「不正の端緒」判定がポイント、金融庁が「不正対応基準」で原案求められる「明確に白だといえる監査証拠」

財務諸表監査における「重要な虚偽表示の原因となる不正」が対象。「不正リスク要因の検討や不正リスクを把握するための手続きの強化」が主な内容となる。

2012年09月25日 20時00分 公開
[垣内郁栄,TechTargetジャパン]

 金融庁は9月25日に開催した企業会計審議会 監査部会で、企業の会計不正に対応した監査基準に向けた考え方の案を示した。新たに「不正の端緒」を設定し、監査手続きを定めた。

 金融庁が示したのは「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」。今後、この考え方をベースに議論し、「不正対応基準」(仮称)につなげるとみられる。

 考え方は、財務諸表監査における「重要な虚偽表示の原因となる不正」が対象。「不正リスク要因の検討や不正リスクを把握するための手続きの強化」が主な内容で、以下の4項目で構成する。

  1. 基準の概要(全文)
  2. 職業的懐疑心の強化
  3. 不正リスクに対応した監査の実施など
  4. 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理など

 特に手続きを強化したのが「不正の端緒」に関する監査。監査人が「不正による重要な虚偽表示の端緒」を把握した場合、または不正リスクに対する適切な監査証拠を入手できない場合には、監査計画を修正して追加的な監査手続きを求める。「不正による重要な虚偽表示の端緒」は考え方の付録で示された7項目の例などで判断する。

不正による重要な虚偽表示の端緒を示す状況の例

  1. 不正等に関する情報
  2. 留意すべき非経常取引(不適切な売上計上、資金環流取引などのオフバランス取引)
  3. 証拠の変造の可能性
  4. 会計上の不適切な調整が行われた可能性
  5. 確認結果(取引先の確認状が監査人に直接返送されず、会社や営業担当者を経由しているなど)
  6. 経営者の監査への対応
  7. その他(重要な取引に、能力または客観性に疑念のある専門家を利用しているなど)

 この追加調査によって不正の端緒があるかどうかを判断し、不正の端緒ではないと結論づけた場合は、その旨と理由を監査調書に記載する。不正の端緒ではないと判断できるのは、そのために「十分かつ適切な監査証拠を入手した場合」だけで、金融庁では「そのような明確に白だといえる監査証拠を入手できない場合は、不正の端緒として扱う」としている。

 追加の監査手続きによって不正の端緒が認められる場合は、監査証拠の入手のために監査計画を見直し、より徹底した調査や監査法人によるモニタリングを実施する。不正の端緒を発見した場合、監査法人の承認があるまでは監査人は監査意見を表明せず、企業の監査役に相談、連携して調査することも求める。

監査契約の引き継ぎにも手続き

 考え方では、監査法人の品質管理などについても手続きを示している。監査法人が企業と監査契約を新規に結ぶ場合、または更新の際には、不正リスクが存在するかどうかを検討しないといけないと記載。また、監査契約を別の監査法人から引き継ぐ場合は、不正リスクに対応するため、前任の監査人は不正の疑いのあった項目や争点となった項目を後任の監査人に伝え、関連する調書の閲覧にも応じないといけないとした。また、後任の監査人には監査法人交代の経緯などを前任の監査人から聴取することを求める。

 金融庁では今回の「考え方」をベースに不正対応基準をとりまとめる意向だ。だが、部会では、監査の作業が増えて監査計画通りに進まない懸念などが語られた。また、「不正による重要な虚偽表示の端緒を示す状況の例示」についてはチェックリスト化するとの指摘もあった。金融庁は10月中にも次回の監査部会を開催し、審議を続ける予定だ。

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