[Analysis]

ブログの功罪

2005/12/06

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 先日、ソニーの新型ウォークマン Aシリーズの体験日記ブログ(「ウォークマン体験日記」)が400通を超えるコメントによって炎上し、閉鎖に追い込まれた。この事件は企業の製品キャンペーンとブログの関係を考えるうえでたいへん示唆に富むものだった。

 問題のブログの文章(および写真)には奇妙な矛盾があった。まずは、読者にこれを指摘された。その後、記事は米アップルのハードウェアを貶(おとし)め、WindowsOSが搭載されたノートPCを褒める方向に展開、それが多くの読者の反感を買った。読者はそのブログの背後にソニーマーケティングの新製品プロモーションという作為を読み取った。

 しかし、So-netを運営するソニーコミュニケーションネットワークは、今回の事件をこのように説明している。「今回、モニター体験レポートを主なコンテンツとしたブログ企画を実施するにあたって、ソニーマーケティング(株)より製品を貸与しておりますが このブログ内の体験レポート記事は、あくまで『個人の体験』に基づくものです。評価、感想等は人によって異なりますので、あくまで参考程度にしてください」

 社団法人 日本広告主協会 Web広告研究会は、同研究会が実施した「ブログ書き込み調査」の結果から、ブログのマーケティング活用に期待を持っていることを明らかにしている。「商品を根づかせたりさらに盛り上げることができそうだ(キャッチ&リリースではなく、キャッチ&キープ)」と同研究会はブログの効能を分析している。ファンが自発的に製品の感想を書き込み、そのファン同士が積極的にコミュニケーションを行うという正の循環が回り始める時、そのコミュニティは企業にとって値千金の販促ツールとなりえる。しかし今回の事件のように、負の循環ができあがることもある。情報操作を甘く見ると火傷をする。

 ところで、ブログのマーケティング活用の成功例としてよく引き合いに出されるのは日産自動車の「TIIDA BLOG」だ。同ブログは担当者の山本氏が編集責任者の立場をとり、顧客へのインタビューや試乗の感想、機能面の解説など多面的な角度から製品(TIIDA)を紹介するコンテンツ作りを行っている。同ブログはなぜ成功したのだろうか。いくつかの要因が考えられるが、今回特に指摘したいのは、(日産自動車による)製品プロモーションという要素を明らかにした点だ。

 ブログに限らず、Webサイトを活用したマーケティング戦略は年々複雑になっている。消費者をある特定の消費行動に移らせる巧緻な仕組みが次から次へと開発されている。このような状況の中で、企業(広告代理店、PR代理店、出版社、Webメディアなども含む)は消費者の存在を軽く見る傾向にある。今回の事件は、その1つの象徴だといえる。

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