監査法人の引き継ぎをより厳密に、不正リスク対応基準がまとまる財務諸表監査の実効性向上を狙う

「財務諸表監査における不正による重要な虚偽表示のリスク」を不正リスクと定義し、適切な監査が行われるようにその手続きを明確化した。

2013年03月18日 20時00分 公開
[垣内郁栄,TechTargetジャパン]

 金融庁の企業会計審議会監査部会は3月13に開催した部会で、企業の不正会計などに対応した「不正リスク対応基準」をとりまとめた。財務諸表の虚偽記載などの不正リスクが認められる場合の監査手続きを記述した内容。2011年のオリンパス事件以降も企業の不正会計事件は相次いでいて、金融庁は「見過ごすことができない」としている。不正リスク対応基準で財務諸表監査の実効性向上を狙う。

 不正リスク対応基準の正式名称は「監査における不正リスク対応基準」。「財務諸表監査における不正による重要な虚偽表示のリスク」を不正リスクと定義し、適切な監査が行われるようにその手続きを明確化した。

 不正リスク対応基準の柱は3つだ。1つは「職業的懐疑心の強調」。監査人に対しては現行の監査基準でも「職業的専門家としての正当な注意を払い、懐疑心を保持して監査を行う」ことを求めるが、不正リスク対応基準では「より注意深く、批判的な姿勢で臨むことが必要」としている。

 2つ目は「不正リスクに対応した監査の実施」。監査人に対して財務諸表に不正リスクがあるかどうかの確認を求め、不正リスクの可能性がある場合は監査計画の修正などを要求する。不正リスクの有無を判断するため、典型的な不正リスクの要因を記した例示や、虚偽表示を示唆する状況の例示なども付録として付ける。企業の財務諸表に例示にあるような状況が認められる場合、監査人は不正リスクに対応した監査計画の策定と監査手続きの実施が求められる。

 財務諸表の個別項目だけではなく、財務諸表全体に不正リスクがある場合は、監査計画の修正とともに、いわゆる「抜き打ち監査」など「企業が想定しない要素を組み込むことが有効」としている。

 その他、企業の監査役との連携についても明記した。監査人に対して監査の各段階で監査役と協議することを求める。特に不正リスクが疑われる場合は、監査役に速やかに報告することを定め、監査手続きなどについて協議することとしている。

 3つ目の柱は「不正リスクに対応した監査事務所の品質管理」。不正リスクに対応する場合に注意すべき点を明記した。監査の品質管理に関して方針と手続きを定めることを要求。「不正リスクに対応する品質管理の責任者を明確にしなければならない」などとした。新規で監査契約を結ぶ場合のリスク評価についても厳密にすることを求める。

 品質管理で、特に強調しているのが「監査事務所間の引き継ぎ」。オリンパス事件では、前任の監査法人が把握していた不正リスクについての情報が、後任の監査法人に適切に伝えられていれば、早い段階で虚偽記載が判明していた可能性がある。不正リスク対応基準では監査法人が交代する場合、前任の監査法人から後任の監査法人に対して、不正リスクへの対応状況や、企業との間で起きた意見の相違などを伝えることを求める。また、後任の監査法人から調書閲覧の要請があった場合は、前任監査法人は応じなければならないとした。

 不正リスク対応基準は3月26日開催予定の企業会計審議会総会で承認される見通し。2014年3月期決算の監査から適用する。そのうち「不正リスクに対応した監査事務所の品質管理」は2013年10月1日から適用する。

 監査部会で議論されながらも不正リスク対応基準に盛り込まれなかった論点の1つは「循環取引」など複数の企業が関わる不正への対応だ。監査部会では監査人が取ることができる対応として取引先企業の監査人との連携が議論されたが、「解決すべき論点が多い」として今回の不正リスク対応基準には含まれなかった。審議会では今後も循環取引への対応について検討を続けるという。

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