品売りではなく、ソリューションを届ける」米HP 社長兼CEO メグ・ホイットマン氏が基調講演

» 2012年06月06日 00時00分 公開
[内野宏信,@IT]

 米HPが6月3日から米国ラスベガスで開催している年次イベント「HP Discover 2012」で、5日、社長兼CEOのメグ・ホイットマン(Meg Whitman)氏が基調講演を行った。インフラ関連の製品・サービスを同社ビジネスの基本として堅持しながら、「ハードウェア、ソフトウェア、サービスを統合し、ユーザー企業のニーズに応じてソリューションとして提供することで、ビジネスチャンスの獲得に貢献したい」と訴えた。

ハードウェアビジネスを基盤に、クラウド、ビッグデータ製品に注力

 ホイットマン氏はプロクター・アンド・ギャンブル、ウォルト・ディズニー・カンパニー、eBayなどの重職を経て、2011年9月に米HPの社長兼CEOに就任。基調講演ではそうした自身の経験を振り返り、「就任後、ときには従業員からの抵抗もあったが、彼らは常にベストな仕事をし、顧客企業のために常に学んでいる。そうした姿を見てHPという会社を好きになった」と概観した上で、事業の方向性について解説した。

写真 米HP社長兼CEOのメグ・ホイットマン(Meg Whitman)氏

 特に同氏が強調したのが「新しい仕組みが登場すると世の中の流れが変わる」ということだ。「例えばメインフレームがクライアントサーバ環境に変わり、さらにインターネットに変わったとき、Web 2.0が登場したとき、社会や企業は大きな影響を受けた。現在はクラウド、ソーシャル、ビッグデータというトレンドによって世界中の企業が大きな影響を受けている。大量の情報をいかにビジネスの洞察に還元するか、意思決定をいかに俊敏・迅速にビジネスに展開するか、セキュリティをいかに担保するか。コストとのバランスを守りながらこれらを実現するためには、新たな技術が必要となる」。

写真 HP 3つの注力分野

 こうした課題に対し、クラウド、セキュリティ、情報最適化という3つの注力分野を紹介。クラウドについては、オンプレミスやプライベート/パブリッククラウド環境が混在する既存システムを、オープンなアーキテクチャを使って1つに統合し、ハイブリッドな環境をシングルビューで運用可能とする「HP Converged Cloud」サービスを紹介。

 セキュリティ面では、「あらゆるリスクに対応するためには、部屋の鍵だけではなく、部屋の中や周辺を見ることが大切なように、コンテキストに沿った対応が必要」と指摘。構造化/非構造化データの内容からカテゴリ化、リンク付け、要約作成などを自動的に行えるオートノミーの解析エンジン「Autonomy Intelligent Data Operating Layer(IDOL)」に、HPのサーバ向けバックアップソフト「HP Dataprotector 7」を組み合わせて、「コンテキストに基づく合理的な情報の保護、検索、リカバリ」を実現する用意があることなどを示唆した。

写真 キーノートではドリームワークスアニメーションのCEO ジェフリー・カッツェンバーグ氏も登壇。長年のアニメ制作をHPの技術が支えてきたことを解説した

 そして情報最適化については、「構造化データだけではなく、ソーシャルメディア上のクチコミや映像データなど、非構造化データも分析対象として、自社を取り巻く全ての情報を意味あるものに変えなければならない」として、構造化/非構造化データの分析が可能なVerticaやオートノミーの製品を挙げるなど、あらためて同社製品の位置付けを示した。

 ただ、同社の差別化ポイントは「製品ポートフォリオが広い」ことだけではなく、「エンジニアが高度な技術力を持ち、オープンアーキテクチャを採用していること、また、HPの顧客である米国国防省のために、アフガニスタンの戦場に同社スタッフが赴いてコミュニケーションのインフラを整備するなど、ユーザー企業に寄り添う“人の力”も大きなポイントだ」と解説。

 一方で、「売り上げの75%はハードウェア」であることも挙げ、「顧客企業が求めるものを考え、ハードウェア、ソフトウェア、サービスの幅広いポートフォリオの中から、各企業に最も必要とされているものをピックアップして統合し、よりシンプルな形で提示したい」と述べ、ハードウェアという同社のビジネス基盤を堅持しつつ、SIとしての技術力を打ち出す姿勢を強くアピールした。

「幅広い品ぞろえの中から、必要なものを選び、統合して届ける」

 「幅広いポートフォリオの中から必要なものをピックアップして提示する」というホイットマン氏の意向は、社長兼CEOに就任して1年未満ながら、グローバルの各リージョンにも浸透しているようだ。5日の基調講演に先立ち、米HP シニアバイスプレジデント ゼネラルマネージャで、APJ(Asia Pacific and Japan)地域の副社長 ジム・メリット(Jim Merritt)氏と、日本HP 代表取締役 社長執行役員の小出伸一氏に話を聞いたところ、同様の方向性を確認することができた。

 メリット氏と言えば、同じくハードウェアをビジネスの中核に置いているデル日本法人の元社長だが、HPにおいては日本市場をどのように見ているのか、ここではインタビューの一部を抜粋して紹介したい。

――まず日本市場への期待を教えてください

メリット氏 先日、日本を訪れた際も小出社長と3日間をともにし、従業員や顧客企業、パートナー企業の声を聞いて回ったが、やはり日本でのビジネスは成功していると思う。小出社長をトップとした“HP JAPAN”という1つのチームとしての結束が固く、その成果も着実に挙がっていると感じている。APJの中でも日本に対する期待は大きく、特に重要な市場と見ているが、9割以上の出来だと思う。今後も市場を拡大していきたい。

写真 米HP シニアバイスプレジデント ゼネラルマネージャ APJ(Asia Pacific and Japan)地域の副社長 ジム・メリット(Jim Merritt)氏

――日本の顧客企業の現状をどのように見ていますか?

メリット氏 訪日した際、小出社長とともに顧客企業20社のCIOに話を聞いたが、20人のうち8割が「ITインフラにコストが掛かり過ぎている」と話していた。これはわれわれにとって不利なことではない。HPは戦略として「コンバージド インフラストラクチャ」という概念を打ち出している。ヘテロな環境でもオープンなアーキテクチャを使ってシステム全体を統合し、自動化などによって運用管理を効率化したり、クラウドへの移行を実現したりすることで、コストの無駄を大幅に削減できる。この戦略は今の日本市場のニーズにマッチしていると考えている。

――一方で、製品ポートフォリオが非常に幅広く、顧客企業にとっては分かりにくい側面もあると思います。どのように製品の方向性を打ち出していくのでしょうか?

メリット氏 その点について、われわれは各製品を自社の戦略に応じてポジショニングしているだけではなく、顧客企業のニーズに合致する形で顧客に提案する。つまり、その企業にとって、最も効果的・効率的なITインフラの在り方を提示し、適切なコストで使ってもらえるよう配慮している。

小出氏 これを言い換えれば、幅広いポートフォリオの中から各顧客企業に最適な製品・サービスをピックアップして提案するテクノロジのインテグレーションの能力が強くなってきたということだろう。まず品ぞろえがなければ、本当にマッチするものを選ぶということもできない。今HPは、テクノロジを統合して「各顧客企業の要請にマッチする形で届ける」という点が大きな特徴になってきたのだと思う。従来はハードウェアなどを単品で売ってきたが、ただ売るだけではなく、本当に課題を解決できる形で提供するスタイルに変わってきたと言えるだろう。

写真 ジム・メリット(Jim Merritt)氏と、日本HP 代表取締役 社長執行役員の小出伸一氏。「単品売りではなく、必要なものを統合して届けるスタイルが強みになりつつある」

 最後に、メリット氏は「日本では日立、富士通、IBM、オラクルなど競合相手が多く非常に競争が激しい。そうした中で打ち勝つことは、世界でトップに立つことと同じだと考えている」と解説。「今後も日本市場に積極的に投資し、そのニーズや販売方法を学んで顧客満足を追求することで、アジア、世界でトップのIT企業になることを確信している」と述べ、「多彩な品ぞろえの中から必要なものをピックアップし、統合して届ける」、“売り方としてのコンバージド インフラストラクチャ”に自信をうかがわせた。

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