[Analysis]

ストールマンは正しかった

2007/05/28

 1999年、来日中だったGNUプロジェクトの創始者、リチャード・M・ストールマンにインタビューをしたことがある。移動のタクシーの中で無理に捕まえて話を聞いた。当時の私はDebian GNU/Linuxのユーザーで、GNUソフトウェアやフリーソフトウェアファウンデーションに対してシンパシーを感じていた。

 プログラマにとってソフトウェアは空気のようなものだ。だから、日頃からそれを呼吸するように読んだり書いたりできる環境が大切だ――。私はプログラマではないが、そういうGNUの思想には共感するところが大きかった。「英語のfreeには無償という意味が強いが、私の言うfreeは日本語のジユウに近い」。ストールマンは、そう語りながら、“ジユーナ”(自由な)という日本語の単語を連発した。

 そうしたストールマンの話に感じ入る一方、彼の語る理想の世界像にはリアリティがなくて話にならないなとも思った。

 「しかし、企業というものがなければ経済は成り立たないではないですか」と私は問いかけた。企業というものが社会に必須とは限らないと彼は答える。「お金が回らなければ社会の効率が悪い。無償のソフトウェアばかりになってしまったら、経済活動はどうなるのか」と問うと、ストールマンはサポートや関連書籍でお金を稼げばいいという。浮世離れした彼の言動や、新興宗教の教祖のような風貌と相まって、私には彼の発言が荒唐無稽に感じられた。

 サポート業務でソフトウェア産業が成り立つわけがないし、そもそも誰がEmacsやPerlの使い方について電話で問い合わせたりするのか。あるいは、オフィスソフトのサポートで誰がお金を払うだろうか。そう思った。私はIT関連の出版社に身を置いていたので、関連書籍市場の小ささも知っていた。

サポート関連の市場が急成長

 それから約8年が経った。先週、サイオステクノロジーの発表会に出席し、「ストールマンは正しかったのかもしれない」と内心でつぶやいた。サイオステクノロジーはOSやミドルウェアといった主要なOSSを、多様な組み合わせで導入・運営支援するサポートする業務を開始した(参照記事:サイオス、「OSSよろず相談室」でサポート業務強化)。OSSのサポートサービスは、急成長の市場だ。部分的ではあれストールマンの語ったモデルは正しかったことになる。

 もちろん、これまでにもオープンソースで大きなビジネスを展開する企業はあり、ライセンス販売による収益モデルではなく、サポートを収益源としていた。しかし、サポート業務、それもOSやソフトウェアの種類を特定せず、多様にラインアップして行うというサービスの登場は新しい動きだ。

 かつてハッカーのオモチャと冷笑されたOSSが、複雑肥大化する企業のITシステムに入りつつあることが、サポート業務を現実的なビジネスにしている。ストールマンは、ITが高度情報社会のインフラとして社会に入っていく姿を予見していて、そのときに社会全体で開発効率がいい(いい換えると競争力がある)のはオープンソースモデルであると見抜いていたのだろうか。

 すべてのソフトウェアがオープンソースになるとは考えづらいし、オープンソースの中でも最右翼のGPLだけがライセンス形態として残るとも思わない。しかし、ストールマンが始めたフリーソフトウェアムーブメント(=オープンソースムーブメント)が、ほとんど四半世紀を経て世の中を変えつつあるという事実に、改めて驚くほかない。

(@IT 西村賢)

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