[Analysis]

熱狂的に学んだテクノロジが衰退する理由

2007/03/19

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 技術分野に特化した投資活動をする際、大まかな技術的流れを把握することは欠かせない作業である。過去からのトレンドとその後を検証することは未来の同行に関する示唆に富むことが多い。

 さて実用的マッシュアップサイトがぽつぽつと出現している昨今、そういえば、CORBAって最近話題に上らないなぁと思い至った。多少なりとも定量的に検証するため、Amazonの和書で“CORBA”をサーチしてみると、28件がヒットする。本の出版年を見ると1996から2001年であり、2002年以降出版されたCORBAの本は見当たらない。同じく、国産分散オブジェクト技術であるHORBは、ヒット1件で2002年が最後。MICOも2000年出版の1件のみである。

寂しい検索結果

 誤解のないように断っておくが、CORBAは、現在もOMGにおいて改訂が続けられている現役のテクノロジである。しかしながら、明らかにそのブームの中心は2000年近辺にあった。しかし、その後、学習するべき対象としては急速にその重要度を落としていったといえる。同様なことは、ほかの分散テクノロジー技術であるJINI、HORB、DCOMにも共通していえる。DCOMにいたってはGoogle検索してトップに出るのが「DCOMを無効にする方法」サイトなのだ。

 それでは、分散型システムアーキテクチャ全般が廃れたのかというとそんなことはない。昨今話題のSOA流行の中心時期は2006年である。現時点における分散型アプリケーションはSOAに基づいて、SOAP/REST(Representational State Transfer)でやりとりするWebサーバ上に構築されたアプリケーションで、Google/Amazonが公開しているAPIのように、メッセージングまでも隠蔽してスクリプトAPIになっているものも少なくない。

30センチ先の問題を解決しない

 だが、CORBAのようなトランザクション可能なテクノロジから見れば、現在のWebでの中心技術は方向性としてはステートレス。より単純な技術を定義がはっきりしないSOAというターミノロジーでごまかしているわけで、あれほど基本がしっかりしており、学者が議論をつくし多くの人が熱狂的に学んだテクノロジはなぜ普及期において主流の地位をつかみ損ねたのであろうか?

 CORBAに関してはファイアウォール/HTTP透過性、処理の重さなどさまざまな指摘があるが、個人的には「30センチ先の問題を解決するテクノロジではなかった」ことが大きいと思われる。

 人は億劫(おっくう)な動物で、今いる場所から動きたがらない。30センチ以上先の物を取ってくるのは面倒だ。システム構成やソースコードはいじりたくない。使用頻度の高いものであれば、高度な習熟が必要な操作もいとわないが、たまにしか使わない機能は極めて簡略でなければたちまち使われなくなってしまう。

 インテルアーキテクチャ普及期の昔から、コンピュータ業界では主流テクノロジに、付け足しを繰り返しながら進展してきた。漸進的なテクノロジこそ本流なのだ。

漸進的に進化する技術にブレークスルーは

 外部から呼び出し可能なWebサービスに関しても、その機能を付け加えるためにCORBAのような難しい体系を勉強したくない。できれば、既存の知識のチョットした延長で付加機能が実現できればハッピーなのだ。であればただ単に既存のWebサービスをREST化すれば良いわけで、実際ロールバックが不可欠なクリティカルなアプリケーションに比べれば、そんな必要もないサービスがほとんどなのだ。

 そして、結果的に技術に精通したエンジニアが育つこともなく、本当に必要な時にしか利用されなくなってしまう。同様なことは数多くのリッチクライアントソフトが廃れAjaxが流行った現象にも現れていると思う。

 「30センチ先の問題」を解決し、漸進的に進化する主流技術。だが一方で、まったく新しいブレークスルーもそろそろ欲しいんだよねぇ。そろそろなにか現れないかなぁ。

(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)

[著者略歴]

学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1-2- 3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ



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