[Analysis]

憎まれっ子「YouTube」の功績

2007/06/04

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 「Flash Videoの一番の火付け役はYouTubeだ。広いリサーチで多くの人に見てもらえる。しかし、誤解も広がった……」。アドビ システムズのマーケティング本部 Web&ビデオ部 部長の古村秀幸氏は6月1日の記者会見で述べた。YouTubeの功績を認めながらも、「YouTubeがクオリティを下げて配信しているために、Flash Videoの画質も悪いという誤解が広がった」と迷惑顔だ。

 YouTubeは業界の憎まれっ子である。著作権を無視したテレビや映画のコンテンツがアップロードされていて、ブログに引用されている。YouTubeというかグーグル側は対策を約束しているが、それが確実になるのはいつになるかは、分からない。また、世界中の人がYouTubeにアクセスするため、通信会社の帯域が不足している。日本や米国では、「インターネットただ乗り」についての批判の声が渦巻く。

 しかし、この憎まれっ子は多くの功績を残している。1つは冒頭に挙げたようにFlash Videoの認知度が格段に上がったことだ。専用のクライアントをダウンロードしたり、コンテンツをダウンロードしなくても、Webブラウザを使ってカジュアルに動画コンテンツを見るという行動に私たちは慣れてしまった。もう専用クライアントをよいしょっと立ち上げる時代には戻れないのではないだろうか。

 もう1つは、テレビや音楽、映画などのコンテンツ業界が動画配信の可能性に気づいたことだ。YouTube以前のコンテンツ業界はこれまでのビジネスモデルを大切にするあまり、動画配信には消極的だった。しかし、YouTubeが大声で彼らの安眠を破った。コンテンツ業界にとっては迷惑だったかもしれないが、無理やり次世代のビジネスモデルを真剣に考えざるを得なくなった。あるコンテンツプロバイダーはYouTubeと提携し、ともに発展する道を選んだし、あるコンテンツプロバイダーはほかの動画配信サービスの可能性を探る。受け皿となるのは、豊富な広告関連機能を持つとされる「Joost」や、アドビの「Adobe Media Player」だ。

 日本のコンテンツ業界からも憎まれるYouTubeは、日本ではマッシュアップサービスを生み出した。「ニコニコ動画」や「字幕.in」、はてなの「Rimo」などだ。日本のコンテンツ業界はまだ眠っているのかもしれないが、これらのマッシュアップサービスが次々に登場してきたのは、ユーザーとしてうれしい。

(@IT 垣内郁栄)

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